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腎盂がん・尿管がんとは
腎臓は、尿をつくる腎実質という部分と尿が集まる腎盂という部分からできています。また、尿管は腎臓と膀胱をつなぐ管であり、腎実質でつくられた尿は腎盂を経て尿管を通り、膀胱へ送られて最終的に排出されています。
尿を排出する経路のうち、腎盂と尿管は上部尿路とよばれており、この部分に発生するがんは、組織学的にも変わりが無く、治療方法にも大きな差がないため「腎盂・尿管がん」とまとめられています。腎盂・尿管がんは、ほとんどが尿路上皮がんと呼ばれる組織型です。
腎盂・尿管がんは、腎盂だけ、尿管だけでなく、その両方にできるケースも存在します。さらに、左右のどちらか片方の腎盂や尿管にがんが発生したため治療をすると、その治療後に膀胱にがんが発生することもあります。
これは、腎臓~膀胱までの尿路は尿で満たされていますので、容易にがん細胞が移動してしまうため起こるのです。(腎臓や尿管から膀胱へはがんが移動しやすいのですが、反対に膀胱から腎臓や尿管へは尿が逆流しづらいため、がんが移動しづらいことが分かっています)
原因
腎盂・尿管がんの原因として挙げられる最大の生活因子は喫煙です。たばこを吸う人は、たばこを吸わない人に比べて腎盂・尿管がんの発症リスクが約3倍に、45年以上の長期にわたってたばこを吸っている人に至っては腎盂・尿管がんを発症するリスクが7.2倍に膨れ上がるといわれています。
喫煙のほかにも、腎盂・尿管がんの発症リスクを高めると考えられている因子には、発がん性の高い物質(特殊な溶剤など)に接触することや慢性的な炎症などがあります。
症状
腎盂・尿管がんの初期症状として最も多く見られるのが血尿です。その次に多い症状としては、側腹部の痛みが挙げられます。これは、がんそのものが大きくなることで尿管が閉塞してしまうことや、がんの進行によって出血が起こり、その部分が固まってしまうことによります。
要は尿の通過が悪くなることで尿がうっ滞し、圧力が高まること(=水腎症になること)で痛みが出るのです。このときの痛みは、尿管結石の痛みと似ているといわれており、強い痛みが発生しますが、時間が経つと慣れてしまう方もいます。
ただ、血尿や側腹部の痛みなどといった自覚症状が現れる場合もありますが、自覚症状がない場合もあります。ほかの病気について調べているうちに偶然腎盂・尿管がんが見つかったというケースがこれに該当し、腎盂・尿管がんの約15%を占めています。
自覚症状が出ないことも少なくないため、腎盂・尿管がんであることがわかった時点で、すでにかなり進行している場合もあります。腎盂・尿管がんと性質が似ているがんとしては、膀胱がんがありますが、膀胱に比べて腎盂・(特に)尿管の壁は薄いため、より外側に進行しやすく、予後も悪いことが分かっています。
疫学・統計・5年生存率
腎盂・尿管がんは主に50代から70代以降に多く見られるがんですが、がん全体でみればそもそも腎盂や尿管にがんが発生することはそこまで多いわけではありません。
そのため、健康診断や人間ドックでも、標準的な検査には腎盂・尿管がんの検査は尿検査くらいしか組み込まれていないことも多く、血尿が見られない場合には、「先月の健診では何も言われなかったのに、急に血尿が出て泌尿器科に行ったら腎盂がんが見つかった」という場合がよくあります。
(エコー検査で腎盂がんや、尿管がんによる水腎症が見つかることはありますが、ある程度進行しないと見つかりません)
また、男性のほうが女性よりも腎盂・尿管がんになりやすく、その比率は約2:1とされています。
腎盂と尿管におけるがん発症リスクは4:1と、腎盂のほうが多くなっています。また、尿管に発生するがんのうち、下部尿管で発生するものが約70%、中部尿管が約25%、上部尿管が約5%とされています。
2010年の腎盂・尿管がんと膀胱がんを合わせた尿路上皮がんでの死亡者数は、男性で約6700人、女性で約3300人となっていますが、このうち腎盂・尿管がんが占める割合は約3割で、腎盂・尿管がんによる死亡者数は、がんによる死亡者数全体の0.2~0.3%となっています。
統計では、死因を腎盂・尿管がんのみにしぼった場合、5年生存率は次のように報告されています。
・0期(TaもしくはTisで,リンパ節への転移や遠隔転移が認められない):94%
・1期(T1でリンパ節への転移や遠隔転移が認められない):91%
・2期(T2でリンパ節への転移や遠隔転移が認められない):75%
・3期(T3でリンパ節への転移や遠隔転移が認められない):54%
・4期(T4もしくはリンパ節への転移や遠隔転移が認められる):12%
また、腎盂・尿管がんは再発することがありますが、手術した部位での再発、遠隔転移による再発以外にも、膀胱内での再発があります。この膀胱内再発が起こる確率は30~40%ともいわれており、腎盂・尿管がんの治療後にはしばらく定期的に膀胱鏡検査を受けていくことが必要です。もし膀胱内に再発した場合、多くは経尿道的手術によって治療を行うことになります。