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肺がんの化学療法

目次

非小細胞肺がんの化学療法

非小細胞肺がんの薬物療法には、殺細胞性抗がん剤を用いた化学療法と、分子標的薬を用いた分子標的治療があります。がんの再発・転移を防ぐために、手術や放射線療法と組み合わせて、あるいは単独で行われます。

非小細胞肺がんの薬物療法には、抗がん剤によってがんの増殖を抑え、がん細胞を破壊する化学療法と、がん細胞だけが持つ生存・増殖に関与する物質を標的にした分子標的治療があります。前者では、プラチナ製剤シスプラチン、カルボプラチン)と第3世代抗がん剤(ペメトレキセドパクリタキセルドセタキセルなど)の併用療法(プラチナ併用療法)が標準化学療法とされ、全身状態に応じてプラチナ併用療法に血管新生阻害剤のベバシズマブをさらに併用する3剤併用療法が行われています。

薬物療法は、Ⅲ期以降、手術による根治が難しい段階になってから放射線療法と組み合わせて(化学放射線療法)、あるいは単独で再発・転移を防ぐために行われるほか、手術で根治が可能なⅠ~Ⅱ(ときにⅢA)期の術後に、残っている可能性がある目に見えないがん細胞を根絶し、再発を防ぐために術後補助化学療法として行われることもあります。その方法にはプラチナ併用療法のほか、日本ではⅠA期の一部とⅠB期の場合、経口抗がん剤のテガフール・ウラシル配合剤を1~2年間、毎日服用する方法が有効とされています。

個別化が進む薬物療法

Ⅲ期以降に治療の主体となってくる薬物療法は、組織型遺伝子変異の有無で戦略が分かれます。扁平上皮がんであれば、初発(1次)治療としてプラチナ併用療法を実施し、再発(2次)すればドセタキセルを試みます。非扁平上皮がんで遺伝子変異陰性の場合は、初発治療としてプラチナ併用療法(プラチナ製剤+ペメトレキセド、カルボプラチン+パクリタキセルなど)±ベバシズマブを実施し、再発治療ではドセタキセルあるいはペメトレキセドを行います。

非扁平上皮がんで遺伝子変異陽性の場合は、初発治療として分子標的治療(EGFR;イージーエフアール阻害剤、ALK;アルク阻害剤)かプラチナ併用療法(プラチナ製剤+ペメトレキセド、カルボプラチン+パクリタキセルなど)±ベバシズマブのいずれかを行い、再発したときは初発治療とは別の治療を行い、再々発(3次)時にはドセタキセルあるいはペメトレキセドを投与します。

そのほかに、初発治療や再発治療でプラチナ併用療法±維持治療、再々発治療で分子標的治療が試みられることもあります。一般的には、間質性肺炎のリスクがかなり高い場合などを除き、分子標的治療は初発か再発の段階で行われ、両者の生存期間に差がないことが明らかになっています。

治療法は薬剤の副作用や程度、全身状態(PS)などを考慮して選択されますが、プラチナ製剤は、脱毛や吐き気の副作用が非常に強く入院点滴が必要なシスプラチンよりも、副作用が少なく外来点滴が可能なカルボプラチンの選択が多くなっています。第3世代抗がん剤は一度使用すると次の段階であまり使わないため、たとえばペメトレキセドを初発治療で用いると再発以降では別の薬剤を使用します。

副作用には早めに対応

個人差はあるものの、抗がん剤を投与した当日より治療が進むにつれ、アレルギー反応、脱毛、吐き気・嘔吐、食欲不振、下痢、口内炎、白血球や血小板の減少など、さまざまな副作用が現れます。副作用を抑える薬剤を併用したり、早めに対応したりすることで軽減できますが、副作用が強くなれば、抗がん剤を減量・中止せざるを得なくなります。

よりよい状態で長く生きるためには、標準治療を予定どおりに完遂することが重要です。副作用やつらい症状があれば遠慮せずに担当医や看護師、薬剤師に早めに申し出て、副作用を軽減する治療や緩和ケアを受けましょう。

小細胞肺がんの化学療法

小細胞肺がんは、進行が速く転移しやすいがんですが、化学療法や放射線療法が効きやすく2剤併用化学療法と同時に胸部放射線照射を行うことが標準治療です。

小細胞肺がんは進行が極めて速いがんで、病巣が限られているように見えても、すでにがん細胞が全身に広がっている可能性があります。がん細胞の分裂スピードが速いので、化学療法や放射線療法によく反応し、これらの治療がよく効きます。そのため、手術適応はⅠ期のみで、術後に化学療法が追加されます(術後補助化学療法)。

Ⅱ期以降の治療の主体は化学療法になります。ⅡA~ⅢB期(対側の肺門リンパ節転移や大量胸水を認めるものを除く)で、病巣が限られている場合には化学療法に放射線療法を併用すること(化学放射線療法)が、ⅢB~Ⅳ期では化学療法のみが一般的な治療となります。

抗がん剤の組み合わせとしては、シスプラチン+エトポシド(PE療法)、シクロホスファミド+ドキソルビシンビンクリスチン(CAV療法)とPE療法の交代療法のほか、日本ではシスプラチン+イリノテカン(PI療法)が標準治療として推奨されています。高齢者や一般的な全身状態の悪いPS2では、カルボプラチン+エトポシド療法が多く行われています。いずれの治療も3~4週間を1コースとして4~6コース行うことが推奨されています。

化学放射線療法を行う場合は、PE療法と放射線療法を同時に、あるいはPE療法を終了後に放射線療法を実施します。放射線療法は1日2回照射法が採用されており、総線量45Gy を1回1.5Gyで1日2回、週5日(10回)×3週間かけて照射するのが標準的治療です。

縮小効果は7~8割

小細胞肺がんでは、化学療法や化学放射線療法によるがんの縮小効果は明らかで、約7~8割に縮小効果が認められます。一方、小細胞肺がんは初回治療後、再発しやすいため、初回の化学療法や化学放射線療法により、画像上でがんが完全に、あるいはほぼ消失した場合には、脳への転移を防ぐために予防的全脳照射(放射線治療、1回2.5Gy、1日1回、合計10回、総線量25Gy)が行われます。

再発した場合は、イリノテカンやノギテカン、アムルビシン、エトポシドなどの薬剤による化学療法が試みられます。

化学療法の副作用

肺がんの治療では、さまざまな薬物が使われ、それぞれによって副作用の症状や強さ、出現する時期が異なります。また、症状の出方には個人差が大きいことも知られています。治療に使っている薬の名前とともに、出現しやすい副作用やその対処法についても知っておき、できるだけ治療を中断せずに続けられるようにしたいものです。

非小細胞肺がんでも小細胞肺がんでも、治療の主流となる抗がん剤の副作用で、最も気をつけたいのは、白血球、好中球、血小板、ヘモグロビンなどが減少する骨髄抑制です。治療開始後1〜2週間で出現しますが、自覚がないため、血液検査で指摘されることになります。

また、パクリタキセル、ドセタキセルなどでは、手足にしびれや痛み、ピリピリとした感覚などが出る末梢神経障害、S-1、テガフール・ウラシル配合剤などでは手足の痛み、腫れ、水ぶくれが出る手足症候群に注意が必要です。手足症候群は使用後1~2か月して出てきます。抗がん剤で一般的に出やすい副作用の一つである吐き気や嘔吐に対しては予防薬が処方されるため、心配しすぎないことです。

一方、分子標的薬では、標的となる分子が違うため、重大な副作用は異なります。また、出現時期も薬剤で違います。たとえば一般的に出現時期が遅いと考えられている間質性肺炎の場合、EGFR阻害剤の中には比較的初期に発現する薬剤があるとの報告もあります。

いずれにしても、体調が変わったときには担当医や看護師、薬剤師に相談します。とくに外来化学療法や経口薬で治療する患者さんは、病院以外の場所で具合が悪くなったときの対処法や連絡先を確認しておく必要があります。




肺がんの分子標的薬

従来の抗がん剤には、がん細胞だけでなく、正常細胞にダメージを与え、副作用を起こすという難点がありました。これに対して、がん細胞だけが持つがんの生存・増殖に関与する分子(遺伝子やタンパク)に狙いを定め、その働きを阻害することでがんの増殖を防ごうというコンセプトのもとに開発されたのが分子標的薬です。

非小細胞肺がんの非扁平上皮がんで、手術不能なⅢ期、あるいはⅣ期に使用できる分子標的薬として、血管内皮増殖因子(VEGF)に対する抗体薬のベバシズマブ、上皮成長因子受容体HER1 (EGFR)の阻害剤であるゲフィニチブとエルロチニブ、および未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)の阻害剤であるクリゾチニブの4製剤がこれまでに市販されています。

ベバシズマブはプラチナ併用療法と併用で1~2次治療に用いられますが、EGFR阻害剤、ALK阻害剤はそれぞれEGFR遺伝子変異ALK融合遺伝子がなければ効果は得られないため、投与前には遺伝子検査を行い、陽性例に対してのみ単独で1~2次治療に用いられています。遺伝子変異のある肺がんに対するEGFR阻害剤、ALK阻害剤の効き目は高く、薬物療法の治療ステップの必ずどこかに用いることが原則とされ、比較的早い段階である1~2次治療で用いられることが一般的です。

いずれの分子標的薬も、従来の抗がん剤に比べ、正常細胞への影響が比較的少ないのですが、標的分子の違いにより特徴的な副作用があります。重大な副作用として、ベバシズマブでは血栓塞栓症や消化管穿孔が、ゲフィニチブやエルロチニブでは急性肺障害や間質性肺炎が、クリゾチニブでは致死的な肺炎が現れることがあるので、いつもと違うことがあれば担当医にすぐに連絡することが大切です。

なお、EGFR遺伝子変異陽性の手術不能および再発非小細胞肺がん治療薬としてEGFRを含む上皮成長因子受容体HER(ErbB)ファミリーを阻害するアファチニブが新しく承認されました。この薬剤は、EGFRのみ阻害する従来の薬剤とは異なり、HER2やHER4などのHERファミリーも持続的に阻害する作用機序を持ち、その効果についても期待されている分子標的薬の1つです。

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