補完代替療法(CAM)とは、がん治療の目的で行われている医療(手術、薬物療法およに放射線治療など)を補ったり、その代わりに行う医療のことである。健康食品やサプリメントが目につくことが多いが、鍼・灸、マッサージ療法、運動療法、音楽療法および心理療法なども含まれる。
補完代替療法には、臨床試験デザインへの議論はさておき、前向き臨床試験によってその有効性を証明されているものも存在することは確かであり、「国立がん研究センター がん情報サービス」は、2002年の米ハーバード大学の研究グループがまとめた19の補完代替療法についての「有効性」や「安全性」を掲載している。
代替療法(健康食品やサプリメント)-国立がん研究センターがん情報サービス(2014年6月24日)
このように、補完代替療法について賛否両論ある中、がん患者の遺族に対して「補完代替療法の実態調査」が実施され、その結果より、がん患者の中でも補完代替療法を使用しやすい傾向のある患者像が浮かび上がった。
これは、がん・感染症センター都立駒込病院の鈴木 梢氏らの研究グループにより、「緩和ケア病棟の遺族にアンケート調査を実施し、451名の回答を単変量または多変量解析により検討した研究」の結果である。
本研究は、日本ホスピス緩和ケア協会の実施した「遺族によるホスピス・緩和ケアの質の評価に関する研究(J-HOPE)」の一部として実施されており、6月23日から24日に開催された第22回日本緩和医療学会学術大会にて発表され、優秀演題の1つに選ばれた。
目次
半数が補完代替医療を使用、半数が総額10万円以下の費用負担、半数が主治医に相談せずに使用
調査の結果、回答者の53%が補完代替療法を実施していた。
サプリメントが半数(54%)を占めており、運動(37%)、マッサージ・骨格改善(35%)、温泉・温熱療法(29%)、マインドフルネス・芸術セラピー(27%)、食事療法(18%)、および免疫療法・ビタミン療法(16%)と続いた。また、62%で複数の補完代替療法の実施歴があった。
使用目的としては、がんの治癒というよりも免疫力の向上や精神的希望のために使用する傾向があり、約半数が身体的・精神的効果を得ていた。その一方、18%が副作用を経験し、10%が補完代替療法のために治療中断歴があった。
約半数が主治医と相談せずに補完代替療法を使用していた。相談した場合には、反対されたり、危険性について助言されたケースは少なく、使用を支持されたと感じた患者の割合が高かった。すなわち、使用を支持してくれそうな主治医に、補完代替医療について相談している可能性が示唆された。
なお、情報化社会に反して、インターネットや本と比較して、大部分が家族や友人から情報を得ている傾向が認められた(インターネット:40%、本:47%、家族や友人:64%)。
補完代替療法の総費用は10万円未満が57%であった一方、300万円以上かけた方は5%存在した。30%が経済的な負担を感じ、借金をしてまで補完代替医療を実施する患者も存在した。
鈴木氏は、「精神的な希望などのため、身体的・経済的に影響のない範囲で取り入れていたが、一部で高額な費用負担や抗がん治療中断例もみられた。治療医に相談せずに使用している場合もあり、医療スタッフは補完代替医療の内容や目的についても注意を払う必要がある」と述べている。
患者が「若年」「高収入」、家族が「高学歴」「心の状態が不良」「毎日の付き添いが困難」の場合に補完代替療法を使用する傾向に
2005年にJournal of Clinical Oncologyに掲載された日本における3100名の補完代替療法に関する調査において、補完代替療法を使用する背景因子として、高学歴、若年、女性、PS(パフォーマンスステータス)低下、がん罹患による日常生活の変化、化学療法の治療歴、緩和ケア療法入院中であることが示されている*。
このような背景において、鈴木氏らは、前述の調査にて、補完代替療法実施歴とがん患者背景、がん患者の家族との関連を解析した。
患者については、年齢、性別、原発巣、死亡から調査票回収までの期間、婚姻状態、同居者の有無、子供(未成年)の有無、地域人口(30万未満/30万以上)、年収(400万以上/400未満)および亡くなる前の医療費(40万円以上/40万円未満)について解析した。結果、「患者の年齢が若いほど」「年収が高いほど(400万円以上)」統計学的に有意に関連した。(また、患者が「未婚」「人口30万人以上の都市に居住」の方が補完代替療法を実施する傾向が認められた。)
家族(遺族)については、年齢、性別、患者(故人)との続柄(子供/配偶者/その他)、最終学歴(高校・旧制中学以下/短大・専門学校以上)、入院中の体の健康状態、入院中の心の健康状態、亡くなる前の付き添い(毎日/その他)、付き添いサポートの有無、耳を傾けてくれる人の有無、および宗教の有無について解析した。
結果、家族が「高学歴であること」「緩和ケア病棟入院中に家族のこころの状態が不良」「死亡直前に毎日の付き添いが困難であること」が統計学的に有意に関連した。(また、家族が「女性」「故人が配偶者」の方が補完代替療法を実施する傾向が認められた。)
これら5項目に、患者の婚姻状態、患者居住地の人口、遺族の性別、遺族と故人との続柄の4項目を加えた9項目(これら患者と家族に対するステータスの関連性を上記にあげた7項目)について多変量解析したところ「若年患者」「家族が高学歴」「緩和ケア病棟入院中に家族のこころの状態が不良」「死亡直前に毎日の付き添い困難」の4項目が抽出された。
鈴木氏は「補完代替療法の使用歴のある患者家族は、患者が終末期となった際に心の辛さをより強く抱えている可能性が示唆されており、家族の抑うつや悲嘆などが関連している可能性を示唆した。今後さらに補完代替療法の使用者の特性・心理状態などの背景因子と共に、患者家族・遺族へ与える影響について調査を進めていく必要がある」と述べた。
参考:第22回日本緩和医療学会学術大会 抄録
[O5-1] がん患者における補完代替医療(1)〜使用実態〜
[O5-2] 【優秀演題】がん患者における補完代替医療(2)、〜補完代替医療使用の関連要因についての検討〜
記事:可知 健太
この記事は演者である鈴木梢氏に確認のもと作成しております。
この記事に利益相反はありません。