オンコロでは、がん治療に関する様々なトピックスについて、全国のオピニオンリーダーにインタビューを実施し、対談形式にて皆さんにお届けしております。
今回は、国立がん研究センター中央病院の副院長兼呼吸器内科長の大江 裕一郎先生に「非小細胞肺がん治療における免疫チェックポイント阻害薬の現状と今後」について、お話を伺いました。大江先生は、日本臨床腫瘍学会理事長でもあります。
なお、今回はテーマを「①PD-1抗体とPD-L1抗体の違い」「②EGFR遺伝子変異陽性患者における免疫チェックポイント阻害薬治療」「③PD-1抗体とCTLA-4抗体の複合療法」という、あまり一般の方に知られていない話題についてお伺いしました。第1回のテーマは「PD-1抗体とPD-L1抗体の違い」についてです。
目次
PD-1抗体とPD-L1抗体の違いは?
オンコロ可知(以下可知):2015年末にニボルマブ(オプジーボ)が「非小細胞肺がん」に適応追加されて以来、2016年はオプジーボが色々な意味で賑わせたと思います。更にペムブロリズマブ(キイトルーダ)が12月に承認されました。特にキイトルーダはPD-L1高発現患者限定となりますが、初回治療から使用できるようになります。
免疫チェックポイント阻害薬としては、この2つのPD-1抗体について様々な話題が尽きないだろうと思いますが、今回はオンコロらしく、PD-L1抗体についてお聞きしようと思います。まず、PD-1抗体とPD-L1抗体は何が異なるのでしょうか?
大江先生:PD-1抗体は免疫細胞の一種であるT細胞上のPD-1に結合して免疫チェックポイントを抑制します。一方、PD-L1抗体は腫瘍細胞上や免疫細胞の一種である抗原提示細胞上のPD-L1に結合して免疫チェックポイントを抑制します。
PD-1はPD-L1およびPD-L2に結合することがわかっています。一方、PD-L1は、PD-1やB7-1に結合するため、若干、阻害する結合が異なることになります。たとえば、PD-1抗体はPD-1/PD-L1も、PD-1/PD-L2の結合も阻害することはできますが、PD-L1抗体はPD-1/PD-L1の結合を阻害しますが、PD-1/PD-L2の阻害せず、そのかわりB7-1/PD-L1の結合を阻害することができます。
この差が、臨床的にも影響される可能性があります。以前は、PD-L2との結合も阻害するPD-1抗体の方が高い効果を発揮する可能性が示唆されていましたが、実際の臨床試験結果ではそうでもないことがわかってきました。また、副作用についても、ほとんど変わりがなさそうです。
非小細胞肺がん治療において、PD-1抗体とPD-L1抗体の差は?
可知 :肺がん分野では、2つのPD-1抗体が日本で承認されました。PD-L1抗体は、日本で承認申請されていませんが、米国では既にFDAが承認したと思います。
大江先生:PD-L1抗体では、アテゾリズマブが2016年5月に「局所進行または転移性進行尿路上皮がんセカンドライン*」に、2016年10月に「転移性非小細胞肺がんのセカンドライン**」に対して承認されました。
非小細胞肺がんのセカンドラインについては、ニボルマブのCheckmate017試験とCheckmate057試験、ペムブロリズマブのKEYNOTE010試験、およびアテゾリズマブのOAK試験の結果が出ています。それは以下に示した通りです。
これらの試験を直接比較することはできません。しかしながら、ハザード比を比較する限り、ほとんど差がないことがわかります。よって、現在わかっているデータを見る限りは、PD-1抗体とPD-L1抗体との大きな差はなさそうであることが言えそうです。
また、PD-L1抗体であるアテゾリズマブは、PD-L1発現していないと効果がないとも予想されていましたが、OAK試験結果を見る限りはそうではなかったようです。ただし、まだわからないことだらけであることには変わりはありません。
注)米国での実際の適応は以下の通り。
*白金製剤ベースの化学療法施行中または施行後に病勢進行を認めた、または白金製剤ベースの化学療法による術前または術後補助化学療法を行い12カ月以内に病勢進行を認めた局所進行または転移性尿路上皮がん(mUC)
**白金製剤ベースの化学療法、EGFR遺伝子変異陽性またはALK融合遺伝子陽性肺癌に対してFDAが承認した分子標的療法施行中または施行後に病勢が進行した転移性非小細胞肺癌(NSCLC)
非小細胞肺がんにおける免疫チェックポイント阻害薬の今後の展開について
可知:今後、PD-1抗体とPD-L1抗体について、どのような展開が考えられますか?
大江先生:12月に日本肺癌学会から「EBMの手法による肺癌診療ガイドライン2016年版」が刊行されました。今回の主な改訂点の1つとして、非小細胞肺がんの一次治療にペムブロリズマブが加わったことがあげられます。EGFR遺伝子変異陰性及びALK融合遺伝子陰性のPD-L1発現50%以上の方には、ペムブロリズマブが推奨グレードAとなりました。PD-L1抗体については、臨床試験段階であるため何とも言えませんが、治験として使用している感じでは期待ができる可能性があります。
今後の課題は、バイオマーカーの発見です。PD-L1発現は有力なバイオマーカーとなり得ますが、PD-L1発現陰性の方でも効果がある方がいるため、その他の有力なバイオマーカーの発見が急務です。臨床試験としては、PD-1抗体やPD-L1抗体と別の免疫チェックポイント阻害薬や標準療法との併用の試験が活発に実施されています。
記事;可知 健太