国立がん研究センターは4月9日、大規模ながんゲノムデータに関するスーパーコンピューターを用いた遺伝子解析を行い、同一がん遺伝子内における複数変異が相乗的に機能するという新たな発がんメカニズムを解明したと発表した。
この研究成果は、同センター分子腫瘍学分野の斎藤優樹任意研修生、古屋淳史主任研究員、片岡圭亮分野長ら研究グループと、京都大学大学院医学研究科の奥野恭史教授、東京大学医科学研究所の宮野悟教授らと共同研究によるもの。研究結果は英科学誌「Nature」に4月8日付で掲載された。
目次
不明だった低頻度の遺伝子異常が蓄積する理由
近年、次世代シーケンス技術の進歩に伴い、大規模ながんゲノム解析が行われるようになった。その結果、がんにおいて重要な働きをしているさまざまな遺伝子異常が同定されつつある。
その中には、さまざまながんで高頻度に認められる遺伝子異常だけではなく、単独では低頻度でしか認められない遺伝子異常も多数含まれている。これらの低頻度の遺伝子異常は、機能が弱かったり、機能が不明であったりするため、なぜがんに低頻度の遺伝子異常が蓄積するのか、その理由は十分に解明されていなかった。
今回、研究グループは、同一がん遺伝子内の複数変異という現象に着目。がん遺伝子内の複数変異は、薬剤耐性に関連した変異に伴うものが知られていたが、未治療のがんでがん遺伝子に複数個の変異が生じるということは、これまでほとんど報告されていなかった。
代表的ながん遺伝子、変異を持つ症例の約10%に同一遺伝子内の複数変異
研究の結果、一部のがん遺伝子では複数の変異が生じやすいことが判明。PIK3CA遺伝子やEGFR遺伝子など、代表的ながん遺伝子では変異を持つ症例の約10%が同一遺伝子内に複数の変異を有し、これらの大部分は染色体の同じ側(シス)に発生していたという。
また、同一がん遺伝子に複数の変異が生じる場合、単独の変異では低頻度でしか認められない部位やアミノ酸変化がより多く選択されていた。これらの変異は、単独では機能的に弱い変異だが、複数生じることで相乗効果に、より強い発がん促進作用を示した。
特に、PIK3CA遺伝子で複数変異を持つ場合は、単独変異よりもより強い下流シグナルの活性化や当該遺伝子への依存度が認められ、特異的な阻害剤に対して感受性を示したという。
がんゲノム診療に役立つと期待
今回の研究成果が示すように、大規模シーケンスデータを用いた遺伝子解析は、従来見逃されていた発がんメカニズムを明らかにするうえで有用だ。研究グループは今後も大規模シーケンスデータを用いた遺伝子解析を継続し、さらなる発がんメカニズムの解明を目指すとしている。
また、今回判明した「同一がん遺伝子内における複数変異」は、分子標的薬の治療反応性を予測するバイオマーカーとして有用であると期待されるだけでなく、単独では意義不明であった変異が生じる理由を説明できる可能性があり、がんゲノム診療に役立つことが期待される。
参照元:
国立研究開発法人国立がん研究センター/京都大学/東京大学医科学研究所 プレスリリース
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