小児やAYA(Adolescent and Young Adult)世代のがん患者は、標準治療が効かなかった場合の次の治療選択肢が成人患者より圧倒的に少ないため、医療者、患者双方ともその後の治療方針で壁に直面する。
米国国立がん研究所(NCI)のNita Seibel氏が代表を務める官民連携の共同研究チームNCI-COG Pediatric MATCH(National Cancer Institute-Children’s Oncology Group Pediatric Molecular Analysis for Therapy Choice)は、腫瘍のDNA、およびRNAサンプルを用いた遺伝子解析で個別の遺伝子異常を検出・特定し、その異常を標的とする薬剤を探索したところ、中間解析時点で予想を上回る24%の患者が10種いずれかの薬剤に適合した。そのうち一部の患者は、すでに個別の治療を開始している。
同研究成果は、2019年5月31日から6月4日まで米国シカゴで開催される米国臨床腫瘍学会(ASCO 2019)で、Baylor医科大学のDonald Williams Parsons氏が口演発表する予定である。
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目標登録1000例以上のPediatric MATCH試験
NCI-COG Pediatric MATCH試験は、がん種を問わず、標準治療が効かなかった小児、およびAYA世代のがん患者1000例以上の登録を目標としている。まずはOncomineがん遺伝子パネルを用いたスクリーニングプロトコルで、腫瘍遺伝子の変異や増幅、融合といった異常を検出する。特定の遺伝子異常を標的とする未承認薬を含む薬剤の研究報告を十分に検証した上で、有効性が見込める適合薬が見つかった患者は第2相段階であるPediatric MATCH試験に登録している。
2017年7月24日から2018年12月31日までに登録された422例は1歳から21歳(年齢中央値13歳)で、そのうち101例は脳腫瘍、300例はその他の固形がんで、残り21例はリンパ腫、または希少な免疫疾患である組織球性の悪性腫瘍であった。
10種の薬剤を初めて小児患者に投与
遺伝子解析のための腫瘍サンプルを提供した390例について、選択した標的薬が治療に使えるかどうかを調べるため、160種を超える遺伝子パネルと照合した。以下の10種の薬剤が選ばれ、今回の研究で初めて小児に投与されたことになる。
(1)ラロトレクチニブ- NTRK標的薬
(2)エルダフィチニブ- FGFR標的薬
(3)タゼメトスタット- EZH2、SWI/SNF標的薬
(4)LY3023414- PI3K/MTOR経路標的薬
(5)セルメチニブ- MAPK経路標的薬
(6)エンサルチニブ- ALKまたはROS1標的薬
(7)ベムラフェニブ- BRAF標的薬
(8)オラパリブ- DNA修復欠損標的薬
(9)パルボシクリブ- 細胞周期遺伝子標的薬
(10)ウリキセルチニブ- MAPK経路標的薬
遺伝子解析対象390例中、解析を完了したのは357例(92%)で、112例(29%)が上記10種中いずれかの薬剤に適合し、95例(24%)の治療薬が決定した。2018年末までに、39例(10%)が治療を開始した。
標的薬に適合する遺伝子異常を持つ患者の割合は、脳腫瘍患者の40%以上、他の固形がんやリンパ腫、組織球悪性腫瘍患者の25%以上であった。またその割合は、年齢層別の有意差はなく、12歳未満で35%、12歳以上では25%であった。遺伝子異常の種類は様々で、最も多かったのがMAPK経路の変異で41例、次いでRAS遺伝子変異が16例、BRAF遺伝子の変異または融合で14例、SMARCB1遺伝子の変異または欠失で14例、NF1遺伝子変異の11例などであった。その他、ALKやCDK4、PIK3CAなど、検出された患者が10例未満であった遺伝子異常も数多く検出された。
血液での遺伝子異常検出と治療選択肢を増やす研究拡大へ
同研究では、今後、血液サンプルを用いた遺伝子解析も実施する計画。腫瘍から検出された変異などの異常が遺伝性のものかどうか、対象患者の家族も対象とする遺伝的評価の必要性などを検討するとしている。目標登録1000例以上を目指すとともに、対象例の増加で検出される遺伝子異常の種類が増加することを想定し、すでに適合薬として4剤を追加したが、さらに新たな標的薬も追加する。併用療法や免疫療法も遺伝子異常に対応する標的薬として活用する計画である。