2017年、米国食品医薬品局(FDA) より承認されたキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法はB細胞性急性リンパ芽球性白血病(ALL)の治療薬であるtisagenlecleucel(商品名キムリア;以下キムリア)、再発難治性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)の治療薬であるaxicabtagene ciloleucel(商品名Yescarta;Yescarta)の2剤である。
また、この2剤以外にもCD19以外の抗原を標的としたり、複数の抗原を同時に標的にし、結合する作用機序を持つなど、様々なキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法が開発されており、現在も約420本の臨床試験が進行している。
このようにキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法は悪性リンパ腫、多発性骨髄腫の新しい治療方法になり得るとして世界中の研究者が注目をしている。
そこで本記事では、2017年12月9日より12日までアメリカ合衆国ジョージア州アトランタで開催されていた米国血液学会議(ASH2017)にて公表されたキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法に関する演題のなかでも、テキサス州立大学MDアンダーソンがんセンター所属のDr.Anderson氏が注目した3つの演題について紹介する。
目次
再発難治性非ホジキンリンパ腫(NHL)患者に対するYescarta療法
本演題はびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL) をはじめアグレッシブな再発難治性非ホジキンリンパ腫(NHL)患者(N=12人) に対してキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法であるYescartaを投与し、主要評価項目である客観的奏効率(ORR)を検証した第I/II相のZUMA-1試験(NCT02348216)の結果である。
本試験の結果、主要評価項目である客観的奏効率(ORR)は完全奏効(CR)率54%を含む82%を示した。また、キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法特有のグレード3以上の有害事象(AE)であるサイトカイン放出症候群(CRS)発症率は13%、神経障害は28%であり、管理可能であることを示した。
また、本試験に登録された12人の患者はYescarta投与開始時または病勢進行後にCD19陽性率が測定され、CD19陽性率は投与開始時点で11人であったのに対して病勢進行後は8人へと増加した。そして、この8人のうち5人(63%)はPD-L1発現率陽性が確認された。なお、CD19陰性の患者3人のうち2人はPD-L1発現率陽性を示していた。
本演題に対してDr.Andersonは以下のように述べている。”CD19抗原を消失し、PD-L1を発現してた患者ではYescartaに対して治療抵抗性を示す可能性が示唆された。本試験により得られた知見が真実であるならば、キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法で有効的な治療戦略を立てるうえにこのようなバイオマーカーの有用性を検証することは大切である。”
再発難治性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)患者に対するキムリア療法
本演題は再発難治性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)患者(N=147人) に対してキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法であるキムリアを投与し、主要評価項目である全奏効率(ORR)を検証した第II相のJULIET試験(NCT02445248)の結果である。
なお本発表では、試験に登録された147人の被験者のうちアメリカ合衆国においてキムリアによる治療を受け、治療開始3ヶ月以上経過した81人の患者を対象にしている。
本試験の結果、主要評価項目である客観的奏効率(ORR)は完全奏効(CR)率39%、部分奏効(PR)13.6%を含む53%を示した。また、キムリア投与後6ヶ月を経過した患者(N=46人)における完全奏効(CR)率30%、部分奏効(PR)率7%を示した。
また、グレード3または4の有害事象(AE)発症率は86%の患者で確認され、キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法特有のサイトカイン放出症候群(CRS)の発症率は58%、神経障害は12%の患者で確認された。なお、治療関連による死亡は1例の患者でも確認されていない。
本演題に対してDr.Andersonは以下のように述べている。”キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法であるキムリアはリンパ腫患者さんに対して高い有効性を示したが、サイトカイン放出症候群(CRS)、神経障害は治療継続するための障壁となるでしょう。そのため、毒性を管理できるように薬剤の腫瘍に対する標的精度を向上させる必要があります。”
再発難治性多発性骨髄腫(MM)患者に対する抗B細胞成熟抗原(BCMA)を標的とするbb2121療法
本演題ら3レジメン以上の治療歴のあるB細胞成熟抗原(BCMA)50%以上発現する再発難治性多発性骨髄腫(MM)患者(N=21人) に対してB細胞成熟抗原(BCMA)を標的とするキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法であるbb2121を50、150、450、800、1200×10の6乗の用量別に投与し、主要評価項目として有害事象(AE)発症率、副次評価として全奏効率(ORR)、微小残存病変(MRD)陰性率を検証した用量漸増の第I相のCRB-401試験(NCT02658929)の結果である。
本試験に登録された患者背景は、年齢中央値58歳(37-74)、多発性骨髄腫(MM)と診断されてから5年(1-16)、全治療歴中央値7レジメン(3-14)である。また、自家幹細胞移植(ASCT)歴100%、67%の患者で細胞遺伝学的異常を有していた。
本試験のbb2121投与後期間中央値15.4週(1.4-54.4)後の結果、主要評価項目である有害事象(AE)発症率はグレード1または2のサイトカイン放出症候群(CRS)が71%(N=15人)の患者で確認された。また、グレード3は2人の患者で確認され、4人の患者が治療のためにトシリズマブ(商品名アクテムラ)を投与、1人の患者がステロイド療法を実施することでどちらも管理可能な副作用であった。
副次評価項目である全奏効率(ORR)は89%を示し、bb2121を150×10の6乗の用量で投与することで100%を達成した。なお、bb2121による治療開始8-54週時点において病勢進行を示した患者は確認されていない。また、微小残存病変(MRD)陰性率は評価可能であった4人すべての患者で陰性が確認されている。
本演題に対してDr.Andersonは以下のように述べている。”本試験によりbb2121は忍容性の高い治療選択肢であることが示されました。そして、この治療は他の多発性骨髄腫(MM)治療法にない画期的な奏効率を示しています。”