アストラゼネカ株式会社(以下、アストラゼネカ)は2018年7月2日、「切除不能な局所進行の非小細胞肺癌における根治的化学放射線療法後の維持療法」を効能・効果とした「イミフィンジ®点滴静注120mgおよびイミフィンジ®点滴静注500mg」(一般名:デュルバルマブ(遺伝子組換え)、以下、「イミフィンジ®」)の国内における製造販売承認を取得したことを発表した。
目次
統計的に有意義な全生存期間延長は、新たな標準治療を示唆
イミフィンジ®は、切除不能な局所進行(ステージⅢ)非小細胞肺がんに対する治療薬として承認された、本邦初の抗PD-L1ヒトモノクローナル抗体(抗PD-L1抗体)である。
PD-L1に結合し、PD-L1とその受容体であるPD-1との結合を阻害すること等により、抗腫瘍免疫応答を増強し、腫瘍増殖を抑制すると考えられている。
特に、腫瘍量を減少させ、がん抗原特異的なT細胞の細胞傷害活性を誘導させる放射線治療の後にイミフィンジ®を用いることで、より効率的に抗腫瘍免疫応答を回復し、がんの排除を促すことが期待できる。
切除不能な局所進行(ステージⅢ)の非小細胞肺がんは、同時化学放射線療法(CRT)による根治を治療目的としながらも、患者さんの89%はCRT後に病勢が進行、転移しており1、5年生存率は15%と報告されている2。
現在の標準治療は、CRT後の無治療経過観察に留まることから、新たな治療が強く望まれており、アストラゼネカが実施した患者調査3においても、不安の度合いが他のステージよりも有意に高いことが明らかとなった。
近畿大学医学部内科学腫瘍内科部門 主任教授である中川和彦先生は、次のように述べている。
「同時化学放射線療法(CRT)後のステージⅢ非小細胞肺がんを対象としたPACIFIC試験において、イミフィンジ®が延長した約11ヵ月の無増悪生存期間と、今後の詳細発表が待たれる、統計学的に有意な全生存期間の延長は、根治の可能性を広げる新たな標準治療の登場を示唆するものです」。
アストラゼネカ研究開発本部長の谷口忠明氏は、「同時化学放射線療法(CRT)の登場以降、約20年間に亘り治療の進展が見られなかったステージⅢ非小細胞肺がん治療において、イミフィンジ®が本邦初の抗PD-L1抗体として承認を取得したことを大変嬉しく思います。イミフィンジ®による治療が、患者さんにより高い治療効果と根治への希望をもたらすことを期待しています」と、述べている。
イミフィンジ®薬価収載前の無償提供
アストラゼネカは、治療選択肢が極めて限られている切除不能な局所進行の非小細胞肺がんにおける根治的化学放射線療法(CRT)後の維持療法として患者さんの緊急の要望にお応えするために、厚生労働省の定める「保険外併用療養費制度」のもと、本剤の無償提供を実施する。
無償提供は、適正使用の観点より、本剤開発治験実施医療機関等の限定された医療機関において、承認された効能・効果、用法・用量に従ってのみ使用すること、無償提供期間中に弊社が実施する市販直後調査に準じた活動を含む適正使用推進等の各種安全対策にご協力いただけることを条件に実施する。
また、提供は製造販売承認取得日以降速やかに開始し薬価収載前日に終了する。
イミフィンジ®について
イミフィンジ®は、切除不能な局所進行非小細胞肺がん治療薬として承認された、本邦初の抗PD-L1ヒトモノクローナル抗体(抗PD-L1抗体)。
PD-L1に結合し、PD-L1とその受容体であるPD-1およびCD80の相互作用を阻害することで、腫瘍の免疫逃避機構を抑制し、抗腫瘍免疫反応を誘発する。
海外では、2018年2月に白金製剤を含む同時化学放射線療法 (CRT) 後に病勢進行が認められなかった切除不能なステージⅢの非小細胞肺癌(NSCLC)に対する治療薬として米国FDA(食品医薬品局)で承認を取得し、さらに2018年5月にカナダ、2018年6月にスイスおよびインドで薬事承認を取得している。
現在、イミフィンジ®は、非小細胞肺がん、小細胞肺がん、尿路上皮がん、頭頸部がん、肝細胞がんならびにその他の固形がんの1次治療として、単剤療法ならびに、化学療法、放射線療法、低分子化合物および抗CTLA-4モノクローナル抗体であるトレメリムマブとの併用療法が検討されている。
イミフィンジ®の有効性と安全性
本承認は第Ⅲ相PACIFIC試験の良好な無増悪生存期間(PFS)データに基づいている。
また、2018年5月に発表された全生存期間(OS)の中間解析では、プラセボ投与群との比較でイミフィンジ®投与群の患者さんにおいて臨床的に意味のある延長を伴う統計学的に有意な結果が示された。
本試験結果の詳細については、今後学会等で発表する予定である。
全般的に見て、有害事象の発現率および重症度はイミフィンジ投与群の患者さんとプラセボ投与群の患者さんにおいて同様であった。
イミフィンジ投与群の患者さんにおいて、主な副作用は、発疹73例(15.4%)、甲状腺機能低下症50例(10.5%)、下痢46例(9.7%)、間質性肺疾患・肺臓炎45例(9.5%)等であった。(承認時)
ステージⅢ(局所進行)非小細胞肺がん (NSCLC) について
ステージⅢ(局所進行)非小細胞肺がん(NSCLC)は、がんの大きさや局所浸潤、リンパ節転移の程度などによって通常3つのステージ(ステージⅢA、ⅢBおよびⅢC)に分類され、がんが他の臓器に転移したステージIVとは区別される。
ステージⅢはNSCLCの罹患件数の約3分の1を占めており、2017年には中国、フランス、ドイツ、イタリア、日本、スペイン、英国および米国において約10万5千人が罹患している。
国内においては、非小細胞肺がん全体の17.2%を占めている2。
ステージⅢは、局所コントロールと遠隔転移抑制によって根治が目標となる最後の病期である。
しかし、ステージⅢの大多数を占める切除不能例においては、同時化学放射線療法を行ったとしても、5年以内に約89%の患者さんが再発・病勢進行している1。
参考資料
1. Aupérin A, et al 2010; 28(13):2181-90.
2. 公益財団法人 がん研究振興財団「がんの統計’17」
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/brochure/backnumber/2017_jp.html (2018年6月)
3. アストラゼネカ株式会社「肺がん患者さんの不安・抑うつに関する調査」(2017年12月)
対象:肺がん、胃がん、大腸がんのいずれかの診断を過去5年以内に受けた患者さん 計 517名
https://www.astrazeneca.co.jp/content/az-jp/media/press-releases1/2018/2018052501.html
参照元::アストラゼネカ株式会社プレスルーム