提供:バイエル薬品株式会社
本シリーズの最終回となる4回目では、患者さんと医療者が治療目標に向かってともに歩んでいくためには、医療者にはどのような視点やサポートが求められているのか、患者さんが主治医に望んでいることも踏まえながら専門家に議論していただきます。
長谷川 潔 氏:東京大学大学院医学系研究科 肝胆膵外科 人工臓器・移植外科 教授
司会/川上祥子:がん情報サイト「オンコロ」編集部
患者さんが治療を受ける際に医師に望んでいることは?
─Vol.2、3では、がん情報サイト「オンコロ」編集部とバイエル薬品が肝細胞がんの患者さんとご家族を対象に行ったインターネット調査(2019年11~12月実施)をもとにディスカッションを重ねてきました。最終回となるVol.4においても、この調査結果をベースに「医師と患者がともに歩む」ための方策について話し合っていきたいと思います。
この調査では、治療目標達成のために医師(主治医)にしてほしいと思うことを5つ提示し、それぞれの項目ごとにあてはまる気持ちを5段階の中から1つ選んでもらいました。その結果、「とてもそう思う」という回答が最も多かったのは「病気について、ネガティブな情報(病気が進行しているなど)を、隠さずあなたと共有する」という項目で「多少そう思う」を選択した人と合わせると88%の人が望んでいました。「とてもそう思う」が次に多かったのは「すべての治療選択肢について説明する」という項目で、これは「多少そう思う」を含めると89%の人が望んでいました。
ただ、このほかの項目についても僅差の結果となり、ここに挙げた5項目すべてに対して80%以上の人が多少なりとも主治医にそうしてほしいと望んでいます。詳細は以下の表をご参照ください。先生方は、これらの結果についてどのようにお感じになられましたか。
古瀬 私たち医師が「患者さんにこうしたい」と考えていることと、患者さんが「主治医にこうしてほしい」と望んでいることが同じ傾向だとわかり安心しました。なかでも「ネガティブな情報も隠さずに話してほしい」と思っていただいていることはありがたく感じました。
一方で、治療に限界があることを認識しつつも「希望を持ちたい」という思いがあるのもその通りだと思います。治療に対して積極的になっていただくためには希望が持てるような話を同時にしていく必要があるのでしょう。「治療をしない」という選択肢を含め、すべての可能性についてご理解いただけるよう丁寧に説明することが大事だということを改めて認識させられました。
長谷川 治療選択についてよいことも悪いことも知ったうえで、主体的に考えようとする最近の患者さんの傾向が、この調査結果には反映されていると思います。医師をはじめ、がん医療に携わるスタッフはこの結果をしっかり受け止め、患者さんのニーズに応えていかないといけませんね。薬剤の選択だけでなく、治療法そのものや、治療の順序などについてもすべての選択肢を示し、患者さんとともに考えて選んでいく。そうした姿勢が求められていると感じます。
治療選択をともに考えるうえで多職種連携が果たす役割
─このような主治医に対するニーズがある中、治療選択をともに考えるうえで工夫されていることはありますか。
古瀬 患者さんに一度の面談で、治療の全体像をご理解いただくのは難しいため、説明にはしっかりと時間かけるようにしています。患者さんとの面談を重ねていくと「この人は心配性だな」、「この人は比較的楽観的だな」といったように患者さんの性格や考え方の傾向がわかってきますので、それに応じて私たちも言葉や言い方を選んで説明していくこともできます。2、3回の面談の中で、よく話し合って決めていくのがよいでしょう。
長谷川 おっしゃるとおり、外来の一度の面談で結論を出すことは難しいです。治療の中に薬物治療の選択肢が含まれている場合は外科だけで治療法を決めてしまわず、「内科の意見も聞いてきてください」とご紹介することもあります。やはり納得して治療に取り組んでもらうためには、立場が異なる専門家から意見を聞いたうえで患者さんに考えていただくことが大切ですから。
古瀬 薬物治療そのものからいっても時間をかけて話し合うことは肝機能を十分に評価するという観点でメリットがあります。というのも、薬物治療を開始するうえで肝機能が保たれていることが非常に重要だからです。
長谷川 そうですね。治療を始める前に時間をかけて患者さんとコミュニケーションを重ねていくことが大切です。それは、治療目標を共有するために必要なプロセスだと思います。
古瀬 一方で、患者さんが治療方針や治療内容を十分に理解するには医師だけの説明では限界があります。看護師さんや薬剤師さんにも積極的にかかわってもらい、医師の説明を補足してもらったり噛み砕いてもらったりすることが欠かせません。当科では、治療方針が決まったら、薬剤師さんから服薬指導を含め、薬物治療に対する説明をしてもらいます。毎回の外来治療にかかわってもらうのは人員的に難しいですが、治療を始めるときは手厚くサポートしてもらっています。
─多職種連携については、これまでも副作用の管理面において重要であると伺っていました。
古瀬 ええ。肝細胞がんの治療現場において多職種連携による副作用対策の重要性は浸透してきています。多くの病院で看護師さんや薬剤師さんがチームの一員として参加し、それぞれ工夫しながら取り組んでいると思います。
他の職種にかかわってもらうことで、実際の対策だけでなく、患者さんの訴えをしっかり受け止められるメリットも大きいと感じています。というのも、患者さんの中には治療の中断などを怖れてつらい副作用のことを医師に話さない人もいるからです。例えば、看護師さんから「患者さんが頻回の下痢でお困りなので、下痢止めを処方してください」といわれて、初めて副作用の状況を知ることがあります。このようなことは少なくないため、患者さんの状態やニーズを把握するうえで看護師さんや薬剤師さんとのコミュニケーションをよく取っておく必要もあります。
長谷川 同感です。患者さんの思いを知るためにも多職種連携は大切ですね。看護師さんや薬剤師さんにしかいえないこと、それがたとえ愚痴だったとしても、そうした思いを拾い上げることはよりよい薬物治療を行っていくうえで大事なことです。手術をした患者さんが再発し、外科で薬物治療を実施しても当科だけで長く行うことはそう多くありません。薬物治療が中心になってきた際には、外科においても内科との連携が一層大切になってくるでしょう。また、これから使用できる薬剤が増えてくれば、新たな副作用をマネジメントするためにも他科との連携がより重要になってくると思います。
多様化が進んでいく中で医療者に求められる視点
─治療目標については、これまでのディスカッションを通して随時話し合うことが必要だというアドバイスをいただいていましたが、どのようなタイミングでどんなことを話し合いますか。
古瀬 治療を続けていくうちに薬剤の効果が乏しくなってきたり、つらい副作用がなかなか改善されなかったりするときは、他にもまだ使える薬剤があることをお話しする場合もあります。近年、肝細胞がんは治療薬の選択肢が増えてきたので、患者さんの希望につながるような提案ができるようになったことはとても喜ばしいです。今後もさらに薬物治療の多様化は進んでいくので、「肝機能の状態や患者さんの状況に応じて治療薬を変えていく」という視点を常に持ってかかわる必要があると思います。
長谷川 そうですね。さまざまな状況によって治療薬を使い分けることができるようになったのは、医療者にも患者さんにもありがたいことです。以前にもお話したように、患者さんが置かれている状況によってもニーズは変化していきますし、また長く付き合っていく病気でもありますから、治療中であっても随時、患者さんと治療目標について話し合い、目線を合わせていくことがともに歩んでいくうえで重要なことだと思います。
─薬物治療も患者さんのニーズも多様化する中、肝細胞がんの患者さんがよりよく生きることを、どのように支え、ともに歩んでいけばよいのか、肝細胞がん治療の最前線でご活躍されているお二人の専門家から4回にわたって多くの重要なポイントを示唆していただきました。肝細胞がん治療に携わる医療者の方や患者さんやご家族に日々の治療においてご活用いただけると幸いです。誠にありがとうございました。
1993年、東京大学医学部卒業。
東京大学医学部附属病院、同大学大学院医学系研究科肝胆膵外科、人工臓器・移植外科准教授を経て2017年より現職。
原発性・転移性肝がんの外科治療が専門。
1984年、千葉大学医学部卒業。
国立がん研究センター東病院、米国・トマスジェファーソン大学留学等を経て2008年より現職。
日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)の肝胆膵グループ代表。
「がん治療の道しるべ」シリーズでは、患者視点をはじめ医療経済、医療政策まで幅広い話題を取り上げ、がん患者さんとご家族、医療従事者の皆様をサポートします。
Vol.1 肝細胞がん薬物治療と患者視点 多様化する肝細胞がん治療
Vol.2 肝細胞がん薬物治療と患者視点 医師と患者で考える治療目標
Vol.3 肝細胞がん薬物治療と患者視点 治療選択の考え方
Vol.4 肝細胞がん薬物治療と患者視点 ともに歩むために
MAC-UN-ONC-JP-0021-28-09