がん情報サイト「オンコロ」

AYA世代に多い胞巣状軟部肉腫に対する免疫チェックポイント阻害薬アテゾリズマブの医師主導治験を開始

11月5日、国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院は、胞巣状軟部肉腫に対して免疫チャックポイント阻害薬であるアテゾリズマブを投与する医師主導治験として「切除不能胞巣状軟部肉腫に対するアテゾリズマブ療法の多施設共同第II相医師主導治験(試験略称:ALBERT)」を実施すると発表した。同試験は同院のほか、東北大学病院、国立病院機構大阪医療センター、九州大学病院にて実施される。

胞巣状軟部肉腫は、太ももなど下肢に発症することが多く、罹患者はAYA世代と呼ばれる若年者に多い。同症に対して根治が期待できる唯一の治療法は手術による完全切除であるが、診断の時点で約半数の患者は手術ができず、また有効性の高い薬物療法がないため、予後の厳しいがん腫である。2013年の年間罹患者数10例の希少疾患であることや、治験は成人患者のみであることが一般的であるため、小児やAYA世代は対象外となることが多く企業による治療開発が進みにくい現状がある。

ALBERT試験は16歳以上の日本人を対象とし、日本人でのアテゾリズマブの有効性を検証する。同試験で良好な結果が得られれば、肉腫で初となる免疫チェックポイント阻害薬の国内薬事承認につながると期待される。なお、同試験は、2019年に米国の国立がんセンターから報告された臨床試験の結果を参考に計画し、実施に至ったという。米国の試験では、胞巣状軟部肉腫患者(N=31人)にアテゾリズマブを投与し、10人の患者で腫瘍の縮小を認めていた。

国立がん研究センター中央病院は、希少がん領域における治療開発の推進のため、「希少がんセンター」を開設し、2017年より企業と共同で希少がんの研究開発・ゲノム医療を推進する「MASTER KEY(マスターキー)プロジェクト」を行っている。同院は、今回の試験を成功させることで、超希少がんの臨床試験計画や新薬開発手法の新たなモデルを構築し、希少がんの開発を加速化させることを目指すとしている。

胞巣状軟部肉腫とは
悪性軟部肉腫の約1%を占める希少がん。治療法は手術による完全切除が基本である。切除不能の場合は、分子標的薬であるスニチニブが推奨されているが、日本では適応承認は得られていない。同系統の血管新生阻害薬であるパゾパニブも効果が期待されているが、見解は得られておらず、免疫チェックポイント阻害薬も症例数が少ないため有効だと断言はできない。そのため、手術適応にならない胞巣状軟部肉腫に対しては緩和治療が基本となっている。

希少がんとは
10万人あたり6人未満の推定罹患率の疾患。年間の罹患数が100万人あたり数名程度のがんは超希少がんに該当する。全がん患者の9~22%が希少がん全体の罹患数と推定されており、それぞれの希少がんはさらに罹患者が少ないため研究・開発が進んでいない。

アテゾリズマブとは
抗ヒトPD-L1モノクローナル抗体という免疫チェックポイント阻害薬の1つ。がん細胞や免疫細胞発現したPD-L1やPD-L2はTリンパ球に発現する受容体PD-1と結合し、Tリンパ球のがん細胞に対する攻撃を抑制する。アテゾリズマブは、PD-L1とPD-1の結合を阻害することで、がん細胞への攻撃を高めがん細胞を減少もしくは死滅させることができると考えられている。

AYA世代とは
Adolescent&Young Adult(思春期・若年成人)のことを言い、約15~39歳の患者がこれにあたる。小児に好発するがんと成人に好発するがんがともに発症する可能性がある年代。

参照元:
国立がん研究センター プレスリリース

×
モバイルバージョンを終了