がんの治療研究に伴う第1相試験について、腫瘍縮小の効果が得られる患者の割合が約5%程度しかない試験は、参加した患者にとって得られる有益性はほとんどなく、倫理的な問題があると指摘されていることに対し、フランスBergonie InstituteのCamille Chakiba氏らのグループが反証した。2018年6月のNew England Journal of Medicine誌(378巻2242ページ)に掲載された研究記述(CORRESPONDENCE)で、224本の第1相試験データを調査分析した結果を提示し、考察した。
上記の倫理的問題を提起した論文は1990年から1991年に発表されたもので、1970年代から1980年代に報告された第1相試験データの分析に基づく一定の結論である。それから30年以上が経過した現在は、がん治療の主役となる薬剤が殺細胞性抗がん剤から抗体を含む分子標的薬に移り、薬剤の効果を理解するためには、特定の病理組織学的特徴やバイオマーカーなど、共通の特徴を持つ患者を揃えた集団、いわゆるサブグループ別に標的を明確にして評価する必要がある。そのためChakiba氏らは、そうしたサブグループに層別化しない場合と比べ、層別化した方が臨床的有益性が得られる確率は高まったとしている。
Chakiba氏らは、2014年1月1日から2015年6月30日までに公表された第1相試験に関する論文を検索し、224本の試験を対象に分析した。主要評価項目であるRECIST判定の全奏効率(完全奏効+部分奏効)は19.8%であった。全奏効率を増加させる有意な影響因子は、(1)対象とするがん種が1つであること、(2)腫瘍の生物学的適格基準を設けていること、(3)治療法が併用療法であること、(4)患者登録の拡大を実施していることであった。試験デザインにこれら4つのうちいずれかの条件が入っていることにより、入っていない場合よりも全奏効率が有意に高いことが分かった(各オッズ比2.39、2.01、1.95、1.53)。
またChakiba氏らは、第1相試験の患者登録を段階的に拡大するデザインの方が、そうでない試験よりも全奏効率が上昇する可能性が高まることと関連して、第1相→第2相→第3相試験と順番に進める古典的な臨床試験の方法は、現在の状況では必ずしも適切とはいえないと指摘している。免疫チェックポイント阻害薬のペムブロリズマブ(商品名キイトルーダ)では、登録患者の拡大により、結果的には1200例を超える患者に投与されている第1相試験(KEYNOTE-001)が継続しており、承認申請にとって重要なデータが得られていることが好例として挙げられる。
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