・ビタミンDサプリメントは、がんやけ心血管イベントを予防しない
・DHA、EPAg含有オメガ脂肪酸サプリメントも、がんやけ心血管イベントを予防しない
・2万5千人登録、5年にわたる大規模試験結果
骨折予防などの目的で服用が推奨されているビタミンDサプリメント、あるいは、心血管疾患やがんを予防するとして一般的評価を受けているDHA、EPAなどに含まれる海産物由来脂肪酸(オメガ-3脂肪酸)サプリメントは、毎日摂取しても、がんや心血管イベントの発症を予防しないことが統計学的に証明された。米国Brigham and Women’s病院のJulie E. Buring氏らVITAL(VITamin D and OmegA-3 TriaL)研究グループが米国でおよそ5年間にわたり実施した大規模な第3相追跡調査試験(VITAL、NCT01169259)の結果で、2018年11月10日のNew England Journal of Medicine(NEJM)誌オンライン版にビタミンD、オメガ-3脂肪酸それぞれについて論文2本が掲載された。
目次
以前からサプリメントとしての効用について確固たる見解はない
ビタミンDやオメガ-3脂肪酸のサプリメントとしての効用については、過去にも複数の調査分析結果が報告されているが、被験者の要件やサプリメントの用法用量など試験デザインも様々で、一貫した結論を導くことは難しい状況にある。米国予防医学専門委員会(USPSTF)や米国医学研究所(IOM)も、現時点では、ビタミンDサプリメントのがんや心血管疾患の予防効果を判断するには十分なデータがないと結論している。
そうした中で、ビタミンDを通常の食事補助用量(600単位から800単位)ではなく、少なくともその2倍の用量を毎日摂取した場合に、がんや心血管疾患の予防効果の有無を明らかにし得る大規模で長期間の追跡調査の実施が望まれていた。また、オメガ-3脂肪酸についても、糖尿病や脂質異常症などハイリスク基礎疾患の有無を問わず、一般人集団におけるベネフィット-リスクバランスを明らかにする必要があった。そこで、これまでに得られている様々な知見のギャップを埋めるため、米国国立がん研究所(NCI)、米国国立心臓・肺・血液研究所(NHLBI)などの支援を受けてVITAL試験が実施された。
2万5000人を超える被検者登録に成功
2011年11月から2014年3月、進行性がんや心血管疾患を発症した経験がない50歳以上の男性、55歳以上の女性で登録基準を満たした25,871人を対象とし、2017年12月31日まで追跡した(追跡期間中央値5.3年)。進行性がん、または心血管疾患の発症の確定診断は、第三者の医師グループで構成する独立したエンドポイント評価委員会が行った。被験者をビタミンD+オメガ-3併用群、ビタミンD群、オメガ-3脂肪酸群、またはプラセボ群に無作為に割り付け、ビタミンD製剤としてコレカルシフェロールを1日2,000単位、オメガ-3脂肪酸としてEPA 465mgとDHA 375mgを含むオマコールカプセルを1日1g服用した。主要評価項目は、がん種を問わず進行性のがん、もしくは心筋梗塞や脳卒中を含む主要心血管疾患の発症、または心血管死であった。
調査対象25,871人の割り当ては、ビタミンD+オメガ-3併用群が6,463人、ビタミンD群が6,464人、オメガ-3脂肪酸群が6,470人、プラセボ群が6,474人であった。年齢、性別、人種、BMI、降圧剤やコレステロール低下薬の服用状況、糖尿病の有無などの被験者背景は各群間で均衡がとれた。
サプリメント摂取、非摂取を問わず発症頻度は同等
進行性がん、心血管疾患の発症をビタミンDの摂取、非摂取別、オメガ-3脂肪酸の摂取、非摂取別に算出し、発症リスクをハザード比で検証した。その結果は以下の通りだった。
進行性がんの発症
ビタミンD摂取:12,927人中793人
ビタミンD非摂取:12,944人中824人
オメガ-3脂肪酸摂取:12,933人中820人
オメガ-3脂肪非摂取:12,938人797人
心血管疾患の発症
ビタミンD摂取:12,927人中396人
ビタミンD非摂取:12,944人中409人
オメガ-3脂肪酸摂取:計12,933人中396人、
オメガ-3脂肪非摂取:12,938人中419人
これらのハザード比は0.93から1.03の間で、進行性がん、心血管疾患ともにビタミンD、またはオメガ-3脂肪酸の摂取により発症リスクは低下しなかったことが示された。がん種別、心血管疾患のイベント別など様々な解析でもサプリメントの摂取が発症リスク低減に寄与するとの解析結果は導かれなかった。
発症リスクに影響する背景因子も特定ならず
性別や人種、BMI、25-ヒドロキシビタミンDの血清中濃度など、詳細な被検者背景別のサブグループ解析で、有意な影響をおよぼした因子は体格指数(BMI)のみで、進行性がんの発症リスクはBMIが高いほど上昇した。正常範囲の体重でビタミンDを摂取すれば、摂取しない場合よりもがんの発症を予防可能と解釈することもできるが、補正解析をしていないため一概には結論できない。
VITAL試験では、黒人被検者が5,106人登録された。これは意図的に5,000人を超えるようにしたもので、皮膚でのビタミンDの生合成には太陽光に曝露される必要があるが、黒人の太陽光に対するビタミンD生合成反応は他の人種や民族と比べると低いため、ビタミンDを摂取することの効用に特に関心があった。よって、各群の黒人被検者の割合は約20%を保持した。追跡の結果、黒人被検者集団のがん発症リスクのハザード比(0.77)は、非ヒスパニック白人被験者集団(0.99)と比べ低かったが、ビタミンDの摂取、非摂取の間に有意差はなかった。黒人は白人よりも25-ヒドロキシビタミンDの血清中濃度が低い場合でも骨折リスクが低く、骨状態保持のためのビタミンD必要量がそもそも少なくて済むと報告されているが、ビタミンDを補えばリスクが低下するというものでもなく、最も良好なビタミンD濃度は臓器や組織の状態によって変化し得ると考えるべきである。
想定通り、サプリメントの安全性に問題はなかった。ビタミンD摂取で予想される高カルシウム血症、腎結石、または消化器症状、オメガ-3脂肪酸摂取で予想される消化器症状、大出血事象など重篤な有害事象の発現率は、いずれのサプリメントでも摂取、非摂取による差は認められなかった。
遅延性の効用は現れるか?
VITAL試験は、現在、サプリメント摂取終了後に遅延性の効用が出現した場合に備え、さらに2年間のフォローアップを行っている。統計学的な検出力を上げてエンドポイントを評価する。
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