講演タイトル:『膵がん』
演 者:古瀬 純司 先生(杏林大学医学部腫瘍内科 教授)
日 時:7月27日(金)
場 所:日本橋ライフサイエンスハブ
今月は、膵がんをテーマにご来場頂きました。
クローズドセミナーであるため全ての情報は掲載できませんが、ポイントとなる情報をお伝えしていきます。
今回は、「膵がんの基礎知識と治療の最新情報」というタイトルでご講義頂きました。
目次
すい臓、膵がんの基礎知識
そもそもすい臓ってどこにあるの?すい臓は胃の裏側にあり、タラコくらいの形と大きさの臓器です。すい臓の働きには多く分けて2つあります。消化吸収のための膵液を生産し十二指腸に分泌し、これを外分泌ホルモンと言います。
もう1つは、血糖コントロールのホルモンを生産し血液に分泌します。これを内分泌ホルモンといい、インスリンがこの代表です。インスリンの分泌が減ると糖尿病を発症することもあるます。
膵がんの発症は、膵管上皮の変化から始まります。そこに様々の要因が加わり更なる変化か起こり軽度→中等度→高度の変化と進行し膵がんに変化するのです。これらの変化にはがん遺伝子の活性化などにより加速することもわかっています。
膵がんは早期発見が難しいがんです。約50%が遠隔転移のあるステージⅣで発見されます。約30%が局所進行のあるステージⅢで発見され、比較的早期のステージⅠ~Ⅱで発見されるのはわずか20%程度です。膵管上皮から発症が始まりますが、それを発見する方法が現状なく画像診断などでみられるようになるにはある腫瘍がある程度の大きさにならないと難しいからです。
膵がんの患者さんが訴える症状で最も多いのが腹痛・背部痛です。次に黄疸の発症、糖尿病の急速の悪化です。膵がんを早期発見するためには、「胃が痛い、糖尿病の悪化」でも膵がんを疑って検査をしてもらうことです。
一方、膵がんのリスク要因として、家族歴が関係しています。第一度親近者(両親、兄弟、姉妹、子供)に1人の膵がん罹患者がいる場合、膵がんリスクは2~3倍、2人以上いる場合はリスクが約7倍、3人いると13倍です。
その他のリストとしては、糖尿病、慢性膵炎、肥満、禁煙、大量飲酒、膵のう胞が挙げられます。これらのリスクを複数有する場合は定期的に検査することが重要です。
膵がんに対する治療戦略
膵がんに対する治療戦略は「膵癌治療のアルゴリズム:2016年版」に基づいて進めれられます。
膵がん治療の第一選択は他のがんと同じように、腫瘍を手術で切除することです。しかし、膵がんでは発見時に進行が進んでおり手術が難しい場合が多いので薬物療法への期待が大きくなります。放射線療法と化学療法のどちらが効果的かについては結果が出ていません。
予後が極めて悪かった膵がん治療では、2001年にゲムシタビンが保険適用になってから改善しました。しかし、それ以降はなかなか進展していませんでした。
その後、国内の臨床試験で、膵がん切除後の補助療法として、S-1(経口剤)の効果が認められました。現在、切除手術後の補助療法としての第一選択、S-1が推奨され、S-1の内服が難しい患者さんにはゲムシタビン点滴治療が推奨されています。
薬物療法への期待
約半分の患者さんが切除不能の状態で発見される膵がんの治療について多くの臨床支援が実施されましたが、多くが効果なかったのですがいくつに効果が認められました。その結果、2013年版の「膵癌診療ガイドライン」には、切除不能膵癌の一次化学療法として、ゲムシタビン単独治療、S-1単独治療、およびゲムシタビン+エルロチニブ併用療法が推奨されていました。
しかし、エルロチニブには皮疹、下痢、間質性肺炎の副作用が多く、患者さんの症状に合わせた選択が重要です。その後の臨床試験の結果、2つの治療法が追加され2016年版の「膵癌診療ガイドライン」には5つ化学療法が推奨されています。
従来の3つのほか、FOLFIRINOX療法とゲムシタビン+ナブ・パクリタキセル療法です。これら2つの治療法は、全身状態の良好な比較的体力のある方に推奨されます。
FOLFIRINOX療法は、オキサリプラチン、レボホリナート、イリノテカン、5-FU急速、5-FU46時間持続を併用する療法で、2013年で発表された臨床試験の結果はゲムシタビン単独療法に対し3~4倍の腫瘍縮小効果があり、予後を1.75倍改善するというものでした。
ただ、強い治療法なのですが副作用も多く、日本では、薬剤の投与量を減らし副作用が軽減されても効果を維持すている変法FOLFIRINOX療法が多く使われるようになりました。
膵がん治療の最近の話題
膵がんでは、発見時約半数の患者さんがⅣ期で切除不能の状態とは前段で述べました。ところが、近年、切除不能から切除可能へのconversionが一部の患者さんで可能になってきている。
切除不能膵がん患者さんに初回化学療法としてFOLFIRINOX療法またはゲムシタビン+ナブ・パクリタキセル療を実施することで腫瘍縮小がみられ手術が可能になる患者さんがいます。それによる延命効果は非常に大きいです。
家族性膵癌登録制度
膵がんのリスク因子には家族歴を前段でご説明しました。乳がんや卵巣がんの発症に関連することで知られているBRCA遺伝子変異は、実は膵がんのリスクでもあるのです。
しかし、日本人における状況ははっきりしていない現状です、そこで、家族性膵癌登録制度が始まりました。登録していただくことで、明日の膵がん治療に寄与できることとなります。登録は国内の8つの病院で実施しています。
がん免疫療法
膵がんには、他の癌では数種類が開発され効果が認められている分子標的薬やニボルマブやペンブロリズマブでのような免疫チェックポイント阻害剤はなかなか効果がみられないのが現状です。これは膵がん細胞の組織的特徴が関係しているようです。
ところが、2015年のASCOで発表された報告で、がんの臓器に関わらず、ミスマッチ修復機能欠損患者さんでペンブロリズマブの効果が認められ、8人に膵がん患者さんのうち5人で奏効しました。しかし、膵がん患者の中でミスマッチ修復機能欠損の患者さんは3%と言われています。
がんを克服
最後に患者さんに向けて「がんを克服する」ための3つの提案をされました。
①病気に振り回されない!
②病気とうまく付き合う!
③いい情報をキャッチする!
予後はあくまで統計で目安です。これにふりまわされないで!「頑張ってください」という医者がいるかもしれません。患者さんは何をがんばるのでしょう。頑張るのは医者である私たちです、と、古瀬先生はおっしゃっていました。
膵がんに対するこのようなセミナーは、国内ではあまり行われていないようで今回のセミナーを心待ちにしていた来場者も沢山いらっしゃいました。
ご講演の後、ご来場の皆様から多くの質問が寄せられました。それらの質問に1つ1つ丁寧にお答えされていました。
ご講演と質疑応答を通して、古瀬先生は、専門的な内容をとても分かりやすく、時にはご自身の診られた患者さんの例を挙げて説明していただきました。
当日ご聴講された方々より、「患者に寄り添って頑張っていらっしゃる先生に、感銘を受けた」、「実例を通してやさしく説明して頂いた」、「治療をどのように決定していくかの指針である、自己決定力が付いた。」など、多くのご感想が寄せられました。
先生、ご参加された皆様、本当にありがとうございました。
次回は、8月24日(金)、国立がん研究センター東病院 消化管内科長の吉野孝之先生をお迎えし、「大腸がん」をテーマにご講演いただきます。