愛知県がんセンターは2月14日、がん患者が一度も同センターに来院することなく治験に参加することができる完全リモート治験を開始すると発表した。同センター薬物療法部と臨床試験部がかかりつけ病院と協力し、患者さんとオンライン診療を行う。この仕組みは、がん治療の分野では国内初だという。
治験実施施設が遠方なため、参加を見送らざるを得ないケースも
がんゲノム医療中核拠点病院など一部の病院では、がん遺伝子パネル検査が2019年から保険診療で受けられるようになった。愛知県がんセンターもがんゲノム医療拠点病院の指定をうけ、がんゲノム医療センターのがんゲノム外来を中心にがん遺伝子パネル検査を行っている同検査では、一度に100個以上のがん遺伝子の変化を調べ、遺伝子の変化に基づき、最適な治療薬が判明するが、この検査を受けても実際に治療につながる確率はおよそ8%と報告されている。
また、治療の候補となる薬剤は、研究段階のものが多く、臨床試験・治験・先進医療など特別な枠組を利用する必要がある。治験は、専門的知識やサポート体制が必要なため、日本全国で5~10施設ほどの限られた施設で行われることが一般的だ。そのため、適切な治療の情報が得られても、実施施設が患者の自宅から遠く、治験への参加を断念せざるを得ない患者の存在が大きな課題となっている。
初診からオンライン診療が可能、治療薬は患宅に配送
今回、同センターでは、オンライン診療や治験薬配送に関する手順を整えるなど治験実施体制を整備し、複数の治験で完全リモート治験を導入するという。この取り組みでは、従来対面診療で行っていた治験の診療をオンラインで行うが、事前に十分な診療情報がかかりつけ病院から提供されることで、初診からオンライン診療が可能としている。
また、治験で定められる血液検査、画像検査などは患者がこれまで通院していたかかりつけ病院で行い、治験で用いる治療薬は患者の自宅に配送される。同センターの担当医師や治験コーディネーター(CRC)は、電話やオンラインシステムを用いて治療が安全に行えるよう、患者やその家族のサポートを行うという。また、かかりつけ医とも密に連絡を取り、協力して患者の診療にあたるとしている。
今回の完全リモート治験は、内服薬を用いた2つの医師主導治験から開始するが、今後は製薬企業や開発業務受託機関などと協力し、企業主導の治験でも導入を目指すという。同センターはプレスリリースにて、「本仕組みは、治療開発を行う製薬企業にとっても、治験に参加できる患者さんの数も増え、開発費のコストカットにも繋がることから、より効率的に新しい治療の開発が進められることが期待されます」と述べるとともに、「同様の取り組みが日本全国の最先端のがん治療を行う医療機関に広がり、真のがんゲノム医療が発展していくことを願います」と今後の広がりに期待を寄せている。
参照元:
愛知県がんセンター プレスリリース
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