2019年11月20日、中外製薬株式会社は、開発中の抗CD79b抗体薬物複合体ポラツズマブ ベドチンが厚生労働省より、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma: DLBCL)を予定適応症とする希少疾病用医薬品に指定されたことを発表した。本指定は、未治療のDLBCLおよび再発又は難治性のDLBCLを対象として実施した海外第1b/2相臨床試験(GO29044試験、GO29365試験)等の成績に基づいている。
目次
ポラツズマブ ベドチンについて
ポラツズマブ ベドチンは、ヒト化抗CD79bモノクローナル抗体とチューブリン重合阻害剤をリンカーで結合させた、ファーストインクラスの抗CD79b抗体薬物複合体(antibody-drug conjugate: ADC)。CD79bタンパクは、多くのB細胞で特異的に発現しており、新たな治療法を開発する上で有望なターゲットになり得る1,2。
ポラツズマブ ベドチンは正常細胞への影響を抑えつつCD79bに結合し、送達された化学療法剤によりB細胞を破壊すると考えられている3,4。
シアトルジェネティクス社のADC技術を使用してロシュ社が開発した同剤は、現在、複数のタイプの非ホジキンリンパ腫を対象として臨床開発が行われている。
びまん性大細胞型B細胞リンパ腫について
びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)は、非ホジキンリンパ腫の組織型サブタイプの1つであり、月単位で進行する中悪性度の疾患に分類されている。
DLBCLの患者数は非ホジキンリンパ腫の中で最も多く、その30~40%を占めると報告されている5-7。DLBCLは、60歳代を中心とした中高年齢層で多く発生し8、診断時年齢の中央値は64歳と報告されている9。
未治療のDLBCLに対する標準治療はリツキシマブと化学療法の併用とされているが、約40%の患者で再発が認められ、十分な治療効果が得られていない10。
また、再発又は難治性のDLBCLに対する治療のひとつとして、適応となる患者では自家造血幹細胞移植(autologous stem cell transplantation: ASCT)の実施が推奨されているが、その約半数はASCT実施前の救援化学療法が奏効せず、ASCTが実施できていない11。さらに、年齢や合併症等でASCTの適応とならない患者では標準治療は確立されていない12。
救援化学療法:主に造血器腫瘍において、治療の効果が得られない場合(治療抵抗性)、あるいは再発・再燃した場合に用いる治療を、救援化学療法もしくは救援療法と呼ぶ。
がんの種類によって治療内容は異なるが、その多くは複数の薬(抗がん剤など)を組み合わせた治療となり、救済療法、サルベージ療法と呼ばれることもある13。
希少疾病用医薬品(オーファンドラッグ)について
医薬品医療機器等法に基づき厚生労働大臣から希少疾病用医薬品として指定を受け、優先的に審査される医薬品。指定には、当該医薬品の用途に係る対象者数が本邦において5万人未満であること、重篤な疾病を対象とするとともに、代替する適切な医薬品または治療法がない、又は、既存の医薬品と比較して著しく高い有効性または安全性が期待される等、医療上の必要性が高いこと、対象疾病に対して当該医薬品を使用する理論的根拠があるとともに、その開発に係る計画が妥当であると認められることが必要とされている。
出典
1.Dornan D, et al. Therapeutic potential of an anti-CD79b antibody-drug conjugate, anti-CD79b-vc-MMAE, for the treatment of non-Hodgkin lymphoma. Blood 2009; 114:2721-2729
2.Pfeifer M, et al. Anti-CD22 and anti-CD79B antibody drug conjugates are active in different molecular diffuse large B-cell lymphoma subtypes. Leukemia 2015; 29:1578-1586
3.Ducry L, Stump B. Antibody-drug conjugates: linking cytotoxic payloads to monoclonal antibodies. Bioconjug Chem. 2010; 21:5-13
4.ADC Review. What are antibody-drug conjugates? [Internet; cited June 2019].
5.Swerdlow SH, Campo E, Harris NL, Jaffe ES, Pileri SA, Stein H, et al. WHO Classification of Tumours of Haematopoietic and Lymphoid Tissues, Revised 4th Edition. Lyon, International Agency for Research on Cancer; 2017
6.Aoki R, Karube K, Sugita Y, Nomura Y, Shimizu K, Kimura Y, et al. Distribution of malignant lymphoma in Japan: Analysis of 2260 cases.2001-2006. Pathol Int 2008; 58(3):174-82
7.Chihara D, Ito H, Matsuda T, Shibata A, Katsumi A, Nakamura S, Tomotaka S, et al. Differences in incidence and trends of haematological malignancies in Japan and the United States. Br J Haematol 2014 Feb; 164(4):536-45
8.新津望 日本内科学会雑誌 97:1588-1594, 2008
9.Armitage JO, Weisenburger DD. New approach to classifying non-Hodgkin’s lymphomas: clinical features of the major histologic subtypes. Non-Hodgkin’s Lymphoma Classification Project. J Clin Oncol 1998; 16:2780-95
10.Friedberg JW. Relapsed/Refractory Diffuse Large B-Cell Lymphoma. Hematology Am Soc Hematol Educ Program 2011; 2011:498-505
11.Gisselbrecht C, Glass B, Mounier N, Gill DS, Linch DC, Trneny M, et al. Salvage Regimens With Autologous Transplantation for Relapsed Large B-Cell Lymphoma in the Rituximab Era. J Clin Oncol 2010; 28: 4184-90
12.一般社団法人日本血液学会. 造血器腫瘍診療ガイドライン2018年版. 金原出版株式会社
13.国立がん研究センター がん情報サービス 用語集「救援化学療法」
参照元:
中外製薬株式会社ニュースリリース
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