がんは身近な病気です。家族の誰かががんになることもあります。がんと言われたら動揺し、さまざまな心配ごとを抱えます。患者本人と同様、精神的に大きな負担がかかり、押しつぶされそうになります。
本書では、家族の誰かががんになって、治療生活を支えていく中において、自身の職場生活も維持していくときの、役立つと思われる知識と情報を取りまとめました。家族の闘病を支えることと仕事を続けていくことの両立に向け、役立てください。
作成 社会保険労務士 井後伸一(徳島県社会保険労務士会所属)
目次
がんになった家族を支えるとき
家族の誰かががんになったとき
家族の誰かががんになったら、家族全員大きな不安を抱えます。先が見えないので心配です。がんは身近な病気ですので、がんになることは珍しいことではありませんが、いざ宣告を受けると、どうしてよいのかわからず、ただただ悩むことばかりです。気持ちが落ち着かず、心休まらない日が続きます。
患者本人に対し、どのように接したらよいのか戸惑うことがあるかもしれません。家族間でよく話し合い、支え合って乗り越えていくことを考えることが大切です。治療が始まるまでの間は、必要な情報を集めて病状を把握したり、病気のことや治療予定のことなどを確認しあったりして、病気と向き合っていく準備していくことになります。
家族に病気の者が出ても、仕事はきちんとこなしていかなければならず、患者本人が家庭のなかで担っていた役割を代替しなければならないこともあって、苦労が多くなります。治療費などの経済的な不安も重くのしかかってきます。家族間で協力し合えるようにしておく必要があります。
治療を始めるとき、治療をしているとき
治療は、がんの種類や病状、治療法などによって異なります。外来通院で可能な場合があれば、長期の入院が必要な場合もあります。通院の場合では、普段どおりに近い生活を送りながら治療を受けることができますが、通院手段の確保などで患者本人や家族の負担が増えてきます。
入院の場合は、入院中の看護などは病院に任せることができますが、衣類の洗濯や必要な用品・生活用品の買物などはサポートしなければなりません。安心して治療に臨めるよう手助けが必要です。治療にかかる入院などの費用は、加入している公的医療保険の「高額療養費制度」を利用すれば、支払いを軽減でき、重荷を減らせます。前もって利用方法などについて、確認しておく必要があります。
患者本人が仕事をしておれば、心配のあまり「すぐにでも会社を辞めて、治療に専念してほしい」と願う家族の思いも強いかもしれません。ですが、社員の健康を大切に考えている会社もあります。治療と仕事の両立支援の取り組みに積極的な会社もあります。患者本人に働きたい気持ちがあるのなら、急いで辞める必要はありません。がんになっても働き続けることはできます。
仕事を続けていくには、患者本人から病状や治療予定、必要な配慮のことなどを早めに上司や人事担当者に伝え、治療に専念させてもらえるよう、理解と協力を得ることが必要です。家族も、患者本人の職場での支援内容(病気休暇制度など)などについて理解しておいたほうがよいと思います。
また、休職中にどの程度職場に連絡したらよいのか、その担当者などについても教えてもらっておきましょう。仕事の引継ぎも済ませておきましょう。一時的に周りの同僚に負担をかけることになりますので、感謝の気持ちも忘れないようにしましょう。
会社を長期に休み、その間給料が支給されないときには、加入している公的医療保険から「傷病手当金」の支給を受けることができます。一般的には会社を通じて手続きしていますので、会社の担当者と手続きの進め方などを確認しておいたほうがよいと思います。
●通院の送迎や病院で付き添いなどをするために、会社を休みたい
通院の送迎や入院するとき、病院での付き添い、医師から説明を受けるときの同席、手術の日、退院するときなどには、会社を休まなければならないこともあるでしょう。治療の経過も気がかりですので、頻繁に病院に足を運ぶことにもなるでしょう。そんなときには、「年次有給休暇」をうまく利用しましょう。
年次有給休暇
希望する日に休みを取ることができる制度です。労働基準法で定められているものです。有給の休暇ですから、休んでも給料は通常どおり支給されます。
<制度の内容>(労働基準法で定められている内容)
6か月継続して勤務し、働く日と決められている日数(所定勤務日数)の8割以上出勤しておれば、10日間の有給休暇が与えられます。さらに勤続年数が増えていくと、8割以上の出勤の条件を満たしておれば、1年ごとに取れる休暇日数は増えていきます。最大20日間です。利用しなかった有給休暇は、翌年に繰越しできます。
会社によっては、法定日数以上の休暇日数を定めているところもあります。半日や時間単位で取れるところもあります。パートタイマーなどは、所定勤務日数に応じた休暇日数となります。手持ちの有給休暇を使い切ってしまい、その後休めば欠勤扱いになります。欠勤が多くなると、勤務の評価に影響するかもしれません。
治療を終えたとき、自宅で療養するとき
治療が一通り終われば安心です。入院していた場合は、退院して自宅で療養することになります。経過観察が必要であっても、治療を受ける時間はほんの少しで、大半は自宅で過ごせます。治療によっては、体の機能の一部を失ったりすることもあります。抗がん剤治療がしばらく続くこともあります。あまり無理はできませんので、徐々に体を慣らしながら、体調が回復するのを待つことになります。規則的な生活を取り戻します。
患者本人が仕事をしておれば、職場復帰のことが気がかりになってきます。体調が落ち着いてきたら、復職の判断が必要です。体調が万全でないのに復職をし、悪化させて退職に至るケースもありますので、慎重さが必要です。
●患者本人から、職場復帰をしたいと相談されたとき
仕事ができるには、日常生活を支障なく行えることが前提です。通勤や仕事にも負担がかかってきますので、耐え得る体力を備えていることが必要です。迷惑をかけたので、その分早く取り戻そうと頑張ってしまいがちですが、すぐには休職する前と同じように仕事ができないのは当然です。
体調が落ち着いてきたら、復帰後の仕事の内容などを医師に伝え、復職することに支障がないかどうかを相談し、アドバイスをいただきましょう。その上で、本人の思いも考慮して、職場復帰のタイミングなどを相談して決めるとよいでしょう。その際には、以下のことも参考にしてください。
職場で配慮してほしいことがあれば、会社に伝える
復帰できそうな頃を決めて、医師から仕事上で気をつけることや制限する必要があると言われたこと、配慮してほしいこと、通院の頻度などを上司や人事担当者に伝えましょう。よく相談して適切な配慮をしてもらいましょう。体力に見合った働き方について調整してもらいましょう。
職場復帰の手順は
職場復帰をするときは、一般的には「復職申出書」に医師の診断書を添えて会社に提出し、承認を受けます。会社は、診断書をもとに、本人の意向や、上司や産業医(産業医のいる職場)などの面談を通じ、復職が可能かどうかを判断されるのが一般的です。その際には、復職後のフォローアップなども検討されます。復職が認められると、体力に見合ったサポートを受けながら仕事をすることになります。
職場復帰後に心掛けることは
職場生活のリズムが取り戻せるまでの間は、無理をしないよう、焦らずに、少しずつ仕事量を増やしていきながら、体力に見合った働き方と治療計画に影響しない働き方に心掛ける必要があります。
治療後においても体調に波があるとき
治療がひと段落しても、体調の変化が激しく、不快な症状が続いていたり、眠れないとか、激しい痛みがある、体がだるい、食欲がない、などということがあるかもしれません。寝たり起きたりの生活が続くこともあるかもしれません。自宅で過ごしているときであれば、心配です。急に具合が悪くなったらどうしよう?と思ったら、不安です。変調時の対処法などについて、あらかじめ医師や看護師から聞いておくと、落ち着いて対応できると思います。
ときによれば、診察や治療が必要なときもあると思います。状態が急変すれば、再入院の手配も必要です。往診や訪問看護が受けられる病院などについて、事前にがん相談支援センターで情報を得ておくことも大切です。体調に波があるときは、無理をさせるわけにはいけませんので、寄り添ってしっかりとサポートしましょう。いざというときには、臨機応変に休みがとれるようにしておくことも必要です。
患者本人が職場復帰をしておれば、職場生活での様子や仕事ぶりが心配です。変調を引きずった状態のまま働き続け、体調を崩してしまったら大変です。変化を注意深く見守り、異変があれば、医師に相談することが大切です。
●患者本人から、思うように仕事ができないと相談されたとき
職場復帰をしたものの、体調の厳しい状況が続いていたり、体力に見合った働き方ができない、会社の対応に期待ができない、職場に居づらい、ストレスを抱えている、というようなことであれば、体調を崩してしまっては大変ですので、今後の療養の仕方や働き方などについて、患者本人とよく相談することが大切です。
●患者本人から、会社を辞めたいと相談されたとき
治療や療養に専念したい、職場で十分な理解や配慮が得られない、職場にこれ以上迷惑をかけたくない、仕事への意欲を失った、などと仕事との両立がうまくいかず、辞めようかなと迷うことがあります。一時的な気持ちからかもしれませんが、仕事は生きがいでもあります。重要な問題ですので、患者本人とよく相談して決めてください。その際には、以下のことも参考にしてください。
辞めるのは1か月前までに申し出る
退職願を提出すれば、会社を辞めることができます。退職の意思を上司に伝え、退職日をいつにするかを相談して決めるとよいでしょう。退職予定日の1か月前遅くても2週間前までに申し出る必要があります。
退職すると
退職すると、社員としての身分を失います。健康保険証(または組合員証)を返さなければなりません。後日、会社から「雇用保険被保険者離職票」(公務員は雇用保険に加入していません)が送られてきます。失業手当(正しくは「基本手当」)の支給を受けるために必要なものです。会社を辞めれば、退職金がもらえるとは限りません。会社にその定めがないと支給されません。
治療が望めないようになったり、介護が必要な状態になったとき
合併症や病状の進行などによっては、予期しない形で治療の方向性が見直しされ、症状を和らげることや進行を抑えることが治療の目標になることもあります。世話や介護が必要な状態になることもあります。その状況によっては、今後の見通しが厳しいと言われ、重大な決断を迫られたりします。
「もう治らない」ということを受け入れなければならないときはつらいことですが、向き合わなければなりません。気持ちが落ち込み、仕事に取り組めない状態に陥ることもあるでしょう。患者本人の不安な気持ちに寄り添って、ゆったりと心を落ち着けて過ごせるようにしてあげたいです。
治療が難しい状態になって、自宅で療養することになれば、日々の生活は手がかかり、負担がかかってきます。一人で背負うことのないよう、介護保険の介護サービスを利用してください。市区町村の介護保険担当の窓口で要介護認定を受け、要介護状態の程度に応じて訪問介護などのサービスや介護用電動ベッドなどのレンタルが受けられます。
手すりをつけたり、トイレなどを改修すれば、その費用が給付されます。40歳以上の末期のがん患者で、何らかの介護が必要な状態になった場合が対象です。
会社を休まざるを得ないときも多々あろうかと思います。そんなときには、「年次有給休暇」や「介護休暇」、「介護休業」を利用することになります。うまく使いわけながら、乗り切っていくことになります。休みを取らなくても、勤務時間を短縮してもらう、残業を免除してもらう、という方法などもあります。
●世話をするために、会社を休みたい
世話や介護をするために会社を休むことのできる「介護休暇」や「介護休業」があります。「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」で会社に義務づけられているもので、仕事と介護の両立をサポートするための制度です。食事や入浴などの日常生活の支援が常時必要な状態にある場合や、40歳以上の末期のがん患者の世話をする場合に利用できます。
介護休暇
世話や介護が必要な状態になったとき、会社を休むことができる制度です。
<制度の内容>(法律で定められている内容)
●休暇日数 1年間で5日間休めます。1日または半日単位で取得できます。
●対象家族 配偶者や子ども、父、母、同居の祖父母などです。
会社によっては、法定日数以上の休暇日数を定めているところもあります。介護休暇は有給休暇と異なり、無給のケースが多いです。休暇日数や給料支給の有無、利用できる対象社員、手続きの方法などについて、就業規則で確認したり、人事担当者から説明を受けておくことが必要です。
介護休業
世話や介護をするために、一定期間、会社を休むことができる制度です。2週間前までに申し出る必要がありますので、早めの計画が必要です。
<制度の内容>(法律で定められている内容)
●期間 通算して93日間まで休めます。
●回数 3回まで利用できます。
●対象家族 配偶者や子ども、父、母、同居の祖父母などです。
会社によっては、法定期間以上の期間を定めているところもあります。分割して休みを取ることができます。分割なり、長期に使うなり、どのように使うかが大事になります。介護休業は無給のケースが多く、無給であれば休んでいた期間は雇用保険から「介護休業給付金」の支給が受けられます。
休業できる期間や給料支給の有無、利用できる対象社員、手続きの方法などについて、就業規則で確認したり、人事担当者から説明を受けておくことが必要です。
<介護休業給付金>
支給額 休業開始時の給料の日額 × 休んだ日数 × 67%
※手続きは、休業期間終了後に会社を通じて申請書をハローワークに提出します。提出後1週間程度で入金されます。
勤務時間の短縮など
世話や介護をするために、一定期間、勤務時間を短縮(短時間勤務)させてもらう、残業を免除してもらう、出勤時間を遅らせたり退庁時間を早めたりして出勤させてもらう(時差出勤やフレックスタイム)、ということもしてもらえますので、会社と相談してください。
これも「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」で定められているものです。会社によっては、独自の取り組みをしているところもあります。
闘病生活を支えることに悩みを抱えたとき
家族の闘病生活が長く続いていると、仕事とのやりくりが難しい状況に直面することがあります。深夜まで世話をしなければならないときには、翌日睡眠不足のまま仕事をしなければならないこともあるでしょう。仕事の責任を果たせていないと感じるときもあるでしょう。
こうしたことが長く続いていると、集中できなくなったり、意欲的に働けなくなったり、体調を崩してしまったりして、仕事との両立に悩み、つらくなって、離職や転職を考える人もいます。一人で抱え込み、思い悩んでいてはどうにもなりません。上司や人事担当者に相談してみてはいかかでしょう。
そのほか、病院のがん相談支援センターや、患者や家族同士が支え合っている患者サロンや患者会、ピアサポートなどもあります。解決策が見いだせるかもしれません。
会社に相談
プライバシーにかかわることですので、職場に知られることへの抵抗感があるかもしれません。人事考課に影響するかもしれないとの心配もあるかもしれません。相談してもどうにもならないと思うかもしれません。会社にとっては、意欲的に働けなくなったり、離職をされてしまうと、大きな影響を受けます。そのため、柔軟な勤務制度を導入していたり、勤務場所に配慮などをしている会社もあります。
一人で解決しようとしないで、まずは上司や人事担当者に相談をかけてみてはどうでしょう。話し合って、一時的に一日の勤務時間や週の勤務日数を減らしてもらったり、時差出勤や在宅勤務といった柔軟な働き方について配慮してもらいましょう。
離職をすれば、マイナスの影響が大きいと思います。闘病生活を支える課題が解決した後に再就職しようとしても、非常に難しいものがあると思います。復職しようと思っても戻れませんし、別のところでは培ってきたキャリアが生かせないかもしれません。辞めてしまえば、収入も途絶えます。仕事との両立を前提に、闘病生活を支える課題を解決することが重要です。
がん相談支援センター
がんの治療をしている病院などに設置されている相談窓口です。がん患者や家族などからの相談に応じています。診断から治療、その後の療養生活、社会復帰、職場生活、生活全般などで疑問や不安を感じたとき、悩みを抱えたときに利用できます。社会保険労務士や産業カウンセラーなどが、仕事との両立に関する悩みの相談に定期的に応じているところもあります。
患者サロン、患者会、ピアサポート
がん患者や家族、経験者が出会い、支え合っている場です。同じような悩みを抱えている人の話を聞くことができます。「こういうことで苦労しているのか」、「こういうやり方があるのか」などと、聞いたり話したりすることで気持ちが楽になったり、体験談などから貴重なヒントが得られるかもしれません。悩みを解決する糸口を見つけることができるかもしれません。利用するには、がん相談支援センターに問い合わせをすれば、情報が得られます。
●患者サロン
患者サロンは、がん患者や家族が気軽に本音で語り合える交流の場です。患者や家族が主体になっているところがあれば、病院などが中心となって活動しているところもあります。
●患者会
患者会は、同じ病気のがん経験者や家族が集まって、自主的に運営している会です。悩みや不安を共有したり、情報交換しています。社会に対し活動しているところもあります。
●ピアサポート
がん経験者や家族が自分の経験を生かし、相談や支援を行っています。病院によっては、積極的に取り組んでいるところがあります。
治療中に利用できる経済的な支援制度
高額療養費制度
治療費の支払いは3割負担ですが、入院したり、治療が長引いたときには、大きな負担となってきます。高額となる場合は、家計の負担を軽減できるようにとして、加入している公的医療保険の「高額療養費制度」を利用することができます。
1か月(1日から月末まで)の治療費が一定の金額(自己負担限度額)を超えた場合に、超えた額(高額療養費)が後から請求により払い戻しが受けられます。払い戻しを受けるには、いったん治療費を支払っておき、後日、加入している公的医療保険に「高額療養費支給申請書」と病院や保険薬局の領収書を添付して提出します。
事前に「限度額適用認定証」を手に入れて、入院するときなどに提示しておくと、払い戻しの手続きは不要で、支払いは自己負担限度額までで済みます。限度額適用認定証は、加入している公的医療保険に「限度額適用認定申請書」を提出して手に入れます。一週間程度で交付されます。
◯患者本人が協会けんぽ、健康保険組合、共済組合、船員保険に加入している場合や、あなたの加入している公的医療保険の被扶養者になっている場合の自己負担限度額
直近の一年間で3回以上適用を受けていると、4回目からの自己負担限度額は以下の金額となり、さらに軽減されたものになります。
<ウェブページ 加入している公的医療保険 高額療養費制度>
確定申告による医療費控除
一年間(1月から12月まで)に支払った治療費の総額が、家族の分を含めて10万円を超えることであれば、税務署に確定申告することによって、納付した税金から還付という方法で、「医療費控除」が受けられます。生命保険会社などから給付金があれば、その金額を差し引いた残りの額が10万円を超えていなければなりません。還付される額は、所得によって異なります。
手続きは、2月中旬頃から3月中旬頃の間に、住所地を管轄する税務署に「確定申告書」と領収書や源泉徴収票を提出します。インターネットでも手続きできます。
<ウェブページ 国税庁 医療費を支払ったとき(医療費控除)>
傷病手当金
入院や自宅療養などで会社を休み、給料が支給されなくなったときには、加入している公的医療保険から「傷病手当金」の支給が受けられます。病気休職中の生活の保障として支給されるものです。
※公的医療保険の被扶養者や国民健康保険の加入者は、適用されません。
●支給が受けられる条件
①病気による治療中であること。
②仕事をしていないこと。
③4日以上会社を休み、休んだ日が連続3日間あった上で4日目から支給される。
●支給額、支給期間
休んだ日1日につき、「直近一年間の平均標準報酬月額の1/30」の2/3が、支給開始日から1年6か月以内で支給されます。
●手続き
加入している公的医療保険に「傷病手当金支給申請書」を提出します。給料の支払いがないことの事業主の証明や治療している医師の証明などが必要なため、一般的には勤務先を通じて手続きしています。
★退職しても支給される
傷病手当金の支給を受けているときに退職したときは、退職日まで1年以上公的医療保険に加入していて、
・退職日まで傷病手当金の支給を受けていた、または支給が受けられる条件を満たしている
・退職後も仕事に就くことができない状態が続いている
ことであれば、引き続き支給されます。
※有給休暇を取得したままで退職すると、傷病手当金の支給は受けられません。
<ウェブページ 加入している公的医療保険 傷病手当金>
小児がん患者に対する支援制度
小児慢性特定疾病医療費助成制度
小児がん患者には、治療費の負担が軽減される「小児慢性特定疾病医療費助成制度」を利用することができます。18歳未満の小児がん患者が対象で、20歳になるまで利用できます。1か月(1日から月末まで)の治療費の支払いは、所得に応じて一定の金額(自己負担額上限額)までで済みます。
利用するには、「医療受給者証」が必要です。医療受給者証は、都道府県・指定都市・中核市が指定する病院で受診し、「医療意見書(診断書)」を作成してもらい、住所地を管轄する保健所に提出して交付を受けます。交付されるまで2か月ぐらいかかります。
◯自己負担上限額
<ウェブページ 小児慢性特定疾病センター
都道府県・指定都市・中核市の小児慢性特定疾病担当窓口・保健所>
日常生活に制約を受けるようになったとき
●小児慢性特定疾病児日常生活用具
小児慢性特定疾病医療費助成制度の適用を受けていて、日常生活に制約を受けるようになったときには、「小児慢性特定疾病児日常生活用具」の購入費用が給付されます。一定額以上の所得がある人は、一部負担が伴います。
○日常生活用具の例
車いす、特殊ベッド、特殊マット、歩行支援用具、特殊便器など
○手続き
医療受給者証と「日常生活用具給付申請書」などを市区町村の障害福祉担当窓口に提出します。
<ウェブページ 市区町村 小児慢性特定疾病児日常生活用具>
●特別児童扶養手当
常に介護が必要な状態にある20歳未満の子どもを養育している親に、「特別児童扶養手当」が支給されます。障害程度の状況によって、支給される額が異なります。一定額以上の所得があると、支給されません。
○支給額
1級:月額51,450円 2級:月額34,270円 (平成29年4月現在の額)
○手続き
障害の状況を記載した所定の診断書などを市区町村の障害福祉担当窓口に提出します。
<ウェブページ 市区町村 特別児童扶養手当>
障害児福祉手当
常に介護が必要な状態にある20歳未満の子どもに、「障害児福祉手当」が支給されます。子どもや親に一定額以上の所得があると、支給されません。
○支給額
月額14,580円 (平成29年4月現在の額)
○手続き
障害の状況を記載した所定の診断書などを市区町村の障害福祉担当窓口に提出します。
<ウェブページ 市区町村 障害児福祉手当>
障害を持つ身になったときの支援制度
障害者手帳
病状が進行し、肢体や体幹、内臓機能、音声機能、言語機能、精神などに著しい障害が現れて、その症状が続くと判断されたときには、「身体障害者手帳」や「精神障害者保健福祉手帳」が交付されます。障害者手帳を持っていると、障害福祉サービスや経済的な支援などが受けられます。治療を継続していく上で必要なものです。
●対象者
がん患者の場合は、がんの治療で初めて病院で受診した日(初診日)から6か月以降において、がんそのものや転移によって内臓機能や手足に著しい障害が現れた、人工肛門や新膀胱を造設した、喉頭を摘出して言語機能を失った、術後にうつ状態になった、などの状態にあれば対象となります。症状の程度の重さによって、1級から6級まであります。精神障害者保健福祉手帳は、1級から3級までです。
●障害者手帳を持っていると
○障害福祉サービスの利用、福祉用具の給付、税金の控除、料金の割引などが受けられる
居宅介護サービスなどの利用、車いすや特殊ベッドなどの購入費用の給付、所得税や住民税の控除、自動車税の減免、JR運賃の割引などが受けられます。
※等級によって異なります。所得制限があります。
○治療費が軽減される
身体障害者手帳を持っていると、障害を軽くするための手術を受ける場合の治療費が軽減されます(自立支援医療制度(更生医療))。
精神障害者保健福祉手帳を持っていると、精神科の通院の治療費が軽減されます(自立支援医療制度(精神通院医療))。
重度(1級・2級)の身体障害者手帳を持っていると、あらゆる治療に市区町村から助成が受けられます(都道府県の重度心身障害者等医療費助成制度)。
※所得制限があります。
●手続き
取得の手続きは、医師に障害等級に該当する状態にあるかどうかを確認し、該当することであれば、市区町村の障害福祉担当の窓口に「手帳交付申請書」と診断書などを提出し、交付を受けます。交付されるまで2か月ぐらいかかります。
<ウェブページ 市区町村 身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳>
障害年金
治療したけれど著しい障害が現れて、日常生活に制約を受けるようになった、仕事をする上で制約を受けるようになった、という状態になったときには、「障害年金」の支給が受けられます。
がんの治療で初めて病院で受診した日(初診日)に年金制度に加入していて、そのとき以前の期間中において保険料の納付要件を満たしている人が対象です。初診日が、国民年金に加入しているときであれば「障害基礎年金」が、厚生年金(または共済年金)に加入しているときであれば、障害基礎年金に上乗せされて「障害厚生年金」が支給されます。
●支給額
障害基礎年金は定額です(1級は月額81千円程度、2級は月額64千円程度)。障害厚生年金は、障害認定日(初診日から1年6か月)以前の給料の平均額や勤めていた期間をもとにして計算された額に、障害基礎年金が加算された額となります(支給されている人の平均支給額(障害基礎年金を含めた額)は、1級は月額160千円程度、2級は月額121千円程度、3級は月額54千円程度)。
●障害年金が受けられる障害状態
がん患者の場合は、初診日から1年6か月以降において、以下のような状態にあれば、支給の対象となります。症状の程度の重さによって障害等級が異なります。
●手続き
年金事務所や街角の年金相談センター(初診日が共済年金に加入しているときであれば共済組合)に、「診断書」、「病歴・就労状況等申立書」などを提出します。決定されるまで3か月ぐらいかかります。
<ウェブページ 日本年金機構 障害年金>
自宅で世話をするときに利用できる支援制度
病状が進行して世話や介護が必要な状態になると、介護保険の「介護サービス」が利用できます。自宅で療養生活を支えることになれば、医療と併せて、こうしたサービスが受けられるよう、あらかじめ病院のがん相談支援センターで手続きの方法や利用手順などについて説明を受けておき、準備をしておくことが必要です。
公的医療保険
自宅で「訪問診療」や「往診」が受けられます。また、近くの訪問看護ステーションから「訪問看護」なども受けられます。介護保険が利用できるときには、介護保険が優先されます。治療費の支払いは3割負担です。交通費やおむつ代などの実費、時間外の費用などがあれば、別途支払いが必要です。
介護保険
介護保険の「介護サービス」は、65歳以上で要介護状態になった場合に利用できるものですが、40歳以上の末期がんと診断された場合にも利用できます。事前に市区町村の要介護(要支援)認定を受ける必要があります。介護保険担当の窓口に申請し、身体の状態などの審査を受け、判定されます。
要介護状態の程度に応じて、受けられるサービスの内容が決まります。手続きは家族でもできます。認定されるまで1か月程度かかります。支払いは、利用料の2割または1割です。
●介護サービスの内容例
福祉用具の貸与/電動ベッド、車いす、床ずれ防止マットなどが借りれる
訪問介護/ホームヘルパーが定期的に自宅を訪問し、家事や入浴、排せつなどの介助、炊事や洗濯などの家事の援助が受けられる
住宅改修/手すりの取り付けなど住宅を改修するときの費用が支給される など
<ウェブページ 市区町村 介護保険>
治療費や介護サービスの支払いが高額となったとき
●高額療養費制度
1か月に支払った治療費が高額になった場合は、「高額療養費制度」を利用することができます。直近の一年間で3回以上適用を受けていると、4回目からはさらに軽減されたものになります。
(前掲載の「治療中に利用できる経済的な支援制度」の「高額療養費制度」を参照)
●高額介護サービス費制度
1か月(1日から月末まで)に利用した介護保険の介護サービスの支払いが高額となり、一定の金額(自己負担限度額)を超えた場合は、超えた額が「高額介護サービス費」として後から請求により払い戻しが受けられます。福祉用具購入費や住宅改修などは対象外です。
◯自己負担限度額
手続き
高額介護サービス費の支給対象となるときは、市区町村から支給申請書が送られてきます。それによって手続きします。
<ウェブページ 市区町村 介護保険>
●高額介護・高額医療合算療養費制度
1年間(8月から一年間)の治療費と介護サービスの支払いの年間合計額が一定の金額(自己負担限度額)を超えた場合は、超えた額が「高額介護・高額医療合算療養費」として後から請求により払い戻しが受けられます。
◯患者本人が協会けんぽ、健康保険組合、共済組合、船員保険に加入している場合や、あなたの加入している公的医療保険の被扶養者になっている場合の自己負担限度額
手続き
最初に、市区町村の介護保険担当の窓口に「支給兼自己負担額証明書交付申請書」を提出し、介護保険の「自己負担額証明書」の交付を受けます。これを添付して、加入している公的医療保険に「高額介護合算療養費支給申請書兼自己負担額証明書交付申請書」を提出します。
<ウェブページ 公的医療保険 高額介護・高額医療合算療養費制度>
会社を辞めるときに役立つ知識
新たな健康保険証の取得
会社を退職すると、加入している公的医療保険の資格を失います。今使っている健康保険証(または組合員証)は返さなければなりません。
そこで、
①加入していた公的医療保険に「個人の資格で任意継続被保険者として加入」する
②「国民健康保険に加入」する
③「家族が加入している公的医療保険の被扶養者」になる
のいずれかに加入し、新たな保険証を手に入れる必要があります。どの制度に加入しても、受けられる給付内容は同じです。限度額適用認定証も必要であれば、新たに加入する公的医療保険で手に入れることになります。
●個人の資格で任意継続被保険者として加入
加入していた公的医療保険に、退職日から20日以内に手続きします。扶養している配偶者も一緒に加入できます。2年間加入できます。保険料は、退職前に控除されていた額の倍額(上限があります)となります。
<ウェブページ 加入している公的医療保険 任意継続>
●国民健康保険に加入
市区町村の国民健康保険担当の窓口で手続きします。保険料は、前年の給与所得や固定資産税額、世帯人数などによって決定されます。
<ウェブページ 市区町村 国民健康保険>
●家族が加入している公的医療保険の被扶養者になる
家族が勤めている勤務先を通じて手続きします。年収が130万円(60歳以上の人は180万円)以上ある人は、被扶養者になることができません。
※年収は、過去の収入額ではなく、認定を受ける以降の年間収入見込み額をいいます。
<ウェブページ 加入している公的医療保険 被扶養者>
失業手当(正しくは基本手当)
会社を退職したら、雇用保険に加入していると「基本手当」が支給されます。失業の状態にある日について、生活を心配しないで仕事探しに専念できるようにとして、支給されるものです。
●支給が受けられる条件
退職日以前の2年間に、雇用保険の被保険者期間が12か月以上あることが条件です。退職したときまでの被保険者期間や給料の額により、基本手当の日額や支給される期間が異なります。
●手続き
支給が受けられるのは、退職後に住所地を管轄するハローワークで求職の申し込みをした日の7日後からです。自己都合で退職した場合は、その3か月後からとなります。4週間ごとにハローワークへ行って、求職活動の実績を確認され、失業の状態にあることの認定を受け、その日数分の基本手当が支給されます。1週間程度で入金されます。
●基本手当の日額
退職直前の6か月間に支給された給料の合計額を180で割った金額の、およそ80〜45%です。
●支給される期間の上限
○自己都合による退職、契約期間満了で離職、定年で離職した場合
○会社からの働きかけ、解雇、倒産などで離職した場合
★働くことのできない状態の場合は、延長の手続きをしておく
退職後も入院や自宅療養などで、すぐに仕事に就くことができない状態の場合(30日以上)は、基本手当は支給されません。受給を先延ばしする手続きをしておく必要があります。延長は最長3年間できます。退職後30日経過してから1か月以内の間に手続きが必要です。体調が回復し働くことのできる状態になったら、その後から支給を受けます。
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