2月20日、厚生労働省 薬事・食品衛生審議会再生医療等製品・生物由来技術部会は、国内初のがん免疫療法キメラ抗原受容体発現T細胞(CAR-T)療法であるチサゲンレクル(商品名キムリア)の承認を了承した。これにより、3月にも承認される見込みとなる。一方、キムリアの米国での価格は5400万円程度と高額であり、保険収載がどのようになされるかが議論となる。
キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法に要する患者1人当たりの総医療費 医学誌『JAMA Oncology』より(2018/5/8)
目次
キムリアの適応範囲
CAR-T療法は、患者から採取したT細胞に標的能を持つキメラ抗原受容体(CAR)を発現させる遺伝子改変技術を施した後、体内に戻す自家T細胞治療で、すでに米国の臨床現場で行われている。
キムリアはCD19標的CAR-T療法であり、2017年9月に米国食品医薬品局(FDA)に、2018年7月に欧州医薬品庁(EMA)に、「急性リンパ芽球性白血病(ALL)」や「びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)」、「縦隔原発B細胞リンパ腫(PMBCL)」として承認された。
一方、日本では2018年4月、CD19陽性のALL、またはDLBCLの適応でキムリアの承認申請がなされており、今回の部会にてこれらの適応において了承したことになる。
CAR-T療法;キメラ抗原受容体発現T細胞療法の最新知見~B細胞性の白血病またはリンパ腫に対する新免疫療法CAR-T~New England Journal of Medicineより
キムリアの有効性~第60回米国血液学会(ASH)より~
再発・難治性のALL患者を対象とした国際共同第2相試験(ELIANA試験)における全寛解率(CR;完全寛解,CRi;血液の回復は不十分だが骨髄では完全寛解)は82%を示した。
小児および若年成人のCD19陽性再発難治性B細胞性急性リンパ芽球性白血病に対するCAR-T療法キムリア、全寛解率82%を示す 第60回米国血液学会(ASH)(2018/12/28)
再発・難治性のDLBCL患者を対象とした国際共同P2試験(JULIET試験)では、奏効率は54%を示した。
びまん性大細胞型B細胞リンパ腫に対するCAR-T細胞医療キムリア、奏効率54%を示す 第60回米国血液学会(ASH)(2018/12/28)
キムリアの懸念される毒性とは
キムリアは「サイトカイン放出症候群(CRS)」が最も注意しなければならない毒性となる。
CRSは発熱、低血圧、低酸素症、神経変性などに伴い血清中のサイトカインが増える状態で、CD19標的CAR-T療法で発症するCRSの重症度は、CAR-T細胞のターゲットになる腫瘍細胞が多いほど高くなると考えられています。軽度から中等度のインフルエンザ様症状を呈し、一部の患者では重度の低血圧や頻脈、呼吸困難などが誘発され、症状が急激に進展して死に至る場合もある。キムリアでは、グレード3以上(中等度から重度)のCRSはALLで48%、DLBCLで23%で発現している。
CRSでは対処法として抗IL-6抗体医薬であるトシリズマブ(商品名アクテムラ)があり、2月22日の第二部会で審議予定となる。
アクテムラ:「CAR-T 細胞輸注療法に伴うサイトカイン放出症候群」に対する 効能・効果追加を承認申請(2018/5/30)
なお、今回の審議において、以下の承認条件がついた。
・緊急時に十分対応できる医療施設で、造血器悪性腫瘍および造血幹細胞移植に関する十分な知識・経験を持つ医師のもとで、CRSの管理など適切な対応が行われる体制下で使用する。
・国内での治験症例が極めて限られていることから、製造販売後、一定数の症例データ(400例)が集積されるまでの間は全症例を対象に使用成績に関する調査を行う。