がんと診断された患者の精神的苦痛やストレスを和らげるためのウェブベースのストレス管理プログラムが開発されている。
「STREAM(web-based minimal-contact stress management intervention)」と呼ばれるオンライン介入プログラムを開発したスイスBasel大学病院のViviane Hess氏らはSTREAMを用いてサポートする無作為化比較試験(NCT02289014)を実施し、がん患者の不安を解消して生活の質(QOL)を改善できることを実証した。
2017年6月2日から6日に開催された米国臨床腫瘍学会(ASCO)のLate-Breaking-Abstract(LBA)枠で発表した。
目次
がん治療開始後できるだけ早くサポートを開始、待機組を対照に比較
がんと初めて診断され、がん治療を開始後12週間以内の患者129例をSTREAMでサポートする群(以下STREAM群)、または待機の非サポート群(対照群)に無作為に割り付け、STREAM群は8週間の介入プログラムを実施した。
がん種別では、早期乳がんを含む乳がん患者が71%(91例)を占め、その他は肺がん、卵巣がん、消化器がん、リンパ腫、悪性黒色腫であった。また、117例(91%)は治癒目的の治療を受け、化学療法を受けていたのは74例(51%)であった。
主観的な精神心理学的状態を客観的尺度で定量化
試験開始前、およびサポート開始後2カ月の時点で、両群ともに生活の質(QOL)、精神的苦痛、および不安/抑うつについて、それぞれの尺度を用いて状態を定量化した。
QOLはFACIT-Fと呼ばれる慢性疾患治療における機能評価の疲労感を図る尺度を用い、9ポイント以上増加した場合を臨床的意義のある改善と定義した。
精神的苦痛はがん患者に通常適用されているスクリーニング尺度を用い、スコア0からスコア4は精神的苦痛の度合いが低い、スコア5からスコア10は度合いが高いことを示す。
その結果、サポート開始2カ月後の評価で、STREAM群は対照群と比べ生活の質(QOL)が有意に改善し(p=0.044)、FACIT-Fスコア平均は8.59ポイントの差が認められた。
STREAM群では開始前スコア中央値が101.0であったのが2カ月後には中央値119.0に増加した。一方、対照群では開始前中央値108.3、2カ月後では中央値109.5でほとんど変化しなかった。
精神的苦痛のスコア中央値は、STREAM群、対照群ともに開始前は6で、96例(75%)はスコア5以上であったが、2カ月後の中央値はSTREAM群が4に改善し、対照群は6と変化せず、STREAM群では対照群と比べ精神的苦痛が有意に軽減された(p=0.032)。不安/抑うつの状態は両群間に有意差がなかった(p=0.273)。
なお、本試験で対照群に割り付けられた患者は、STREAM群のサポート期間2カ月を待機期間として、その後STREAMの介入プログラムを受けた。
STREAMは精神疾患の対面式介入プログラムを基礎とするオンライン版
STREAMは、確立されている対面式の認知行動療法に基づき、がん専門医と心理学者により開発されたプログラムで、ストレスに対する身体反応や認知ストレスの低下、感情・気分、社会的相互関係など8つのテーマを網羅している。
被験者は毎週、各テーマについて文書、または音声で取得した情報に基づき実行すべきこと、あるいは質問への回答を完了する。評価する心理学者は週ごとの患者の状態を把握し、個別に文書化したガイダンスをオンラインで提供し、サポートを行う。
本試験での評価者は、すべてスイスのバーゼルを拠点とする心理学者であったが、被験者はドイツ、スイス、およびオーストリア在住のがん患者で、患者の側からもオンラインプログラムを介して心理学者に直接文書を送る機会も確保された。
STREAMは、「セラピストが指南するオンライン介入」として知られる、いわゆる遠隔セラピーモデルで、不安症などある種の精神疾患の対象ではすでに標準的なアプローチでもあり、Hess氏らによると、従来の対面式のセラピーと同程度の有効性が見込めるという。
オンラインによる精神的サポートにより、対面のコミュニケーションを最小化することは、がん患者が自宅など自身にとって快適な場所で、あるいは良好なWi-Fi環境がある場所で、一定時間でより多くの精神的サポートを受けることができるため利便性が高く、他方セラピストの側でも、多くの医療業務がある中で時間の節約にもなる。
がん治療と同時並行して必要度が増す精神的サポート、時代のニーズに合わせた利便性の高いプログラムの普及へ
がんそのものの治療と並行して精神的サポートの必要性は高まっている。
がんの診断を受けた患者が感じる精神的苦痛は計り知れないもので、それによって生活の質が損なわれるばかりでなく、病状の経過や治療に対する耐容性にも悪影響をおよぼしかねない。
しかしながら、精神的サポートを受ける患者は少なく、実際には、早期からサポートを受けたくても遠方まで足を運ばなければならない場合もあり、時間がない場合もある。実現のための資源に問題がある場合もある。
STREAMプログラムは、現在はドイツ語のプログラムしかないが、より多くのがん患者に提供するため、今後は他の言語でもプログラムを作製するという。
Hess氏は、「STREAMのようなオンラインの精神的サポートは、デジタル世代の人々にがんのリスクが高まっていく頃には、さらに重要性を増すだろう。というのも、彼ら、彼女らにとって、オンラインツールや対面しないコミュニケーションは生活上で自然なもの。だからこそ、そうしたツールを標準化し、有用性を実証するのは今である」と語った。
記事:川又 総江
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