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生命力あふれる乳がん体験者 NPO法人エンパワリング ブレストキャンサー『E-BeC』 理事長 真水 美佳さん衝撃の乳がん告知、そして「再建後の胸の写真集」へ!

  • [公開日]2017.12.05
  • [最終更新日]2017.12.06

 現在、女性の11人に1人がかかると言われている「乳がん」。乳がん患者は、がんになったという衝撃に加えて、「胸を失ってしまう」「術後どんな胸になるのか」などの悩みを抱えることも多いものです。

 近年、「乳房再建」は社会でも知られてきていますが、その情報がなかったころに乳がんを経験されたNPO法人エンパワリング ブレストキャンサー『E-BeC』理事長の真水美佳さんは、ご自身の経験から「再建後の胸の写真集を出そう!」という一歩を踏み出しました。そこから様々に展開していった真水さんの活動、活力は、多くの乳がん患者さんに勇気と希望を与えるものになっています。
 「私もがんばれる気がする!!」そんな気持ちにさせてくれる真水さんにお話をうかがいました。

目次

「このまま天寿をまっとうしようかと思った」

鳥井:まず、真水さんの自己紹介をお願いします。

真水:NPO法人エンパワリング ブレストキャンサー「E-BeC」の理事長をしています。E-BeCでは、乳房再建を広く理解してもらうため、そして乳がん患者さんのQOL(Quality of Life/生活の質)向上のための情報発信を行なっています。ウェブサイトでの情報掲載、セミナー、アンケート調査、『乳房再建手術Hand Book』製作などの活動をしています。活動を開始してから来年で5年になります。

鳥井:ご自身の乳がんの告知から、どのような治療を行なったかを教えてください。

真水:2008年に「両側(りょうそく)乳がん」と告知されました。右は乳房全摘出と同時に再建、左は乳房温存での手術を行いました。それから1年間のホルモン治療を行なったのですが、あまりに副作用がひどかったため、主治医と相談のうえ治療をストップしました。罹患(りかん)から9年目の今は、年1回の経過観察となっています。

鳥井:告知された時はどんなお気持ちでしたか。

真水:目の前が真っ暗になりました。多くの人が思うように、「なんで私なんだ、なんで私じゃないといけないの?」と思いました。社会から疎外されたような気持ちでしたね。「手術をしないでこのまま天寿をまっとうしようか」と思うなど、まったく前向きにはなれませんでした。

 小学校低学年の頃、乳がん経験者の叔母と一緒にお風呂に入ったことがありました。叔母には片胸がなく、衝撃を受けました。しかし、「どうしてお胸がないの?」と聞いてはいけないというのが、子供ながらに分かったんです。

 告知を受けて、「私もそうなるの?」と思いました。私が衝撃を受けたように周りの人をびっくりさせるのも嫌だし、その時は周りにだれも乳がん体験者もいなかったし、手術後にどんな胸になるのかが怖くて仕方ありませんでした。

 そして、「とにかく切らないでなんとかならないのか」と思い、今度は手術をしない方法を探したのですが、見つかりませんでした。当時、乳房再建はまだメジャーではなかったんです。医師から「この病院では再建を行なっていません。再建したいのであれば、紹介状は必要なだけ書くので自分が納得できる病院を探してください」と言われました。そこで初めて再建という言葉を知って、「そんなことができるのか」とびっくりしました。

 しかし、調べてみたものの、当時あったのはブログからの情報だけ。その中で「これはいけそうだ」と思ったブログに書かれていた形成外科医に話を聞きに行きました。

 ひととおりのデータを持って行ったら「乳腺外科の先生にも会ってみてください」とのことになり、そこでバタバタと同時再建を含めた手術が決まりました。実はそれまで、治療する病院を決められない“病院難民”になっていたんです。乳がん発覚から半年後に手術をすることになりました。

写真集を作りたい!——『いのちの乳房』発売

鳥井:その後、真水さんは写真集を出版されました。なぜ写真集を作ろうと思ったのでしょうか。

真水:当時は先生の学会報告用の資料と思われるものをもらい、それ以外の説明はありませんでした。その時は本当に大変だったし辛かったんです。そこで、「再建した胸の写真集を作りたい!」と思いました。

鳥井:当時の自分が必要だったものを作ろうと思ったんですね。

真水:その頃は、大学系の研究所で先生方のマネジメントやシンポジウムの企画、学術書の出版などをする仕事をしていました。ちょうどビジネス書を作ることになり、その関係で編集者やフリーライターさんと一緒に仕事をしていたんです。

 そこで、「写真集を作りたい」という話をしました。そうしたら、「それいいね」ということになって。写真家の荒木経惟さんを紹介していただきました。荒木さんのことはあまり詳しく知らなかったので、どんな写真になるのか不安だったのですが、「絶対荒木さんがいい」と言われて(笑)。でも、荒木さんの『母子像』シリーズや『日本人ノ顔』プロジェクトなどを見て、いいなと思いました。そして会って話をしたら、「いいね、やろう」と言ってくれたんです。

鳥井:すごいですね!

真水:それからあわてて出版社とモデルさん探しです。主治医に患者さんと再建を手がけている形成外科の先生を紹介してほしいと相談に行き、患者会やツイッターでも募集しました。すると、すぐに定員の20人(最終的には19人)が集まったんです。フルヌードの写真集ですが、みなさん「辛い経験を乗り越えた自分を、荒木さんに撮ってもらいたい」とのことでした。

鳥井:なぜフルヌードなのでしょうか。

真水:再建では、お腹やお尻、太ももなどの自家組織を胸に移植するという方法があります。その傷も写すということでフルヌード。モデルさんには、「本当に大丈夫ですか?」と確認をしました。再建するとハッピーになってしまう「再建ハイ」というものがあります。その勢いで撮って、あとで後悔してしまうのは残念ですから。

鳥井:出版後、社会の反応はどうでしたか。

真水:比較的好意的だったと思います。NHKや新聞にも掲載されて話題になり、社会的にも受け入れてもらえたと思いました。

 ところが、医師の反応は違いました。写真集を学会のブースで販売したら、台湾などの海外の先生方は好意的に受け止めてくれましたが、日本の先生方は冷ややかだったんです。「日本でもとうとうこんな本が出たんだ」というような冷たい反応でした。

鳥井:それは残念ですね……。

真水:そのことから、「医療者にも理解をしてもらわないといけない」と思いました。助成金や企業の支援により、写真集を乳腺外科医や乳がん看護専門看護師さんに向けて送付しました。

鳥井:負けずにさらなる活動をしていったのですね!

NPO設立、そして、つながりがつながりを生む活動

鳥井:その後、NPOを立ち上げようと思ったきっかけは何だったでしょうか。

真水:NPO法人キャンサーネットジャパン(CNJ)でボランティアをしていた時、地方に住む患者さんたちが、乳房再建の情報を集めるために東京まで来ていることを知りました。地元でも熱心に乳房再建に取り組んでいる医師がにいるのに、それを知らない人が多い。そんな現状を知りました。そのために何か活動をしたいと思い、仕事を辞めて再建に関する情報発信のためのNPOを立ち上げました。

 サイトのコンテンツには、必ず医療監修を付けています。前職の経験から、監修は重要だということが分かっていましたから。そのほか、再建の専門医や再建経験者のインタビュー、座談会でのインタビューなども掲載しています。猪突猛進で後先考えずに始めてしまいましたが、やりたかったことをやることができて、今すごく楽しいです。

鳥井:そのほかにはどのような活動をされているのでしょうか。

真水:サイト立ち上げの次には「セミナーをやろう」と思いました。第1回目は、私の実家があって患者会の知り合いもいる札幌で行いました。自費で行い、私と再建経験者3人くらいで講演を行ったんです。寄付をつのったら交通費をまかなえるくらいになったので、「なるほど、こういう方法もあるのか」と思い、次には助成金をもらって沖縄で開催しました。ここではCNJのBEC(乳がん体験者コーディネーター)養成講座で同期だった方が沖縄にいたため、手伝ってくれました。

 3回目くらいのセミナーから形成外科医を講師としてお招きしました。さらに2年目あたりにはセミナーの形もきちんとできてきて。現在では、「乳房再建全国キャラバン」を各地で年に2回と、「特別セミナー」を東京で1回行なっています。

 キャラバンには、「その土地で再建を行なっている医師の発掘」の意味合いもあります。主治医や他の先生方から紹介してもらった医師に参加していただいているのですが、その先生たちもとても熱心なんです。講師として登壇していただき、インタビューをE-BeCのサイトに掲載しています。

鳥井:様々なつながりをもとに発展していったんですね。

真水:そうですね。さらに、今度はインプラントが保険適用になったことをきっかけに、「ハンドブックを作ろう」ということになりました。インプラントなどの医療製品を開発している「アラガン・ジャパン」の支援により『乳房再建手術 Hand Book』を制作し、全国1250ヶ所の医療機関に配りました。

 今年(2017年)7月には、乳がん患者さんのQOL向上のための「口腔ケア」「傷ケア」「下着」の情報を追加した改訂版も作りました。医療機関では、乳がん患者さんに「これを読んでおいて」と渡すこともあるほどです。

鳥井:活動を始めて、がん患者さんからはどんな声がありましたか。

真水:ポジティブな声ばかりです。「写真集で助けられた」と言ってくれる人は結構います。最初、困り果てて泣きながらセミナーに来ていた人が、「私はE-BeCに救われた」と言って、今度はセミナーを手伝う側になってくれることもありました。「再建が終わりました。本当にありがとうございました」という声もいただきます。それは本当にありがたいです。

鳥井:活動が誰かの力になるのはとてもすばらしいことですね。

だれもが「私はこういう胸にしたい」と言えるように

鳥井:真水さんが今後やっていきたいことをお聞かせください。

真水:やりたいことはいろいろとあります。ひとつには、サイトのコンテンツを充実させたいと思っています。乳がん患者にとって、乳房再建はQOL向上のひとつだけれど、そのほかにもQOL向上のためにできることがあります。それも掲載していきたいです。

 セミナーでは、小さい都市を周ってみたいです。スモールミーティングみたいな感じで。それがきっかけでその地域で「私たちも患者会を作りたい」となるなど、小さな火がポッポっといろんなところに飛び火していくといいなと思っています。

 あとは、もう一度写真集を作りたい。前回写真集を作った時と現在とでは、再建の環境が変わってきています。再建が保険適用になった今の写真集を作りたいです。

 写真集には、患者さんの生き生きした顔も写っています。乳がんというと、どうしても暗いイメージを連想してしまいますが、みなさんとても元気ではち切れちゃってるんです(笑)。タトゥーをつけている人、カップルで写っている人、親子で写っている人など、みんなそれぞれです。それを見ると、「私もこうなれる」と思えるかなと。傷も写っているけれど、「そんなことは関係ない。とにかく元気!」という姿を届けたいと思っています。

 また、写真集がメディアに取り上げられるのもすごく大事。今、乳がんになっていない人にも、ある程度の知識を持っていてほしいと思います。がんになってすぐはショックだし、情報を探そうとすることだけでもとても難しい。もしも、がんになる前にどこかで写真集を目にしていたとしたら、「そういえばそんなものがあったな」と思い出して慌てないですむかもしれません。

 現在は、地域での医療格差・情報格差があります。再建をしたい人は、だれでもどこでも一定の水準の医療が受けられるようにできたらと思いますが、患者さんも自分で知識をつけることが大事。言われるがままにしてしまって後悔するということもあります。「私はこういう胸にしたいんです」と言えるように、患者自身も力を持っていく必要がありますね。

鳥井:活動を次々に新しい方向へとつなげていく、そんな真水さんこそが生き生きとしているように感じました。本日はありがとうございました!


特定NPO法人エンパワリング ブレストキャンサー『E-BeC』
http://www.e-bec.com

(写真・文:木口マリ)

●プロフィール:
真水 美佳(ますい みか)
NPO法人エンパワリング ブレストキャンサー理事長
NPO法人キャンサーネットジャパン認定乳がん体験者コーディネーター

2008年、両側乳がんの宣告を受け、左側温存、右側全摘出と同時に乳房再建手術を受ける。2010年、自身の乳がん体験をもとに写真集『いのちの乳房-乳がんによる「乳房再建手術」にのぞんだ19人』 (撮影:荒木経惟、発行:赤々舎)を企画・出版、モデルの1人でもある。2013年1月、NPO法人エンパワリング ブレストキャンサー/E-BeC設立。ウェブサイトからの情報の発信、『乳房再建手術Hand Book』の作成、 「乳房再建に関するアンケート調査」や特に情報の少ない地方都市を中心に「乳房再建全国キャラバン」を開催している。

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