インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ1(IDO1)阻害薬epacadostat(INCB024360)とプログラム細胞死受容体(PD-1)または同リガンド(PD-L1)を標的とする抗体、いわゆる免疫チェックポイント阻害薬を併用投与するECHOプログラムで、PD-1標的抗体ペムブロリズマブ(商品名キイトルーダ)との併用投与により頭頸部扁平上皮がん、尿路上皮がん(膀胱がん)および腎細胞がんの患者集団で30%以上の奏効率、50%以上の病勢コントロール率(DCR)が得られた。2017年6月2日から5日に開催された米国臨床腫瘍学会(ASCO2017)で、第1/2相試験(ECHO-202、KEYNOTE-037、NCT02178722)の最新データが発表された。なお、非小細胞肺がんに対する最新データも発表されたが、別で報じることとする(コチラ)。
目次
抗腫瘍免疫を担う酵素と受容体を同時に標的とする併用療法
IDO1はアミノ酸のトリプトファンをキヌレニンに代謝する酸素添加酵素で、抗腫瘍免疫を調節する主要因子である。免疫担当細胞である樹状細胞に発現するIDO1は制御性T細胞(Treg)を誘導して免疫寛容に導き、また、悪性腫瘍に高発現することでエフェクター細胞やナチュラルキラー(NK)細胞を不活化し、抗腫瘍免疫を回避させる。したがって、経口投与可能な選択的IDO1阻害薬であるepacadostatは、がんに対する免疫反応を回復させる作用が期待でき、すでに、悪性黒色腫患者を対象とする単群試験では免疫チェックポイント阻害薬との併用療法の概念実証(Proof-of-Concept)が示されている。併用投与により、抗腫瘍免疫の標的を2つ同時に狙うがん免疫療法の確立が期待されている。
奏効率は頭頚部扁平上皮がん、尿路上皮がんおよび腎細胞がんでは、がん種別に大差なく33%から38%
転移性、または再発性の扁平上皮頭頸部がん(SCCHN)患者38例における有効性
epacadostat×キイトルーダ併用療法の全奏効率は34%で(13/38例)、完全奏効(CR)が3例、部分奏効(PR)が10例に得られた。病勢安定(SD)の10例を含む病勢コントロール率(DCR)は61%(23/38例)であった。奏効13例中10例は解析時点も持続しており、奏効持続期間(DoR)中央値は18.4週以上になるところまで確定している(ASCO2017 Abstract6010)。
進行性尿路上皮膀胱がん(UC)患者40例における有効性
epacadostat×キイトルーダ併用療法の全奏効率は35%(14/40例)で、CRが3例、PRが11例に得られた。SDの7例を含むDCRは53%(21/40例)であった。奏効14例中10例の奏効が持続しており、DoR中央値は30.6週以上になるところまで確定している(ASCO2017 Abstract4503)。
進行性腎細胞がん(RCC)患者30例における有効性
epacadostat×キイトルーダ併用療法の全奏効率は33%(10/30例)でCRが1例、PRが9例に得られた。SDの5例を含むDCRは50%(15/30例)であった。奏効10例中7例の奏効が持続しており、DoR中央値は26.8週以上になるところまで確定している(ASCO2017 Abstract4515)。
トリプルネガティブ乳がん、卵巣がんに対する奏効率は低い
上記3がん種以外に、トリプルネガティブ乳がん、卵巣がんについても最新データが発表されたが、いずれの奏効率も低いものであった。epacadostat×キイトルーダ併用療法のトリプルネガティブ乳がんに対する全奏効率は10%(4/39例)で、PRが4例に得られた。SDの10例を含むDCRは36%(14/39例)であった。卵巣がんに対する全奏効率は8%(3/37例)で、PRが3例に得られた。SDの10例を含むDCRは35%(13/37例)であった。SCO2017 Abstract1103)。
安全性
ECHO-202の第2相試験の安全性解析対象294例において、epacadostat×キイトルーダ併用療法の安全性の特徴は、ECHO-202の第1相試験、あるいはキイトルーダ単独療法の安全性と一致し、併用投与による新たな問題は認められなかった。グレード3以上の有害事象は18%(52/294例)に発現し、主に無症候性のリパーゼ上昇(4%)、および発疹(3%)であった。有害事象を理由とする治療中止率は4%であった(ASCO2017 Abstract3012)。
プラセボ対照第3相無作為化二重盲検を開始
本試験のデータは、epacadostat×キイトルーダ併用療法の第3相試験実施の妥当性を支えるもので、現在ECHOプログラムでは、切除不能、または転移性の悪性黒色腫患者を対象とする第3相無作為化二重盲検試験(ECHO-301、NCT02752074)が実施されている。
治療標的としてのトリプトファン→キヌレニン代謝経路
がん細胞では、トリプトファンやグルタミン、セリン、グリシンといったアミノ酸の消費ががん種によらず共通して高く、アミノ酸代謝の再プログラム化によりがんの生存と増殖、転移を可能にすると考えられている。がん細胞にとっては、自身が生存し続けるためには宿主の免疫系から逃れることが最大の課題である。インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ1(IDO1)の酵素的触媒によりトリプトファンの異化的代謝で産生されるキヌレニンは、がん細胞の生存や増殖、運動性を促進するだけでなく、免疫細胞には抑制的に作用することでがんへの攻撃を妨害し、がん細胞の生存戦略を巧妙に支えていることがわかってきた。
記事:可知 健太 & 川又 総江