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胃がんの化学療法
胃がんの薬物療法は大きく分けて術前化学療法、術後補助化学療法、化学療法の3種類があります。この3種類の中で術前化学療法は大規模比較試験により明らかな延命効果が証明されていないため、胃がんの薬物療法といえば術後補助化学療法、化学療法の2種類です。
術後補助化学療法と化学療法の違いは前者がⅡ期またはⅢ期胃がん患者に対して適応があるのに対して、化学療法は治癒切除不能進行・再発の状態であるⅣ期胃がんの患者を対象に実施する薬物療法です。
術後補助化学療法とは、その名前の通り外科的切除後の再発予防を目的として行われる化学療法です。化学療法の種類としてはテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合錠(商品名ティーエスワン;以下ティーエスワン)単剤療法、カペシタビン(商品名ゼローダ;以下ゼローダ)+オキサリプラチン(商品名エルプラット;以下エルプラット)併用療法があり、以下の図に示したような治療スケジュールです。
ティーエスワン単剤療法、XELOX(ゼローダ+エルプラット併用)療法ともにステージⅡ期またはⅢ期胃がん患者に対して、外科的切除単独群よりも術後療法補助化学療法併用群が全生存期間(OS)を有意に延長することを大規模比較試験で証明しています。なお、ティーエスワン単剤併用療法とXELOX療法の治療成績を直接比較した大規模比較試験はありませんが、海外ではXELOX療法が標準治療です。
治癒切除不能進行・再発の状態であるⅣ期胃がん患者に対して行われる化学療法とは、治癒でなく延命を主な目的とする薬物療法です。以下の図は胃がんのステージ別5年生存率ですが、ご覧の通りⅣ期の5年生存率は他のステージと比べてその予後は悪いです。
予後は悪いですが、他のがん種に比べてⅣ期胃がんの治療方針は確立しています。まず、Ⅳ期胃がんでは一次の治療方針を決定するためにがん遺伝子であるHER2検査を実施し、HER2陰性かHER陽性によりその治療方針は大きく分かれます。
HER2陰性の場合、Ⅳ期胃がんの治療は一次・二次治療までが標準治療として確立しています。一次治療では、ティーエスワン/ゼローダ+シスプラチン併用療法、またはティーエスワン/ゼローダ+エルプラット併用療法が標準治療です。
これまでティーエスワンまたはゼローダに併用する薬剤としてはシスプラチンのみでしたが、エルプラットが2015年に国内でも”切除不能・再発胃がん”の効能を取得したため、Ⅳ期胃がん一次治療の標準治療です。
二次治療では、ラムシルマブ(商品名サイラムザ;以下サイラムザ)+パクリタキセル併用療法が2015年以降の標準治療です。また、サイラムザ+パクリタキセル併用療法に適応がない場合は、従来通りドセタキセル、パクリタキセル、イリノテカン(商品名カンプト;以下カンプト)、サイラムザ単剤療法が行われます。
一方のHER2陽性の場合、HER2陰性Ⅳ期胃がんの治療と同様に一次・二次治療までが標準治療として確立していますが、さらにもう1剤トラスツズマブ(商品名ハーセプチン;以下ハーセプチン)というモノクローナル抗体薬が治療選択肢に増えます。
そのため、HER2陰性とは違いHER2陽性Ⅳ期胃がんの一次治療では、ティーエスワン/ゼローダ+シスプラチン+ハーセプチン併用療法、またはティーエスワン/ゼローダ+エルプラット+ハーセプチン併用療法となります。なお、二次治療はHER2陰性もHER2陽性も同様です。
一次・二次治療までが標準治療として確立しているⅣ期胃がんですが、三次治療で推奨されるレジメンは”2次治療で使用していない抗がん剤を用いる”と記載ある通り、その標準治療は確立していません。
しかし、2017年10月6日医学誌『THE LANCET』に掲載された通り、抗PD-1抗体薬ニボルマブ(商品名オプジーボ;以下オプジーボ)がⅣ期胃がん患者に対する3次治療としてプラセボに対して全生存期間(OS)を有意に延長することが証明されています。