5月31日、近畿大学は、原発不明がんに対する免疫チェックポイント阻害薬ニボルマブ(製品名オプジーボ、以下ニボルマブ)の有効性を検討した第2相の医師主導治験(NIVOCUP試験)において、その有効性を世界で初めて確認したと公表した。
この成果は、同大医学部内科学教室(腫瘍内科部門)講師の林秀敏氏を中心とした研究チームによるもの。2020年5月29日~31日にかけてバーチャルミーティングとして開催された米国臨床腫瘍学会(ASCO 2020)の「Special Clinical Science Symposium」内にて、筆頭著者である同教室助教の谷崎潤子氏がオンラインで発表した。
他のがんと比べて治療開発が進んでいない原発不明がん
原発不明がんは出元が見つからないまま、リンパ節や肝臓などへの転移のみが出現し、全身に広がる。原発不明がんは全がん患者の2~5%であり、一般的にその予後は非常に悪い。また、診断の難しさやさまざまな病態の患者が含まれる集団であるなどの特徴により、他のがんと比べて治療開発が進んでいない。
ニボルマブなど免疫チェックポイント阻害薬は、多数のがん腫において標準治療の一部となっているが、原発不明がんにおける同剤の効果は、少数例の報告があるのみだった。近畿大学医学部内科学教室(腫瘍内科部門)は、原発不明がんにおける免疫プロファイリングを解析し、その結果から原発不明がんにおいても免疫チェックポイント阻害薬の効果が期待できる可能性を2019年に論文で報告している。
こうした背景から、原発不明がん患者に対するニボルマブの医師主導治験となる第2相臨床試験である「NIVOCUP試験」が近畿大学医学部内科学教室(腫瘍内科部門)〈主任教授 中川和彦氏、講師 林秀敏氏、助教 谷崎潤子氏〉および近畿大学病院臨床研究センター(センター長・教授 福岡和也氏、准教授 千葉康敬氏(統計解析責任者)、木寺康裕氏(科長代理・薬剤師)の主導により、国内10施設で実施された。同試験には、抗がん剤治療歴のある原発不明がん患者(既治療群)45人と、抗がん剤治療歴のない原発不明がん患者(未治療群)11人の合計56人が参加した。
プラチナ製剤+タキサン製剤併用療法と比較して良好な結果も
その結果、主要評価項目である既治療群の奏効率は22.2%(95%信頼区間:11.2-37.1%)で同試験の主要評価項目を達成。また、既治療群の無増悪生存期間(PFS)の中央値は4.0ヶ月(95%信頼区間:1.9-5.8ヶ月)、6ヶ月時点での無増悪生存率(PFS rate)は32%、生存期間中央値は15.9ヶ月(95%信頼区間:8.4-21.5ヶ月)だった。
未治療群における奏効率は18.2%(95%信頼区間:2.3-51.8%)、無増悪生存期間中央値は2.8ヶ月(95%信頼区間:1.1-6.5ヶ月)、6ヶ月時点での無増悪生存率は27%、生存期間中央値は未到達(95%信頼区間:2.6ヶ月-未到達)であり、過去に報告されている化学療法による治療成績と比べ、有効な治療成績が認められた。
また、同試験では原発不明がんにおいてもPD-L1発現が高い患者で治療効果が高いことが世界で初めて示され、ニボルマブの治療効果(奏効率、無増悪生存期間、全生存期間)が関連することが示されたという。
この試験で示された既治療群のニボルマブ奏効期間は12.4ヶ月(95%信頼区間:2.8ヶ月-未到達)で、実地医療で最も頻用されるプラチナ製剤+タキサン製剤併用療法の奏効期間中央値の報告(約4~7ヶ月)と比較して良好な結果だった。ニボルマブの最大の臨床的特徴として長期間にわたる奏効持続がもたらす延命効果があるが、これが原発不明がんでも期待できる可能性が示されたことも重要なポイントとしている。
今回の研究成果について、プレスリリースでは、「本試験は世界で初めて報告された原発不明がんに対しての有効性を報告した医師主導治験であり、この結果から今後ニボルマブが原発不明がんの標準治療となることが期待されます」と述べられている。
参照元:
近畿大学 ニュースリリース