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再発後の予後をはっきり伝えてもアイコンタクトで満足感や医師との信頼感が高まる

 がんが再発・転移した患者から予後を聞かれたとき、「余命1年」などと数字ではっきりと伝えるべきかどうか、どういう伝え方が望ましいのか。医師の側も悩んでいるのが現状だ。日本がん支持療法研究グループ・J-SUPPORTが、10月18日、東京・築地で「がんと向き合える世界をつくろう!!! ~支持・緩和・心理研究の最前線から~」をテーマに、患者・家族や市民を対象にした研究成果報告会を開催。「予後の伝え方を含むコミュニケーションについて考えよう」のセッションでは、聖隷三方原病院臨床検査科医長で緩和ケアチームの森雅紀氏が、「今後の見通しについての医師からの望ましい説明に関する研究」(J-SUPPORT1601)の結果を発表した。

目次

乳がん患者に4種類のビデオを見せ、満足感の高い伝え方を検証

「がん再発時に予後を医師が患者さんにどのように話すか、この研究は、2つの臨床疑問の答えを見つけることを目的に行われました」と森氏は話す。


森 雅紀 氏

 その臨床疑問とは、一つは「平均的な数字を用いてはっきり伝えるべきか」、もう一つは「目を見て伝えるべきか」といった点だ。研究では、手術を受けて1年以内で再発のない乳がん患者105人(平均年齢53.8歳)に4種類のビデオを無作為に順番を変えて視聴してもらい、不確実感、満足感、医師への信頼感と共感性を調査した。

 ビデオには、乳がん患者と夫、医師が登場する。乳がんの再発を告げられた患者が「先生、どれくらい生きられますか。小さい子どもがいるので知っておきたいのです」と質問する。医師の側の説明は、(1)「半数は2年後も生きられている一方で、半数の方はお亡くなりになります。とてもいい場合は4年くらいかもしれません」と数字を入れて明確に伝える(明確さ+)、(2)「それは誰にもわからないんですよ」とあいまいに伝える(明確さ-)の2パターン。この(1)と(2)のそれぞれに、患者とアイコンタクトしながら伝えるバージョン(アイコンタクト+)と、電子カルテの画面ばかり見て患者の目を見ないバージョン(アイコンタクト-)の4種類のビデオを作成し視聴させた。

予後の説明内容に関わらずモニターばかり見ている医師への信頼感は低い

「一つ目の臨床疑問である予後を数字を用いてはっきり伝えるかべきかについては、伝えないより伝えたほうが、患者さんの満足感は高まることがわかりました」と森氏。

 また、数字を用いてはっきり伝えたかどうかに関わらず、適度にアイコンタクトしながら説明したほうが、医師への信頼感と共感性は格段に高まることが示された。一方、数字を用いて予後を伝えてもあいまいに伝えても不安感は高まらず、事前に自分で身の回りのことができなくなったときにどうするかなどを決めておく「アドバンス・ケアプランニング(ACP、人生会議)」への意向にも差は出なかった。

「いろいろな治療法が出てきているので予後がわからないことも多いのですが、患者さんが希望するなら、数字を用いて予後を説明すると不確実性が減り満足感が高まります」と森氏は強調した。

アイコンタクトを使っての説明の実装化へ

 このセッションの後半では、同研究に協力した一般社団法人CSRプロジェクト代表理事でがんサバイバーの桜井なおみ氏を司会に、森氏と共同研究者の国立がん研究センター社会と健康研究センター行動科学・サバイバーシップ研究グループ健康支援研究部特任研究員の藤森麻衣子氏が、Q&Aトークセッションを行った。

「私も乳がんの手術から3年後に再発を経験しましたが、主治医の先生がアイコンタクトを取り、どう思うか確認しながらじっくり説明してくれました。血が逆流するほどショックな中で、しっかり寄り添ってくれる自分の味方がいるんだというのは本当に心強いことです。アイコンタクトは、明日からできるヒントにつながるのではないのでしょうか」

 そう話す桜井氏は、「主治医の先生がモニターばかり見ていて自分を見てくれない」との患者さんからの相談には、「モニターの前に顔を出して、『私を見てください』と言ってみたら」とアドバイスしているという。

 藤森氏は、「目を見て患者さんの様子を見ながら話すことで、医師の側は患者さんの気持ちの動きも推し量ることができると思います。患者さんの方も先生の顔を見ることで、先生が自信を持って話してくれているかなど確認できます。アイコンタクトは、一方的ではなくお互い理解し合おうということを伝える第一歩ではないでしょうか」と話した。

患者がどこまで伝えてほしいか、個人差も考慮を

 トークセッションの中で桜井氏は、「乳がんと膵がんの患者さんでは、結果が異なるのではないか」と指摘。森氏は、「なかなか難しい問題ですが、この研究結果から言えるのは、数字を伝えるかどうかよりも一番必要なのは目を見て伝えていくことです。がん腫というよりも患者さんによって個人差が大きいと考えられます。なぜ予後について聞いているのか、どういうことを伝えると聞かれたニーズに応えられるか、患者さんの背景を探りながら個別に対応するしかないのではないかと思います」と回答した。

 J-SUPPORTでは、研究成果の実装化を目指している。この研究の成果の臨床応用について藤森氏と森氏は、次のように話した。「私は臨床心理士で心理学の専門家として、医師のコミュニケーションの研修会などに関わることがあります。再発を伝えることは治療医にとっても大きなストレスになりますが、目を見て伝えることがいかに大切か、ロールプレイで体験していただいて広めていきたいです」(藤森氏)

「この研究によって、以心伝心を大事にする日本の患者さんに対しても、数字を出してはっきり予後を伝えることがだめなわけではないとわかりました。患者さんによっては具体的に知りたい人もいます。アドバンス・ケアプランニングの概念も出てきていますから、一人ひとりの患者さんの目を見て話し合い、感じ合っていくことが大事です。医師と患者さんの会話が進んでいくきっかけになればいいと思います」(森氏)

 最後に、患者の立場から桜井氏が、「私は、医療は誠実であってほしいと思っています。その第一歩として、先生方には、患者の目を見て話すことから始めていただきたいです」と会場の医療者に呼びかけ、トークセッションが終了した。
(取材・文/医療ライター・福島安紀)

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