びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)とは、血液がんの1つである悪性リンパ腫である。悪性リンパ腫とは白血球の中のリンパ球ががん化する血液がんの総称であり、DLBCLはリンパ球の内Bリンパ球(B細胞)が、がん化するもので、悪性リンパ腫の中で最も発症頻度が高い。
また、他の悪性リンパ腫と比較して、がんの進行が早いためにアグレッシブリンパ腫に分類されるが、CHOP(シクロホスファミド+ドキソルビシン+ビンクリスチン+プレドニゾロンを併用する化学療法)をはじめとした抗腫瘍薬に対する反応は良好で、治癒の可能性が高いため比較的予後は良好な病気である。
しかし、DLBCLの患者の内10〜15%は初期治療に反応を示さないか、もしくは、治療後3カ月以内に再発する。また、初期治療に反応を示した患者の内、20~25%がその後再発する患者もいる。
DLBCLは現存の治療に対する治療満足度が低い病気ではないが、既存の治療で再発または難治性を示した場合、CHOPに次ぐ有効な治療法の研究・開発が必要であった。
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CAR-T療法という新しい治療法への期待
そんななか、2017年6月14日から17日までスイスのルガノで開催された国際悪性リンパ腫会議(ICML)で、再発・難治性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫患者(RRDLBCL)に対する有効な治療法が、ペンシルバニア大学ペレルマン医学大学院およびペンシルバニアのアブラムソンがんセンターの血液学/腫瘍学教授であるステファン・シュスター氏より発表された。
その治療方法とは、CAR-T療法(キメラ抗原受容体を用いたT細胞療法)である。CAR-T療法とは、元々体の中に存在するリンパ球の一種であるT細胞を体外に取り出し、がん細胞を見つけて、攻撃する働きをさせるCAR(キメラ抗原受容体)をT細胞に発現させて、再び体の中に戻すことで抗腫瘍効果を発揮させる免疫療法である。
ペンシルバニア大学で開発されたこのCAR-Tを使用した生物製剤はCTL019(tisagenlecleucel)といい、同大学が商品化するために製薬会社ノバルティスファーマと2012年以降共同で研究開発を進めていた。そして、2017年3月にFDAより初めてCTL019は再発・難治性B細胞性急性リンパ性白血病(ALL)の効能で優先審査に指定された。つまり、RRDLBCLを対象にした本試験はALLの効能に次ぐ、CTL019の2件目の報告である。
JULIET試験 完全奏功(CR)率43%という中間解析結果への期待
国際悪性リンパ腫会議(ICML)では、本試験(単群非盲検多施設国際共同第2相試験:JULIET trial ; NCT02445248)に登録された141名のRRDLBCL患者へのCTL019の有効性・安全性についての中間解析結果が報告された。
本試験登録の主な条件は、年齢は18歳以上、治療歴として2レジメン以上の化学療法を受けたにも関わらず疾患が進行している、又は自家幹細胞移植に不適応と診断されたRRDLBCLの患者である。
主要評価項目は全奏効率(ORR=完全奏効(CR)+部分奏効(PR))で、副次評価項目には無病悪生存期間(PFS) 、全生存期間(OS)などが設定されている。
本試験中間解析の結果、3か月以上追跡、もしくは早期終了した51名の患者において、全奏効率(ORR)は59%(95% CI 44.2~72.4;pCAR-T療法の今後の課題 -サイトカイン放出症候群(CRS)-
もちろん、CTL019はCAR-T療法だけに、それ特有の副作用であるサイトカイン放出症候群(CRS)が、CTL019輸注された患者全体(85名)の57%に観察・報告されている。
ちなみに、CRSとは体内に戻したT細胞がその標的とする抗原と反応することで血中に高濃度のサイトカインを放出し、発熱、血圧低下など様々な症状を引き起こす事象のことをさす。重症な場合、肺水腫、中枢神経症状などの臓器障害を引き起こす。
本試験では、CRSを発症した患者の内26%がグレード3/4(17% / 9%)まで重症化した。また、投与から30日以内に死亡に至った患者は3名報告されたが、CTL019との因果関係は確認されなかった。
しかし、CTL019の有効性は非常に期待できるだけに、安全性においてもさらなる管理・監視される必要がある。
なお、本試験は中間報告であるため副次評価項目のPFS、OSの結果はまだ不明である。またCAR-T療法特有の合併症であるCRSが約2人に1人の患者で確認されている。
臨床で応用するための課題はまだ残されているが、筆者は、CTL01によるCAR-T療法がRRDLBCLの患者にとって、より良い治療法であると考える。そして、2017年末発表予定とされる本試験の主要解析結果を楽しみに待ちたい。
記事:山田 創 & 下川床 和真