・腫瘍の遺伝子変異量(TMB rate)は小細胞肺がん患者に対する免疫チェックポイント阻害薬の効果予測因子になり得ることが示唆された
・オプジーボ単剤療法、オプジーボ+ヤーボイ併用療法の客観的奏効率(ORR)は腫瘍の遺伝子変異量(TMB rate)の低レベル、中レベル群よりも高レベル群で高率であった
・オプジーボ単剤療法、オプジーボ+ヤーボイ併用療法の1年無増悪生存率(PFS rate)、1年全生存率(OS rate)は腫瘍の遺伝子変異量(TMB rate)の低レベル、中レベル群よりも高レベル群で高率であった
2018年5月3日、医学誌『Cancer Cell』にて治療歴のある進展型小細胞肺がん患者に対する抗PD-1抗体薬であるニボルマブ(商品名オプジーボ;以下オプジーボ)単剤療法、またはオプジーボ+抗CTL-4抗体薬であるイピリムマブ(商品名ヤーボイ;ヤーボイ)併用療法の有効性と腫瘍の遺伝子変異量(TMB rate)の関係性について検証した第II相のCheckMate032試験(NCT01928394)の研究結果がメモリアル・スローン・ケタリングがんセンター・Matthew D. Hellmann氏らにより公表された。
CheckMate032試験とは、進展型小細胞肺がんを含む前治療歴を有する進行性転移性固形がん患者(N=401人)に対して2週間に1回オプジーボ3mg/kg単剤療法を投与する群(N=245人)、または3週間に1回オプジーボ1mg/kg+ヤーボイ3mg/kg併用療法を12週間投与した後に2週間に1回オプジーボ3mg/kg単剤療法を投与する群(N=156人)に分け、主要評価項目として客観的奏効率(ORR)、副次評価項目として無増悪生存期間(PFS rate)、全生存期間(OS rate)などを検証した第I/II相の試験である。
なお、本研究ではCheckMate032試験に登録された全患者(N=401人)の内、全エクソーム解析を61%の患者(N=246人)で実施し、その内53%の治療歴のある進展型小細胞肺がん患者(N=211人,オプジーボ群133人:オプジーボ+ヤーボイ群78人)で腫瘍の遺伝子変異量(TMB rate)の検出に成功した。そして、腫瘍の遺伝子変異量(TMB rate)別に患者は3つの群に分けられ、腫瘍の遺伝子変異量(TMB rate)が0~143の患者を低レベル、143~247の患者を中レベル、248以上の患者を高レベルとして分類した。
本研究に参加した腫瘍の遺伝子変異量(TMB rate)の検出可能であった患者の背景は下記の通りである。年齢中央値はオプジーボ群で63歳(29-83歳)、オプジーボ+ヤーボイ群で65歳(37-80歳)。性別はオプジーボ群で男性59%(N=79人)、オプジーボ+ヤーボイ群で男性67%(N=52人)。喫煙歴はオプジーボ群で有りが95%(N=126人)、なしが5%(N=6人)、不明が1%(N=1人)、オプジーボ+ヤーボイ群で有りが94%(N=73人)、なしが6%(N=5人)。
ECOG Performance Statusはオプジーボ群でスコア0が32%(N=42人)、スコア1が68%(N=91人)、オプジーボ+ヤーボイ群でスコア0が29%(N=23人)、スコア1が69%(N=54人)、不明が1.3%(N=1人)。腫瘍組織のPD-L1発現量はオプジーボ群で1%以上が13%(N=17人)、1%未満が67%(N=89人)、不明が20%(N=27人)、オプジーボ+ヤーボイ群で1%以上が10%(N=8人)、1%未満が65%(N=51人)、不明が24%(N=19人)。
また、腫瘍の遺伝子変異量(TMB rate)別の腫瘍組織のPD-L1発現量は、腫瘍の遺伝子変異量(TMB rate)低レベル群(N=69人)でPD-L1発現量1%以上が2.9%(N=2人)、1%未満が63.8%(N=44人)、不明33.3%(N=23人)、中レベル群(N=69人)で1%以上が23.2%(N=16人)、1%未満が59.4%(N=41人)、不明17.4%(N=12人)、高レベル群(N=73人)で1%以上が9.6%(N=7人)、1%未満が75.3%(N=55人)、不明15.1%(N=11人)。なお、腫瘍の遺伝子変異量(TMB rate)を含めオプジーボ、オプジーボ+ヤーボイ群の両群間で患者背景に大きな違いはなかった。
以上の背景を有する患者に対する本研究の結果は下記の通りである。主要評価項目である腫瘍の遺伝子変異量(TMB rate)別の客観的奏効率(ORR)はオプジーボ群で腫瘍の遺伝子変異量(TMB rate)の低レベル群4.8%、中レベル群6.8%、高レベル群21.3%、オプジーボ+ヤーボイ群で腫瘍の遺伝子変異量(TMB rate)の低レベル群22.2%、中レベル群16.0%、高レベル群46.2%、両群ともに腫瘍の遺伝子変異量(TMB rate)の低レベル、中レベル群よりも高レベル群で客観的奏効率(ORR)が高かった。また、腫瘍の遺伝子変異量(TMB rate)の全レベルにおいてオプジーボ群よりもオプジーボ+ヤーボイ群で客観的奏効率(ORR)が高かった。
また、腫瘍の遺伝子変異量(TMB rate)高レベル群では病勢安定(SD)、病勢進行(PD)を達成した患者よりも完全奏効(CR)、部分奏効(PR)を達成した患者が多かった。
副次評価項目である遺伝子変異量(TMB rate)別の1年無増悪生存率(PFS rate)はオプジーボ群で腫瘍の遺伝子変異量(TMB rate)の低レベル群不明、中レベル群3.1%、高レベル群21.2%、オプジーボ+ヤーボイ群で腫瘍の遺伝子変異量(TMB rate)の低レベル群6.2%、中レベル群8.0%、高レベル群30.0%、両群ともに腫瘍の遺伝子変異量(TMB rate)の低レベル、中レベル群よりも高レベル群で1年無増悪生存率(PFS rate)が高かった。
また、もう1つの副次評価項目である遺伝子変異量(TMB rate)別の1年全生存率(OS rate)はオプジーボ群で腫瘍の遺伝子変異量(TMB rate)の低レベル群22.1%、中レベル群26.0%、高レベル群35.2%、オプジーボ+ヤーボイ群で腫瘍の遺伝子変異量(TMB rate)の低レベル群23.4%、中レベル群19.6%、高レベル群62.4%、両群ともに腫瘍の遺伝子変異量(TMB rate)の低レベル、中レベル群よりも高レベル群で1年全生存率(OS rate)が高かった。
以上のCheckMate032試験の研究結果よりMatthew D. Hellmann氏らは以下のように結論を述べている。”これまで、進展型小細胞肺がん患者さんをはじめ免疫チェックポイント阻害薬の効果を予測するのは非常に困難でした。しかし、我々の研究により腫瘍の遺伝子変異量(TMB rate)は小細胞肺がん患者さんに対する免疫チェックポイント阻害薬の効果予測因子になり得ることが証明されました。特に、腫瘍の遺伝子変異量(TMB rate)が高レベルの進展型小細胞肺がん患者さんに対するオプジーボ+ヤーボイ併用療法の有効性は高いため、効果予測因子としての役割を腫瘍の遺伝子変異量(TMB rate)が担う可能性が高いでしょう。”