2021年1月12日、国立がん研究センターと日本電気株式会社は、内視鏡検査時に、早期大腸がんおよび前がん病変をリアルタイムに発見する人工知能(AI)を用いたソフトウェア「WISE VISION 内視鏡画像解析AI」が2020年11月30日に医療機器として承認されたことを発表した。
大腸がんは日本において発症の頻度が高い疾患であり、罹患数、死亡数ともに増加傾向にある。大腸がんは前がん病変である腫瘍性ポリープ(陥凹性病変や平坦型腫瘍を含む)から発生することが明らかになっており、早期発見、内視鏡的切除を行うことで、大腸がんの罹患率を76~90%抑制し、死亡率を53%抑制することが報告されている。そのため、前がん病変や早期がんを内視鏡検査時に見逃さないことが重要であり、病変発見率の向上、医師の技術格差の解消、病変見逃しの予防が課題であった。
WISE VISION 内視鏡画像解析AIは、国立がん研究センター中央病院内視鏡科に蓄積された1万病変以上の早期大腸がんならびに前がん病変の画像25万枚(静止画・動画)を医師の所見とともに学習しており、内視鏡検査時に用いることによって、映し出された画像をリアルタイムで解析し、前がん病変や早期がんを検出した際には通知オンと円マークで内視鏡医へ知らせる。
WISE VISIONの概略:国立がん研究センター中央病院提供
このソフトウェアは発見の難しい表面型・陥凹型腫瘍を重点的に深層学習しており、非典型例も検出できること、画像全体を網羅的に瞬時に解析できること主要内視鏡メーカー3社の内視鏡に接続可能であることが特徴だ。
WISE VISION 内視鏡画像奇跡AIを用いた大腸がん検出の例:国立がん研究センター中央病院提供
今回の承認は、同ソフトウェアの性能検証を行ったDESIGN AI-01試験において臨床における有用性を示したことに基づく。同試験は350種類の大腸前がん病変もしくは早期大腸がん病変の動画を一定時間(5フレーム)以上連続して正しく判断した場合を正解とし、正しく検出した割合と誤検出の程度を評価した。
その結果、約83%が正しく5フレーム以上連続で検出され、特異度(病変でない動画を前がん病変または早期がんではないと判断する割合)は89%を示した。さらに視認しやすい隆起型の病変での感度は93%であり、視認しにくい表面型の病変においても78%の感度を有した。このことは臨床医の読影試験と比較し、経験豊富な内視鏡以と同程度の診断性能を有していると言える。また、経験の浅い医師(N=4人)においては同ソフトウェアを用いることで表面型病変の検出割合が6%上昇した。
WISE VISION 内視鏡画像解析AIは、人間の視野の限界を補い、大腸がんの見逃しを回避する画期的なAIシステムであると考えられ、診断精度の改善、向上が期待できる。今後はより精度を上げ、大腸がんのリンパ節転移の予測も目指す。また、CTや病理など他の画像や分子生物学的情報とリンクし、利用価値の高いマルチモーダルなリアルタイム内視鏡画像診断補助システムとするためさらに開発研究を進めていく。また、WISE VISION内視鏡画像解析 AIは2020年12月に欧州においても医療機器製品の基準となるCEマークの要件を満たし、今後グローバルでの普及も図っていく。
国立がん研究センター研究所所長の間野博行氏は「5年以内にさまざまな分野における医療AIの導入を目標に2016年にプロジェクトを始動し、今回大腸がんの分野で内視鏡AI診断支援ソフトウェアが医療機器の承認を取得できたことをうれしく思います」と述べている。
参照元:
国立がん研究センター ニュースリリース