EGFR変異非小細胞肺がん(NSCLC)でオシメルチニブ(商品名タグリッソ)と標準第1次治療と比較したFLAURA試験の最新の結果が2017年9月9日、スペイン・マドリードで開催されている欧州臨床腫瘍学会(ESMO2017)で報告され、タグリッソが無増悪生存期間(PFS)を54%改善したことが明らかとなった。ESMO2017では、Suresh Ramalingam氏(米国Winship Cancer Institute of Emory大学)が報告した。
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タグリッソとは?
上皮増殖因子受容体(EGFR)-T790Mチロシンキナーゼを標的とする不可逆的阻害薬オシメルチニブ(商品名タグリッソ)は2016年3月に厚労省より承認されている。
適応症は、「EGFRチロシンキナーゼ阻害薬に耐性を獲得したEGFR-T790M遺伝子変異陽性で手術不能、または再発の非小細胞肺がん(NSCLC)」である。第1世代のゲフィチニブ(商品名イレッサ)、エルロチニブ、第2世代のアファチニブ(商品名ジオトリフ)に続く第3世代と位置付けられている。
本承認は、第2相試験であるAURA2試験の結果をもとに承認されたが、T790M遺伝子変異陽性の非小細胞肺がん患者を対象としたタグリッソ単剤とペメトレキセドとプラチナ製剤併用を比較した第3相試験(AURA3、NCT02151981)の結果、無増悪生存期間(PFS)中央値はタグリッソ群10.1ヶ月、ペメトレキセド+プラチナ群4.4ヶ月であり、統計学的に有意にタグリッソ群で長かった(ハザード比[HR]:0.30、p<0.001)。
一方、未治療のEGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がん患者60例による予備研究では、タグリッソの無増悪生存期間中央値は20.5ヵ月であり、ゲフィチニブ(商品名イレッサ)等で得られた結果よりも約2倍であったと報告されている。
EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がん患者に一次治療からタグリッソを使用する第3相試験FLAURA
FLAURA試験(NCT02296125)は、EGFR遺伝子変異を有する局所進行/転移性非小細胞がん患者においてオシメルチニブ(商品名タグリッソ)と標準療法であるエルロチニブまたはゲフィチニブ(商品名イレッサ)を比較する無作為化第3相臨床試験。主要評価項目は無増悪生存期間、副次的評価項目は全生存期間、奏効期間、奏効率であった。日本を含むアジア、ヨーロッパ、北米の合計556例の患者が、タグリッソまたは標準治療に1:1に無作為化されている。
結果、タグリッソの無増悪生存期間中央値は18.9ヵ月(15.2,~21.4)となり、標準治療の10.2ヵ月(9.6~11.1)に比べ有意に良好であり、病勢進行または死亡リスクを54%減少させる結果であった(HR:0.46、95%CI:0.37~0.57、p<0.0001)。PFSの結果は、脳転移例も含め、すべてのサブグループで一貫してタグリッソで良好であった。
奏効期間中央値は、タグリッソ17.2ヵ月と、標準治療の8.5ヵ月に比べ2倍長かった。全奏効率はタグリッソで80%、標準治療では76%であった(ORR 1.28、95%CI:0.85-1.93、p=0.2335)。
全生存期間は中間解析では(達成25%)中央値に達しておらず、統計的に有意ではないものの、タグリッソは死亡リスクを37%低下しており良好な傾向であった(HR 0.63、95%CI:0.45-0.88、p=0.0068、本試験の統計学的有意差はp=0.0015としており、現時点では有意差は示されていない)。
Grade3以上の有害事象の発生率は、タグリッソでは33.7%で標準治療の44.8%よりも低かった。また、有害事象による治療中止はタグリッソでは13.3%で標準療法の18.1%より低かった。
頻度の高い有害事象としては、以下のとおりである。
– タグリッソ:下痢(58%(グレード3以上 2%))、皮膚乾燥(32%(グレード3以上 1%未満))
– 標準治療:下痢(57%(グレード3以上 3%))、ざ瘡様皮疹(48%(グレード3以上 5%)
代表発表者である米国 Winship Cancer Institute of Emory UniversityのSuresh Ramalingam氏はESMOプレスリリースのなかで「Osimertinibは、EGFR変異NSCLCの標準1次治療より明らかに優れていた。脳転移の有無にかかわらず、PFSはほとんど同じであり、オシメルチニブ全身と共に脳においても活性を示すことが示唆された。脳転移はEGFR変異患者の共通の問題であるため、これは重要である」と述べている。
「一次治療からタグリッソを使用するべきか?」は、今後、議論が加速
今回の結果について、近畿大学呼吸器外科主任教授、兼日本肺癌学会理事長の光冨徹哉氏は、「第3世代EGFR-TKIであるオシメルチニブの方がゲフィチニブやエルロチニブといった従来のEGFR-TKIより有意に長い無増悪生存期間を示すことは確実であろうとは考えていたが、ハザード比が0.5を切るというところまでは思っていなかった。今後の臨床に非常にインパクトがある結果であると思う。従来のEGFR-TKIでは、無増悪生存期間(PFS)では有意差がついたが、全生存期間(OS)ではクロスオーバーのために対照群に追い付かれ、有意差がなくなってしまうことが多かった。しかしFLAURA試験では検定の多重性のコントロールのために有意差ではないものの、カプランマイヤーの生存曲線を見る限りオシメルチニブの生存曲線は全期間 上をいっているのは驚きであった。毒性についてもオシメルチニブは概して従来のEGFR-TKIよりも軽く、オシメルチニブは『有効性も高く、毒性も弱い』という素晴らしい薬物であると思う。今後、オシメルチニブを初回治療から使用するか、オシメルチニブを使用すると次に使用する薬剤がなくなるために現状通り二次治療から使用するかの議論がなされていくと思うが、私見としては初回治療からオシメルチニブを使用する機会が増えて、二次治療前に再生検を行ってT790M遺伝子変異を検査するケースは減っていくのではないかと思う」と述べた。
一方、肺がん患者会ワンステップ、兼日本肺がん患者連絡会代表の長谷川一男氏は「素晴らしい結果だと思う一方、患者の立場としては、難しいかもしれないが『今現在イレッサなどを使用して効果がある方に対して、タグリッソを使用できるようにならないだろうか』というところが気になるところ」と、現在、イレッサ等を使用している方への使用について言及した。
今回のESMO発表では、時間的な関係上会場からの質問は受け付けられなかったが、10月に日本で開催される世界肺癌学会大会や日本肺癌学会学術集会では、さらなる議論がされると考えられる。
記事:可知 健太 & 前原 克章 & 山田 創