9月5日、東京大学大学院新領域創成科学研究科は、ナノポアシークエンサーを活用し、従来より長く遺伝子全体(ゲノム)の塩基配列を解析する方法を開発し、肺がんの検体において今まで発見できなかったゲノム異常を見出したと発表した。
がん細胞が持つゲノム解析が世界的に急速に進み、がんの遺伝子異常を網羅的に調べ、診断・治療につなげるクリニカルシークエンスも普及してきている。日本では2019年に、全国にがんゲノム医療中核拠点を設置し、診療でがんゲノムのDNAを解読して、変異パターンを同定し、それに最適な治療法を選択する最適化医療が行われるようになってきた。現在用いられている解析方法は、正確に1つの塩基配列の突然変異を検出する方法であるが、この方法でゲノムを調べても異常を同定出来ない症例も存在する。
新たな手法であるナノポアシークエンサーは、1つずつの塩基配列を解読する精度は高くないが、従来の方法より100倍の長さのゲノム配列を解析できることが特徴であり、ゲノム異常を俯瞰的に解析が可能になる。実際に国立がん研究センターと共同研究として非小細胞肺がん検体の解析を行い、従来のシークエンス解析では見出せなかった複雑な構造変化を伴うゲノム異常を発見した。
異常が発見された一例であるSTK11遺伝子は、一つひとつの塩基配列は正常だが、ゲノム配列のつながり方が異常である。そのため、従来の解析方法では異常を発見することが出来なかった、新たな解析方法によって配列のつなぎ方が4か所にわたって壊れているというゲノムの構造上の異常を発見した。さらに細胞生理学的に解析を進めた結果、そのがん細胞では、遺伝子異常が中核の細胞内シグナル異常が起こっていることが分かった。STK11遺伝子変異は新規の免疫チェックポイント阻害薬が効きにくく、この異常を有する患者では別の治療法を選択する必要がある可能性もあるという。
他にもがんの原因となるゲノム異常が不明の症例が存在する。この手法でゲノム解析を行うことにより、今まで発見されなかったゲノム異常を検出し、発がんや悪性化のメカニズムを明らかにし新規の治療薬の開発につながると予測される。
ナノポアシークエンサーについて
DNAの塩基配列を決定する(シークエンス)機器をシークエンサーという。ナノポアシークエンサーではタンパク質でできたナノポアの中をDNAやRNAが通り、その時の電流変化で塩基配列を決定する。
構造変化を伴うゲノムの異常について
ゲノム異常には広範囲のゲノム配列が挿し込まれる(挿入)、失われる(欠失)、ひっくり返る(逆位)という種類がある。これらはDNAの配列を短く解読する従来の手法では解析が困難であり、長くDNA配列を解析し全体構造を見ることで、発見が出来る。
参照元:
東京大学大学院 新領域創成科学研究科 ニュースリリース
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