Cancer Research Institute,Anna-Maria Kellen Clinical AcceleratorのVanessa M. Hubbard-Lucey氏らは、急速な普及とめまぐるしい変化が続いているがん免疫療法の全体像をまとめ、2017年12月7日、Annals of Oncologyオンライン版に発表した(同誌2018年29巻84ページ)。開発したデータベースを駆使し、科学的根拠に基づく状況分析からいえることは、がん患者とその家族らが参加するがんコミュニティを含め、組織横断的な情報交換に基づく協力的な取り組みが、がん免疫療法の研究開発と治療法の最適化を推進する近道になるということであった。
目次
米国で承認されているがん免疫療法薬は26品目、対象は17がん種
免疫チェックポイント阻害薬イピリムマブ(商品名ヤーボイ)が2011年に登場して以来、2017年9月までに、米国で承認されたがん免疫療法薬は26品目で、治療選択肢として少なくとも1つのがん免疫療法薬が承認されているがんは17種である。26品目を作用メカニズムにより6つのカテゴリーに分けると、CTLA4やPD-1/PD-L1標的のT細胞修飾薬が6品目、他の免疫修飾薬が8品目、がんワクチンが7品目、細胞治療が2品目、腫瘍溶解性ウイルスが2品目、CD3標的バイスペシフィック抗体が1品目である。実績のある医師や研究者でさえも、急速に変化するがん免疫療法の最適な選択肢を提案することは困難な状況にある。
臨床試験段階のがん免疫療法は940品目、臨床試験は3042本のうち1105本がPD-1/PD-L1標的薬を用いた併用療法試験
データベースは、2017年9月をカットオフとして2種開発された。1つには、開発中の計2004品目のがん免疫療法薬が含まれ、そのうち臨床試験段階にあるのは940品目、前臨床試験段階は1064品目、創薬の標的としている分子は303種で、開発企業数は864社であった。もう1つのデータベースは臨床試験に関するもので、試験数は計3042本、目標登録患者数は計577076例であった。がん免疫療法の開発に企業や研究機関がしのぎを削っている現状が明らかとなった。
臨床試験段階にある940品目について、標的は特定の分子に偏り、ほぼ半数の候補品の標的分子が40種に集中していることが判明した。例えば、PD-1またはPD-L1を標的とする候補は164品目あり、そのうち臨床開発段階にある50品目のうち34品目がモノクローナル抗体である。同じ標的のモノクローナル抗体でも、開発の過程で有効性と安全性の差別化ができる可能性はあるが、現実的に、PD-1またはPD-L1を標的とするモノクローナル抗体5剤がすでに承認を取得しているにもかかわらず、開発候補の標的分子が重なりがちであることが分かった。
また、PD-1/PD-L1標的薬を用いた併用療法試験の空間は混雑し、バラバラでまとまりがなく、試験薬が重複していることも少なくない。PD-1/PD-L1標的薬を用いた併用療法試験は1105本あり、そのうち、すでに承認されているPD-1/PD-L1標的薬5剤を試験薬としているのが1056本、残り49本が未承認の候補であった。併用パートナーは他の免疫療法薬が最も多く、次いで分子標的薬、化学療法薬、放射線治療、化学放射線治療などであった。
過去5年間で併用療法試験は急速に増加し、2017年だけでも469本が開始され、目標登録患者数は52539例にのぼる。PD-1/PD-L1標的薬の併用パートナーが標的とする分子は165種あるものの、やはり併用パートナーの重複は際立っており、CTLA-4標的薬をパートナーとする試験が271本、化学療法薬を用いた試験は170本であった。
がん免疫療法薬の臨床試験は従来の伝統的な試験デザインとは相性が悪く、医師主導治験で進められることも多いが、単一施設で行われる小規模試験では十分な患者数を集めることが困難なため、試験結果の質に疑義が生じる可能性がある。複数の企業が同じ標的分子で追及する従来の試験でも限界が見えている。多くのバイオ医薬品企業はアンブレラ、バスケットといった試験デザインを取り入れているが、自社の開発候補品のみを試験薬とする傾向はまだ強い。
新しい試験デザインと組織横断的で柔軟な情報交換の枠組みの必要性
米国食品医薬品局(FDA)は2017年、複数の薬剤を評価する試験、複数のがん種を対象に評価する試験、あるいは複数薬と複数がん種を組み合わせる試験のマスタープロトコールを発表した。共同試験や新規の試験デザインを紹介する概要で、アンブレラ、バスケット、またはプラットフォームデザインといった試験は、協調して取り組む機会を増やし、治療の革新を後押しするものと考えられる。
Hubbard-Lucey氏らは、革新的な免疫療法の開発を効率的に推進する仕組みを確立するために、複数の企業、複数の施設を橋渡しする政府主導組織と非営利組織が重要な役割を果たすことに期待している。また、がん免疫療法に特化した公的な情報拠点とコミュニティに科学的な情報を提供することの重要性を提唱している。Cancer Research Institute(CRI)では、がん免疫療法に関連する様々な情報を取得可能にするウェブサイトを立ち上げ、定期的に更新する情報分析を実施する計画で、コミュニティとの情報交換を介した協力活動による包括的な情報拠点の構築を目指している。