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オメガ3系脂肪酸の摂取でがんサバイバーの再発不安を軽減-国立がん研究センター ・中國醫藥大學醫學院 共同研究から-

  • [公開日]2018.09.19
  • [最終更新日]2019.03.15

9月15日、国立研究開発法人国立がん研究センター 社会と健康研究センター健康支援研究部長の松岡豊氏、蘇冠賓中國醫藥大學醫學院生物醫學研究所教授(台湾)、曾秉濤文信診所医師(台湾)らの共同研究グループは、青魚等に含まれるオメガ3系脂肪酸の抗不安効果を合計2,240人の不安症状を抱える人を対象とした19件の臨床研究メタアナリシスで検討し、米国医師会雑誌(JAMA)系列のオープンアクセスジャーナル『JAMA Network Open』に掲載発表した。

メタアナリシスとは、複数のランダム化比較試験によるエビデンスを統合し、関心のある治療薬・ケア・対策の効果の大きさを評価し、より高い見地から正しい結論を導き出す解析方法である。

目次

研究背景

不安は最も一般的にみられる精神症状であり、およそ3人に1人が生涯において何らかの不安症と診断されている。

不安は生活の質や社会機能を低下させ、全死亡率を上昇させることにつながる。

がん患者においても、約半数のがんサバイバーが中等度以上の、7%が重度のがん再発不安を抱えていることが様々な研究で示されており、サバイバーシップにおける未だ満たされていないニーズの一つであることが指摘されている。

不安症の治療法には選択的セロトニン再取り込み阻害薬や認知行動療法が用いられるが、前者は鎮静や依存などの副作用が懸念され、後者は治療にかかる時間、費用、そして治療者不足が課題となっている。

身体疾患を抱える人の不安を和らげるための科学的根拠に基づく安全で簡便な対策が求められている。

代表的なオメガ3系脂肪酸には、植物由来のアルファリノレン酸、海洋由来のエイコサペンタエン酸及びドコサヘキサエン酸が挙げられる。

近年、イワシ・サバ・サンマなど青魚に多く含まれるオメガ3系脂肪酸と不安の関連を調べる研究が多数行われ、オメガ3系脂肪酸の抗不安効果の検討が関心を集めている。

マウスでの実験においても、オメガ3系脂肪酸の比率が高い餌を習慣的に食べさせると、恐怖体験について思い出したときの怖いという感覚(恐怖記憶と呼ぶ)が和らぐことが見出されている。

しかし、これまで報告された臨床研究はサンプル数が少なく、研究によって結果のばらつきが大きく、オメガ3系脂肪酸が不安症状の軽減に効果があるかどうかについて明らかではなかった。

研究方法

解析対象

臨床診断
精神:注意欠陥・多動性障害(ADHD)、境界性人格、トゥレット症候群、物質依存、アルツハイマー病、うつ病、強迫症、心的外傷後ストレス障害PTSD

身体:事故外傷、パーキンソン病、急性心筋梗塞、月経前症候群

健常:看護師、成人、非喫煙者、高齢者、大学生

背景

オメガ3系脂肪酸摂取群(1,203名(日本人179名)、平均年齢 43.7歳、女性 55%)

オメガ3系脂肪酸摂取量 平均1,605.7mg/d(225mg – 4074mg)

オメガ3系脂肪酸非摂取群(1,037名(日本人183名)、平均年齢 40.6歳、女性 55%)

研究結果

メタアナリシスの結果、オメガ3系脂肪酸を摂取した群はオメガ3系脂肪酸を摂取していない群と比較して、不安症状が軽減されることが明らかになった(効果量0.374、95%信頼区間0.081-0.666)(図1)。

図1.オメガ3系脂肪酸による抗不安効果[/caption]

また層別化した解析の結果、身体疾患や精神疾患等の臨床診断を抱えている人を対象にした場合に抗不安効果が大きいことが示された(図2)。

図2.臨床診断の有無によるサブグループ解析[/caption]

更にオメガ3系脂肪酸を少なくとも2,000mg摂取してもらった場合に抗不安効果を認めることが示された。

効果量:本研究では独立した2群の差についての効果量を表すHedge gを算出。値の絶対値が大きいほど群間差が大きいことを示す。0.2は小さい、0.5は中くらい、0.8は大きい効果と解釈する。

95%信頼区間:測定の精度を表すもので、信頼区間が狭ければ狭いほど、測定の精度は高くなる。母集団からサンプルを取ってきて、その平均から95%信頼区間を求める、という作業を100回やったときに、95回はその区間の中に母平均が含まれるということを意味する。

今後の展望

今後は、オメガ3系脂肪酸の摂取量を2,000mg以上に設定し、身体疾患や精神疾患等の臨床診断を抱える人を対象にした大規模な臨床試験を実施することにより、オメガ3系脂肪酸による抗不安効果の検証が期待される。

同時に海洋由来のエイコサペンタエン酸とドコサヘキサエン酸、そして植物由来のアルファリノレン酸のいずれが、不安軽減に最も有効であるかを検討する研究が必要である。

がんサバイバーにおいても、がん再発不安と血中オメガ3系脂肪酸の関連を観察研究で確認することが必要だ。

二者の間に関連が認められることが分かった場合、がんサバイバーにおける最大の満たされないニーズであるがん再発不安軽減を目的にしたオメガ3系脂肪酸による臨床試験を計画し、科学的根拠に基づく機能性食品開発につながることが期待される。

同時にオメガ3系脂肪酸の抗不安効果を探るメカニズム研究が進むことも期待される。

発表論文

雑誌名: JAMA Network Open
タイトル: Omega-3 polyunsaturated fatty acids and anxiety symptoms: a systematic review and meta-analysis
著者: Su KP, Tseng PT, Lin PY, Okubo R, Chen TY, Chen YW, Matsuoka YJ
DOI: 10.1001/jamanetworkopen.2018.2327

参照元

国立がん研究センタープレスリリース

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