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免疫チェックポイント阻害剤単独では効かないMSS転移性大腸がんがMEK阻害薬追加で有効性
2016年6月29日から7月2日までスペイン・バルセロナで開催された欧州臨床腫瘍学会(ESMO)・第18回世界消化器学会(World GI)で、免疫チェックポイント阻害剤PD-L1抗体アテゾリズマブ(商品名Tecentriq)とマイトジェン活性化プロテインキナーゼキナーゼ(MEK)阻害薬コビメチニブ(商品名Cotellic)の併用療法が、マイクロサテライト安定性(MSS)転移性大腸癌(mCRC)に効果を発揮したことを、米国サラ・キャノン(Sarah Cannon)研究所のJohanna C. Bendell氏が発表した。
抗PD-L1抗体アテゾリズマブにMEK阻害薬コビメチニブ追加で23人中4人が部分奏効
転移性大腸がん患者集団における奏効率は17%で、23人中4人の部分奏効(PR:腫瘍サイズが30%以上縮小)が確定した。KRAS遺伝子変異陽性の22人で算出すると奏効率は20%となった。加えて、病勢安定(SD)が5人に認められた。奏効持続期間は4.0カ月~7.0カ月で、データカットオフ(2015年10月12日)まで4人中3人のPRが持続していた。6カ月間の全生存率は72%であった。
この試験は局所進行、または転移性の固形がん患者151人を目標登録とし、スイス・ロシュ社の資金提供を受けて2013年12月、米国やカナダ、ドイツ、韓国、シンガポールの23施設で開始された非無作為化オープンラベル試験(NCT01988896)。増量パートではアテゾリズマブの固定用量(800mgを2週毎に静注)とコビメチニブ1日20mg、40mg、または60mgを21日経口投与後7日休薬する28日間のサイクルを繰り返した。拡大パートではアテゾリズマブの用法用量を増量パートと同様にし、コビメチニブは1日60mgで同様のスケジュールで経口投与した。
転移性大腸がん患者の登録で、マイクロサテライト不安定性(MSI)の陽性(MSI-H)、陰性(MSS)、あるいはPD-L1の発現量による選抜はしなかった。部分奏効された4人はいずれもMSI-Hではなく、3人はMSS、または不安定性の程度が低い(MSI-L)患者で、1人のMSI状態は不明であった。また、PD-L1の発現量とPRとの関連性は認められなかった。
追跡期間中央値3.78カ月で、用量制限毒性(DLT)は認められず、グレード5の有害事象、または治療と関連するグレード4の有害事象もなく、関連するグレード3の有害事象は35%(8人)に発現した。主な有害事象は発疹、下痢、および疲労であった。
コビメチニブが腫瘍のアテゾリズマブに対する感受性を増強した可能性
「MSI-Hの大腸がんはPD-1/PD-L1に介入する免疫チェックポイント阻害剤の単独療法で効果があるが、約96%を占めるMSSのmCRCの患者ではほとんど効果がない。この大多数の転移性大腸がん患者の治療が課題」とBendell氏は語った。そして、「この併用療法による腫瘍サイズの縮小はPD-L1の発現量と関係しなかった」と強調した。腫瘍が縮小した患者のうち、18人の腫瘍細胞のPD-L1発現量は低かった。4人のデータは得られなかったものの、PD-L1発現量の高い患者1人は治療後に病勢が進行(PD)した。
MEK阻害薬は単独では転移性大腸がんにほとんど活性を示さないが、前臨床試験では、抗PD-L1抗体と併用することにより腫瘍組織内にT細胞が蓄積し、持続的な腫瘍の退縮が認められたという。Bendell氏が説明する仮説はこうだ。MEKを阻害すると腫瘍細胞の主要組織適合性複合体クラスI(MHC class I)の発現が上行調節され、腫瘍内へのT細胞の浸潤が促進するということ。これを確かめるための本フェーズIb試験で、コビメチニブがアテゾリズマブに対する腫瘍の感受性を増強した可能性が示された。実際、治療期間中に定期的に採取した生検標本で、腫瘍細胞のMHC I発現の増加とCD8陽性T細胞の蓄積が確認された。抗腫瘍免疫が刺激されたということかもしれない。
今回の予備的なデータからは、アテゾリズマブとコビメチニブの併用療法が幅広いMSS転移性大腸がん患者に適用できる可能性が示唆された。しかし、MSSとMSIの違いによりこの併用療法がどのように作用するか、あるいは、コビメチニブがPD-L1やPD-1の阻害に依存して異なる活性を示すかどうかなど、不明な点は多い。Bendell氏らは、化学療法が効かない転移性大腸がんを対象とするアテゾリズマブとコビメチニブの併用療法第3相臨床試験の患者登録を開始するとのこと。
マイクロサテライト不安定性とは
DNAの中で短い塩基配列が繰り返される場所がマイクロサテライト。この場所における反復配列が、腫瘍組織において非腫瘍(正常)組織とは異なる反復回数となることをマイクロサテライト不安定性(MSI)という。DNA複製の際に生じる塩基配列の間違いを修復する機能が低下するのが原因と考えられている。非腫瘍組織と比べ、腫瘍組織から取り出し増幅したDNAのマイクロサテライト配列の反復回数が変化していればMSIと判定される。主にリンチ症候群(大腸がんの若年発症、異時性、または同時性の大腸多発がん、および多臓器がんの発症)の補助診断として実施される。
関連記事:リンチ症候群(主に遺伝性大腸がん) ペンブロリズマブが有効な可能性 ASCO2015(2015/6/11)
米国でアテゾリズマブは膀胱がん、コビメチニブは悪性黒色腫の治療薬
米FDAは2016年5月、膀胱がんの一種の尿路上皮がんを対象にアテゾリズマブを迅速承認した(商品名Tecentriq)。画期的治療薬、および優先審査の指定を経て迅速承認に至った。FDAは2015年11月10日、 BRAF V600EまたはV600K変異を有する切除不能または転移性の悪性黒色腫(メラノーマ)を対象にコビメチニブ(商品名:Cotellic)を承認した。
記事:川又 総江 & 可知 健太