11月20日、NHKで放映された「NHKスペシャル “がん治療革命”が始まった ~プレシジョン・メディシンの衝撃~ 」。20日は見逃して、先ほど再放送を見ましたので、感想を書きました。
目次
プレシジョン・メディシン~技術発展によるより高精度な医療~
プレシジョンメディシン(Precision Medicine)は、日本語では高精度医療といいます。NHKでは、精密医療と報じていましたね。
2016年2月、米国ではオバマ大統領が国家プロジェクトである「National Cancer Moonshot(ムーンショット)」イニシアティブを10億ドルを拠出して立ち上げましたが、その重要位置づけは、プレシジョンメディシンです。
プレシジョンメディシンとは、テーラーメード医療や個別化医療の一種となります。がん細胞の遺伝子を次世代シークエンサーで解析し、患者ごとにがんの原因となった遺伝子変異を見つけ、その遺伝子変異に効果があるように設計した分子標的薬を使用するといった手法です。
例えば、肺がん(非小細胞肺がん)は今や希少がんの集合といわれています。なぜかというと、EGFR遺伝子変異、ALK遺伝子変異に代表される「がんの引き金になった遺伝子(ドライバーオンコジーン;driver oncogene)の変異」から罹患したがんの集合体だからです。
EGFR遺伝子変異(30%)に対しては、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬であるゲフィチニブ(イレッサ)、エルロチニブ(タルセバ)やアファチニブ(ジオトリフ)が奏効し、最近、これらに耐性ができた場合でも奏効する第3世代であるオシメルチニブ(タグリッソ)といった薬剤も出てきました。さらに第4世代なるものも初期臨床試験が始まったと聞いています。
ALK遺伝子変異(5%)に対しては、ALKチロシンキナーゼ阻害薬であるクリゾチニブ(ザーコリ)、アレクチニブ(アレセンサ)やセリチニブ(ジカディア)などが奏効し、日本で上市されています。(余談ですが、ALKを見つけた先生はこの番組で解説されていた間野先生です)
その他、ROS1遺伝子変異(1~2%)に対してザーコリが、BRAF遺伝子変異(1%)に対してダブラフェニブ(タフィンラー)およびトラメチニブ(メキニスト)が希少疾病医薬品指定されていたり、RET遺伝子変異(1~2%)については報道されていたSCRUM-Japan(スクラム・ジャパン)主導のバンデタニブ(カプレルサ)の臨床試験結果を今年の米国臨床臨床腫瘍学会で発表しています。
LC-SCRUM-Japan活用 RET融合遺伝子陽性非小細胞肺がんにカプレルサが高い抗腫瘍効果を示唆ASCO2016
SCRUM-Japan ~無料で遺伝子検査が受けれて、個別の治験に参加できる可能性があるという最大限の利点あり~
報道では、SCRUM-Japanのことを大きく報じていました。現在、LC-SCRUM(エルシー・スクラム)とGI-SCREEN(ジーアイ・スクリーン)という2つのプロジェクトがあります。
LCとは肺、GIは消化管のことを指しますが、始めにできたのがLC-SCRUMです。
上述通り、肺がんは、肺がん全体の1~2%程度という遺伝子変異が多く、これまでのやり方では薬の開発は困難でした。よって、LC-SCRUM-Japanでは、全国の医療機関が一体となって遺伝子スクリーニングを行うことで希少肺がんの患者さんを集め、新しい薬の開発につなることを目標にしています。GI-SCREENも臓器が違えど目的は同じと認識しています。
また、これらは臨床研究となっており、無料で検査を受けれることが大きな特徴です。患者さんからすれば、本来数十万といった次世代シクエンサーを使用する遺伝子検査を無料で受けれて、もし、実施中の治験があればそれに登録できる可能性があるという素晴らしい仕組みであると考えます。
詳しくはコチラをご覧下さい。
放送されたMSI-High大腸がんに対する免疫チェックポイント阻害薬による治験とは?
番組の始めに、大腸がん対象の免疫チェックポイント阻害薬の治験の話が出ました。大腸がんは免疫チェックポイント阻害薬に対する効果が乏しいです。
しかしながら、高頻度マイクロサテライト性不安定性(MSI-High)またはミスマッチ修復機構(MMR)欠損の大腸がん患者に対しては、免疫チェックポイント阻害薬が効果があることがわかってきています。
冒頭の患者さんはおそらくGI-SCREEN-Japanにて検査して、これらに該当したのではないでしょうか。
ちなみに、GI-SCREEN-Japanのホームページより、それっぽい臨床試験を見つけました。「治療歴のある切除不能な局所進行又は転移性(Stage IV)のMSI-High 結腸・直腸癌患者を対象としたMK-3475単独療法の第II相試験(KEYNOTE-164)」です。MK-3475はPD-1抗体のペムブロリズマブ(キイトルーダ)のことですね。(すでに募集を終了している試験可能性もありますが・・・)
アンブレラバスケット試験~さらに進んでいる米国~
プレシジョンメディシンに対応するために臨床試験手法が変わりつつあります。
番組では、間野先生も言及されていましたが、がん種ごとに臨床試験の設計を組むのではなく、遺伝子変異ごとに臨床試験を組む手法です。この仕組みをバスケットスタディといいます。かご(バスケット)の中に様々ながん種を入れるというニュアンスなんだと聞いたことがあります。
アンブレラスタディというのもあります。これは、がん種は同じですが、見つかった遺伝子変異によって使用する薬剤を変えるという手法です。これは傘(アンブレラ)をがん種に見立てて、その中に薬剤が入っているといったニュアンスなんだと聞いたことがあります。
そして、これらを組み合わせたのが、アンブレラバスケット試験。
ようするに、様々ながん種の遺伝子解析をSCREEN-Japanのような仕組みで実施して、その遺伝子にあった薬剤を使用するというデザインの試験です。SCREEN-Japanは、がん種は決まっている点からバスケット試験とは言えず、さらに遺伝子解析をもとに独立した試験に送り込むのですが、この仕組みはそれすら同じ枠組みで実施してしまうというものです。
この仕組みによる結果が出てきましたので、興味がある方は以下を参考にしてください。
遺伝子異常を伴うがん患者に治療機会を広げる高精度医療(プレシジョンメディシン)のアプローチ アンブレラ・バスケット試験 ASCO2016
ちなみに、遺伝子解析情報を保有している肺がんデータベースはとしてはLC-SCRUM-Japanが世界一と聞いていますので、日本もまだまだ負けていないことを覚えていてください。
あとがき
勢いで書きましたが、如何だったでしょうか?
ずっと、まとめる機会がなかったプレシジョンメディシン。いい機会なので、感想と共にまとめました。番組内で取り上げていたのに、今回取り上げられなかった話題についてもいつか語れればと思っています。
NHKの番組内容から、ものすごく期待されるのではないかと思います。ただ、そもそも治療や治験がある遺伝子変異が認められる可能性は低く、ものすごいハードルが高いこともご認識ください。また、遺伝子変異がありそれに対応する治療や治験があったとしても、万能ではないこともご認識ください。
プレシジョンメディシンとは?
プレシジョンメディシン(Precision Medicine)は、日本語では高精度医療といい、テーラーメード医療や個別化医療の一種となります。がん細胞の遺伝子を次世代シークエンサーで解析し、患者ごとにがんの原因となった遺伝子変異を見つけ、その遺伝子変異に効果があるように設計した分子標的薬を使用するといった手法です。
プレシジョンメディシン-オンコロ辞典
記事:可知 健太