6月3日、米イーライリリー・アンド・カンパニー(以下、米リリー)は、上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子変異のある進行非小細胞肺がん(NSCLC)の一次治療として、サイラムザ(一般名ラムシルマブ 以下サイラムザ)をエルロチニブ(一般名エルロチニブ 以下タルセバ)との併用療法としてFDAが承認したと発表した。
EGFRは細胞の成長や分裂を助けるタンパク質であり、この遺伝子に変異が生じるとタンパク質が過剰に活性化され、通常より早く細胞の成長と分裂が行われる。最も一般的なEGFRの遺伝子変異は「活性型エクソン19欠乏(以下エクソン19)」と「エクソン21(L858R)点突然変異(以下エクソン21)」であり、EGFR遺伝子変異を有する腫瘍の90%以上に見られる。この変異の有無は、チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)への感受性にも関連しており、EGFR遺伝子変異陽性のNSCLCにおいて、EGFRを標的としたTKIの使用は標準的な治療のひとつである。
今回の承認は、サイラムザとTKIであるタルセバの併用療法をプラセボとタルセバ療法と比較した国際共同第3相試験(RELAY試験)の結果に基づく。エクソン19またはエクソン21に変異がある進行NSCLCに対して、サイラムザとタルセバの併用療法が統計学的に有意に無増悪生存期間(PFS)を改善し、安全性に関しては、これまでのプロファイルと一貫していた。また、エクソン19とエクソン21のサブグループにおいても、PFSの改善が見られた。今回の承認により、この併用療法は、EGFR遺伝子変異陽性の進行NSCLCにおいて初めてFDAが承認した唯一の抗VEGFR/EGFR TKI併用療法となった。
RELAY試験の北米リード治験責任医師であるEdward Garon, M.D.は「VEGFR経路とEGFR経路を二重に阻害するこのレジメンが EGFR遺伝子変異陽性進行NSCLCの新たな一次治療として承認されたことは、この疾患の治療において重要なことです。従来の治療法より増悪を遅らせることができる初回治療の選択肢が複数あることは素晴らしいことです。サイラムザ+タルセバ併用療法は、EGFR遺伝子変異陽性進行NSCLC患者の一次治療の選択肢として待ち望まれていた治療です」と述べている。
なお、RELAY試験の結果に基づき、サイラムザは日本においても適応追加の承認申請を行っている。
サイラムザについて
VEGFR2を標的とする血管新生阻害薬。新しい血管を作り出すプロセスを血管新生と呼び、がん患者の場合は、血管新生により腫瘍に血液を供給する新たな血管が異常に形成されることで、腫瘍の増殖や転移が生じる。一部の腫瘍はVEGFと呼ばれるタンパク質を生成し、血管細胞のVEGFRと結合して腫瘍の周囲に新たな血管を誘導することで、腫瘍を増殖させる。サイラムザは、VEGFRの中でも最も腫瘍血管新生と関連しているVEGFR2に結合することで、VEGF受容体2の活性化を阻害し、血管新生および腫瘍に栄養を与える血液供給を遅滞させ、腫瘍の増殖を抑制する。
非小細胞肺がんのEGFR遺伝子変異について
NSCLCの約半分は診断された際に進行性もしくは転移性であり、進行NSCLCの5年生存率は6%である。また、EGFR遺伝子変異はNSCLCの10~35%に発現する。中でも活性型EGFR遺伝子変異は女性、非喫煙者、腺がんの組織型を有する人、アジア人で多くみられる。