転移性大腸がんの中で、DNAミスマッチ修復機構欠損(dMMR)、またはマイクロサテライト不安定性の高い(MSI-H)タイプの患者は、大腸がん全体の15%、転移性大腸がんの5%程度と少数集団ではある。
しかし、こうした腫瘍のミスマッチ修復機構に異常がない大腸がん患者と比べ予後不良で、従来の化学療法が効きにくいことから、新たな治療法が求められている。
2017年6月2日から5日に開催された米国臨床腫瘍学会(ASCO)で、免疫チェックポイント阻害薬のニボルマブ(商品名オプジーボ)とイピリムマブ(商品名ヤーボイ)の併用療法で、dMMR、またはMSI-Hの転移性大腸がん患者の54.8%が奏効し、最も長い奏効持続期間が15.9カ月に達したと報告された(Abstract No.3531)。
これは、免疫チェックポイント阻害薬以外の治療歴を有する再発、または転移性大腸がん患者を対象としてニボルマブ単剤、またはニボルマブとイピリムマブ併用療法の有効性と安全性を評価した第2相非盲検非対象試験(CheckMate-142、NCT02060188)の中で、オプジーボとヤーボイ併用療法を受けたdMMR、またはMSI-Hが確認された患者集団を対象とする中間解析結果から報告された。
目次
DNA修復機構の異常の有無別にがん免疫療法を評価する第2相試験
CheckMate-142の併用療法群では、ニボルマブ3mg/kgとイピリブマブ1mg/kgを3週ごとに4回静注し、以降はオプジーボのみを2週ごとに静注した。
その結果、投与開始後6カ月以上経過した時点での解析対象は84例で、そのうち66例は2レジメン以上の前治療歴があった。
主要評価項目である治験担当医師判定の奏効率は54.8%(46/84例)で、解析時点で85%が奏効を維持し、持続期間の最長は15.9カ月、持続期間中央値の特定には至らなかった。全生存期間(OS)の中央値特定にも至らず、9カ月時点での生存率は87.6%であった。
グレード3からグレード4の有害事象は28.6%の患者に発現し、治療関連有害事象を理由に13.1%の患者が治療を中止した。治療関連死は認められていない。
オプジーボ単剤群の奏効率は31.1%
CheckMate-142におけるオプジーボ単剤群の中間解析結果は、2017年1月のASCO-GI消化器がんシンポジウムで先に報告された。それによると、dMMR、またはMSI-Hの有無を問わない再発、または転移性大腸がん患者集団において、治験担当医師判定の奏効率は31.1%、12カ月時点の生存率は73.8%であった。安全性に問題はなく、有害事象は他の固形がん患者のデータと同様であった。
高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-H)は遺伝性大腸がんの可能性大、遺伝子検査が合理的な治療選択に寄与
DNAの中で数塩基程度の配列を繰り返すマイクロサテライトは、DNAの複製時に反復回数にエラーが生じやすく、塩基のミスマッチを修復する機能が低下するため、腫瘍組織と正常組織のマイクロサテライトの反復回数が異なることで不安定になる。
遺伝性非ポリポージス大腸がん(HNPCC)、いわゆるリンチ症候群の90%以上に高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-H)が認められるとの報告もある。
DNAミスマッチ修復機構欠損(dMMR)は、ミスマッチを修復する蛋白質が欠損、または機能していない状態で、MSI-Hの原因となる。
そして、リンチ症候群の原因遺伝子はミスマッチ修復遺伝子(MLH1、MSH2、MSH6、PMS1、PMS2)で、これらの生殖細胞系列の変異が常染色体優性遺伝により50%の確率で遺伝するとされる。dMMR、またはMSI-Hのバイオマーカーを検査する遺伝子検査は既に保険適用済みで、検査結果に基づき、ベネフィットが期待できない治療を回避して適切な治療法を選択することが可能になっている。
記事:川又 総江