薬剤の副作用は公衆衛生上の大きな懸念点であり、早期の薬物中断など、健康上また治療上好ましくない問題の原因になることがある。近年の研究では、この副作用の一部は、ネガティブな予測といった非薬物的な因子によって引き起こされることが示唆されている。
補助内分泌療法は、ホルモン感受性乳がんの標準治療であり、無病生存期間や再発まで期間の改善をもたらす。しかし、5年間の非アドヒアランスは22~55%である。非アドヒアランスの原因はQOL(生活の質)にマイナスに働く副作用が主体である。癌治療関連副作用、とくに悪心、疼痛、疲労感などの化学療法に非特異的な毒性は、患者の副作用への予測がと関連している。
*アドヒアランス:服薬順守率。がん分野の場合は、副作用による服薬中止等も含まれることもある。
そのような中、手術後のホルモン感受性乳がん患者に対する、2年間の前向きコホート試験(NCT02088710)が行われ、その結果が2016年10月27日の医学誌Ann Oncologyに掲載された。この試験の目的は患者の予測が、乳癌内分泌療法の副作用、QOL、アドヒアランスにどのような役割を担っているのかを評価することである。
対象は2011年1月から2012年3月までに登録された手術および補助内分泌療法適応のER陽性原発性乳がん患者。定期的な患者報告による構造的評価で副作用、副作用予想、QOL、アドヒアランスについて手術後の1週目、内分泌療法3ヵ月、24ヵ月後に行われた。
治療前に、薬物療法にネガティブな印象を持つ患者は、副作用の発現率が高い可能性
111名が登録され、3ヵ月時に107名、24ヵ月時に88名が評価された。2年後における患者報告の副作用の頻度は高く、関節痛71.3%、体重増加53.4%、ホットフラッシュ46.5%であった。また、呼吸困難、めまいなど薬剤とは直接関係しない副作用もみられた。治療前の患者の予測は、長期的な副作用とQOLを関連しており、ベースライン時(試験に参加した時;この試験の場合、治療前のことを指す)に強いネガティブな予測を持つ患者では、内分泌療法2年後の副作用の相対リスクが高かった(相対リスク比:1.833、95%CI:1.032-3.256)。この予測の影響は、とくに3ヶ月の副作用発現の高い患者との顕著な相関が確認された。さらに、患者のベースラインでの予測が、24ヶ月のアドヒアランスと相関していた(r=‐0.25、p=0.006)。
ネガティブな予測は治療特異的副作用、アドヒアランスの低下を増加させる。潜在的な原因因子との関係を分析するためにコントロール試験は必要であるが、患者の予測の適切化は、副作用の負荷、QOL、薬剤服用の長期アドヒアランスを改善するために有効な戦略かもしれない。
記事:加藤 テイジ
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