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第42回OMCE 腎細胞がん セミナーレポート

  • [公開日]2019.07.31
  • [最終更新日]2019.07.31

講演タイトル:『腎細胞がん
演    者:三浦 裕司 先生(虎の門病院 臨床腫瘍科)
日    時:6月28日(金)
場    所:日本橋ライフサイエンスハブ8F D会議室

今月は、腎細胞がんをテーマにご来場頂きました。

クローズドセミナーであるため全ての情報は掲載できませんが、ポイントとなる情報をお伝えしていきます。

今回は腎細胞がんの基礎知識、治療薬(種類・メカニズム・歴史)、現状・今後の開発を中心にご講義頂きました。三浦先生がこの講義のために描いて下さったイラストと図を一部、ご紹介させて頂きながら、レポートをまとめさせて頂きます。

目次

腎細胞がんの基礎知識

腎細胞がんの種類

腎細胞は、淡明細胞型・乳頭型・嫌色素型などがあり、一番多いのは淡明細胞型で70-80%を占めます。基本的には淡明細胞型というタイプを中心に開発が行われており、現存する科学的根拠のほとんどは、正確には淡明細胞型になります。

参考ページ:オンコロ「腎臓がん(腎細胞がん)の種類と分類」

転移がある方のリスク分類は2つあり、以前はMSKCCリスク分類でしたが、現在はIMDCリスク分類に変わりつつあります。因子の数で、予後良好・中間・不良(進行が速い)の3つに分かれます。この3つに合わせて、それぞれ「どんな治療が勧められるか」というガイドラインができています。

腎細胞がんの治療薬(種類・メカニズム・歴史)

腎細胞がんの治療薬の種類

[腎細胞がんで使用できる薬剤の種類]

腎細胞がんで使用できる薬剤は、大きく分けて3種類あります。その中で、免疫チェックポイント阻害剤も2種類に分けられます。

腎細胞がんの治療薬のメカニズム

淡明細胞型で一番多いメカニズムは以下です。

[腎細胞がん発症のメカニズム]

低酸素誘導因子(HIF)が増えると、VEGFという血管を増やしてしまいます(血管新生)。このメカニズムをどこかでブロックするというのが薬のメカニズムになります。

腎細胞がんの治療薬の歴史

腎細胞がん治療の歴史(一次治療)
最初はインターフェロンしかありませんでしたが、2007年に血管新生阻害剤が使えるようになり、2018年には免疫チェックポイント阻害剤を2つ組み合わせたコンビネーションが中間・不良の方にスーテントより良いという結果が出て、標準治療となりました。

また、2019年中にはインライタキイトルーダ、インライタとアベルマブが標準治療になるかもしれません。このおよそ10年間に沢山の治療法が開発され、一次治療でも免疫チェックポイント阻害剤を使う時代になってきました。

腎細胞がん治療の歴史(二次治療)
ニボルマブアフィニトールよりいいというデータがでて、承認され、二次治療を占めるようになりました。その他、レンバチニブやカボザンチニブなど、違うメカニズムを組み合わせた薬を使う事もあります。

腎細胞がんの治療の現状・今後の開発

腎細胞がんの治療の現状

腎細胞がん治療の現状(2019年6月)
一次治療では中間・不良の方はヤーボイとオプジーボ、良好の方はスーテントかボトリエントです。二次治療では、一次が効かなくなった時、多くはオプジーボもしくは残りの薬剤を順番に、副作用とのバランスを考えながら使用していきます。

腎細胞がん治療の近い未来は、インライタとキイトルーダ、もしくはアベルマブという薬がおそらく1年以内に出てきます。一次治療は中間・不良は3つの選択肢から選べるようになります。

オプジーボとヤーボイは国の添付文書の中で、一次にしか使えないと記載があります。もし、キイトルーダやインライタも同じような制限が付くと、二次治療で使えない可能性もあります。

では、たくさん新薬がでてきたが、どうやって使い分けるかというと、現在臨床でも困っている問題だそうです。まだ、答えは出ていませんが、薬の効果を考えてこれを組み合わせることでどんな効果が得られるか、何を狙ってかを考えて研究しているそうです。

免疫チェックポイント阻害剤はノーベル賞を受賞しましたが、何がノーベル賞に値したかというと、免疫チェックポイント阻害剤の2つの特徴のうち、「一度効くと長く効果が続く」という特徴です。

今迄の抗がん剤は一度効果があっても、何か月後にはまた戻ることもありました。ニボルマブは、一度効くと治ったかのように長く良い状態が続きます。

一方、もう一つの特徴として「効果のある人とない人がはっきり分かれる」というものがあります。この、効かない人をどう効く方に持ってい行けるかも研究されているそうです。

免疫チェックポイント阻害剤が効かない理由として、大きく分けて3つのステップがあります。その効かない理由に対して、それを解決するために、新しい薬を加えると、免疫チェックポイント阻害剤が効くかもしれない、というのが研究のコンセプトだそうです。

三浦先生は、本庶先生とノーベル賞を受賞したジェームズ・アリソン先生の元に留学をされていました。アリソン先生は、CTLA-4を開発し、がんを「治癒」したいという想いでヤーボイを開発しました。

PD1単独では効かなかったものも、ヤーボイにはCTLA-4を加えるとCD8T細胞という、がんを直接攻撃する働きのあるリンパ球が増えてくれることが分かりました。

CD8T細胞くんの働き方改革

ゲノムの時代は腎細胞がんにも来るのか?

6月に承認になった2つのパネル検査で、がんセンターが作成しているNCCオンコパネル(https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2019/0529/index.html)と、Foundation One(https://chugai-pharm.jp/pr/npr/f1t/index/)というものがあります。
これは、遺伝子変異に合わせて薬を使う、という個別化医療になります。

パネル検査の中の遺伝子変異の数がどれ位あるかカウントできるTMB(遺伝子変異量・・・Tumor Mutational Burden)も検出できます。
腎細胞がんでは様々な遺伝子変異を有しますが、そのほとんどががん抑制遺伝子であるという事が分かっています。

アクセルを踏むのがドライバー遺伝子の役割で、ブレーキは抑制遺伝子の役割になります。ブレーキが壊れると、がんが暴走し、進行します。

ドライバー遺伝子

ドライバー遺伝子は、エネルギーのようなもので、エネルギーがどんどん入るので、がんが増えます。これをブロックする薬は作りやすいですが、腎細胞がんはがん抑制遺伝子が壊れています。

一度ダメになったがん抑制遺伝子を復活させる薬の開発は難しく、よって腎細胞がんではプレシジョンメディシンは難しいかもしれません。

また、遺伝子変異数と呼ばれるTMBでは、免疫治療がよく効くと言われています。肺がんや悪性黒色腫は遺伝子変異数が多いですが、腎細胞がんは少ないです。なので、腎細胞では遺伝子変異数(TMB)を測っても効くか分かりません。

では、なぜ腎細胞がんは遺伝子変異数が少なくても免疫治療が効くのかというと、遺伝子変異の種類が違うためです。数は少ないですが、In/Del(インデル・・・遺伝学用語で塩基の挿入または欠損による遺伝的変異のこと)というものによって起こる遺伝子変異の数が多いことが分かっています。

NCCオンコパネルでは、このIn/Delを出してくれるので、腎細胞がんの方でパネル検査を受けたい方には、こちらが勧められると言えるかもしれません。

もう一つの遺伝子変異でPBRM1に関しては、免疫チェックポイント阻害剤が効きやすいというデータがあります。パネル検査は腎細胞がんでは難しいかもしれませんが、このIn/DelやPBRM1は免疫チェックポイント阻害剤が効きやすいかもしれません。

腎細胞がんは多彩な生物学でこれを解明することで、新しい薬が開発されてきました。この10年間、色んな薬が出てきたので、今後10年以内にも開発は進んでいくでしょう。そして、この10年で生存率が倍以上延びてきました。

先生は「今後、完治を目指した治療も目指せるのではないか、と開発しています。これからも患者さんの役に立てるように薬を出す手伝いができれば良いです。」と語り、締めくくりました。

質問コーナでは「腎細胞がんの再発について」「片側のみの部分切除で、その後どの位腎機能が下がるのか」などの質問が寄せられました。

「腎細胞がんの再発について」という質問には、腎細胞がんは特殊ながんで、5年・10年・15年経っても再発する方は少数だがいらっしゃいます(5,10%程)。そのため、長期にわたりフォローする必要があるそうです。

「片側のみの部分切除で、その後どの位腎機能が下がるのか」という質問に関しては、全摘すると機能は落ちますが、年齢にもよりますが部分切除では若い方ですと片側が大きくなるので、補う働きをします。
また、血管新生阻害剤を長年使うと、腎臓は血液が集まってできているので、5年程かけて機能が下がる副作用もあるそうです。

当日ご聴講された方々より、「治療薬に関して、自分の治療の方向が勉強できた」「手作り感(イラスト、図)があたたかみを感じさせてくれて、分かりやすかった」「主治医は忙しく、ゆっくり話を聞けないのでわかりやすい説明で知識が深まった」など、多くのご感想が寄せられました。

先生は最後に、研究者も社会に貢献しているというイメージを持ち、患者さんと研究者の相互理解が大切で、患者さんや社会の声を知るのは自分にためにもなる。そして、この熱意をもって臨床し・研究しているのを患者さんにも知って欲しいと仰いました。

難しい内容を様々な分かりやすい例とイラストで丁寧に説明して下さいました。三浦先生、ご参加された皆様、本当にありがとうございました。

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