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【前編】会社における両立支援の取り組みの進め方

  • [公開日]2017.07.19
  • [最終更新日]2017.07.19

作成 社会保険労務士 井後伸一(徳島県社会保険労務士会所属)

事業活動を支えている社員が病気となり、会社を辞めてしまったら・・・「治療と仕事を両立できる職場環境」に対するニーズが高まっています。どのように対応すべきか、その支援の進め方についてご紹介します。

 社員ががんになったとき、会社を辞められてしまったらどうでしょう? 経験豊かな有能な社員や事業活動を中心になって支えている社員を突然失うことになり、大きな痛手です。存続にも影響しかねません。当の社員も収入が途切れ、経済的に追い込まれます。

 平成28年2月に、厚生労働省から「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン」が示されました。治療が必要な病気を抱えている就労者に対し、配慮や支援をするためのノウハウや、社内の体制を整える環境整備などがまとめられています。

 会社を維持発展させていくには、両立支援の取り組みは欠かせません。社員が病気になった場合に適切に対応できるよう、その取り組みについてガイドラインにそって解説します。健康確保の取り組みと両立支援に向けた職場づくりに役立ててください。

働いている世代の3人に1人が「がん」に罹患している

 64歳までの就労可能年齢では、3人に1人ががんに罹患しています。男性は45歳頃から女性は35歳頃からリスクが上昇しています。身近な病気です。罹患率の上昇や治療方法の向上によって、患者や経験者は増えています。がんはあらゆる病気のなかで、死因は第一位です。発見が遅れると、治る確率は低くなります。早期発見と早期治療が大切です。

今後、社員の高齢化が見込まれています。職場においてがんになる割合は、ますます高まってくるものと思われます。

■がんと言われたとき

<社員は>
・”強い衝撃を受け、何も考えられない状態になる””どうしてよいのかわからず、不安に襲われる””将来を悲観して深く落ち込む””悩みや心配ごとが高まる”
・病気のことを知られたくない、先行きに不利益になるかもしれないという心配から、会社になかなか言い出せない。
・休暇が取れるだろうかと不安になる。
・会社を辞めようと思い詰める。 ※ 治療を始める前に約3割の人が依願退職している

<会社は>
相談を受けても、
・がんを正しく理解できていない。
・病気による休暇制度が十分整っていない。
・仕事への影響がわからないので、対応の仕方がわからない。

■治療を始めてから

<社員は>
・周りの人に負担や迷惑をかけていると思い、心苦しくなる。
・同僚から特別視される。
・副作用や後遺症があれば、その症状に悩まされる。
・長く休職していると、退職を迫られたり解雇されないかと不安が高まる。
転移や再発を告げられると、根治が期待できないことに強い衝撃を受ける。
・復職できるだろうか、以前と同じように仕事ができるだろうかと不安になる。

<会社は>
・通院中の配慮や支援の方法に悩む。
・休職時の代替要員の確保が難しい。
・上司や同僚に一時的に負担がかかる。
・休職中であっても、社会保険料を負担し続けなければならない。

■職場復帰後において

<社員は>
・復職したものの体力的に厳しい、ストレスを抱える、自信を失うことがある。
・倦怠感から集中できない、体調が不安定となることがある。
・同僚から身構えられる。
・職場の様相が一変しておれば、仕事がつらくなる。
・会社の理解や配慮が得られないときや体調のことを周りに理解してもらえないときは、思うように仕事ができない。職場に居づらい。
・会社を辞めようと思い詰める。 (注)職場復帰後に依願退職する人も多い

<会社は>
・体調や通院に合わせた配慮や支援の方法に悩む。
・上司や同僚に一時的に負担がかかる。不公平感を招く場合がある。
・期間が長くなると、同僚から不満が高まる。士気に影響する。

このような現状から「両立支援のガイドライン」が示された

 このような現状を踏まえ、加えて労働力の高齢化が進んでいる中において今後がんに罹患する社員を抱えることが多くなる、がんに罹患したからといって働けないという状況は少なくなっているとして、「事業場における治療と職業生活の両両立支援のためのガイドライン」が示されました。

 がんなどの病気を抱えている就労者が治療と職業生活を両立(治療を受けながら仕事を続けること)できるようにするための、両立支援が受け入れられて働きやすい職場へと発展させていくための、会社における取り組みの指針がまとめられています。

両立支援の内容

■治療のため通院するときには
・通院に配慮する
・仕事上(仕事の内容、勤務時間、残業、休憩、出張、就業場所など)や通勤で、病状や治療に合わせた配慮をする

■入院するときや自宅で療養するときには 
・必要な期間、休暇を与える
・利用可能な経済的な支援制度(高額療養費制度、傷病手当金、社内の付加給付など)を伝える

■職場復帰してから職場生活のリズムを取り戻すまでのときには
・通院に配慮する
・仕事上(仕事の内容、勤務時間、残業、休憩、出張、就業場所など)や通勤で、体調や治療に合わせた配慮をする

(注1)高額療養費制度は、治療費の支払いが一定の金額(自己負担限度額)を超えた場合に、超えた額が加入している医療保険から払い戻しが受けられる制度。事前に限度額適用認定証を手に入れて、入院するときに提示しておくと、支払いは自己負担限度額までとなる。 ※自己負担限度額は、所得に応じて額が異なる。
(注2)傷病手当金は、入院などで会社を休み、その間給料が支給されないときに、加入している医療保険から支給が受けられる制度。支給額は、直近一年間の平均標準報酬月額の1/30の2/3。1年6か月以内で支給される。

【後編】社員ががんに罹患したときの支援の取り組み

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