米国臨床腫瘍学会(ASCO)が発表した15th Clinical Cancer Advances 2020では、がん予防の視点から注目すべき研究成果が紹介されている。一言でがん予防といっても、ライフスタイルの改善や診断ツールを活用したスクリーニング検査、ウイルス感染が原因のがんに対する予防ワクチンの接種など、複数の戦略がある。がん予防の進歩を個人レベルで実感し、集団レベルで実証するためには、一定数を超える人数が予防のアプローチを実行し、さらに一定の時間を経て事後的な検証を行うことが必要になる。
目次
HPVワクチンによる子宮頸がんのリスク低減はリアルワールドで明確に
子宮頸がんの原因ウイルスであるヒトパピローマウイルス(HPV)を標的とする予防ワクチンは、2006年に初めて実用化され、以降、100カ国近くでワクチンプログラムとして導入されている。実際にワクチンを接種した人数、接種後の時間がある程度蓄積され、現在では十分なリアルワールドデータとして解析対象となっている。研究者がHPVワクチンの効果を示す指標として用いているのは、HPVの型別の感染割合と子宮頸部の前がん病変の検出割合である。
2019年に公表されたHPVワクチンの研究成果の中に、先進国14カ国で行われた臨床試験計40本の統合解析データがある。ワクチンプログラム導入後5年から8年が経過した段階で、子宮頸がんを引き起こす可能性のあるHPVの型別、年齢層別に感染割合を算出したところ、HPV16とHPV18の感染割合は13歳から19歳の女性集団で83%低下し、20歳から24歳の女性集団で66%低下していた。HPV31、HPV33、およびHPV45の感染割合は、13歳から24歳までの集団全体で低下したことが確認された。
次に、子宮頸部の前がん病変(子宮頸部上皮内新生物グレード2+、またはCIN2+)に対するHPVワクチンの予防効果を調べたところ、スクリーニング検査でCIN2+と判定された被験者の割合は、15歳から19歳の女性集団で51%低下し、20歳から24歳の女性集団では31%低下したことが確認された。
米国では、HPVワクチンは9歳から45歳の男女を対象に承認されている。子宮頸がんの原因のおよそ70%を占めるとされるHPV16、HPV18の持続的感染をほぼ100%阻止し、他の型のHPVの感染も86%から95%阻止するという複数の臨床試験結果に基づいて承認された。
臨床試験と承認後実用レベルでの両方のデータから、HPVワクチンが子宮頸がんの予防効果を有すること、さらに、全世界でワクチンプログラムを遂行することの重要性を後押しするエビデンスが揃ってきている。
ビタミンDサプリメントにがん予防効果はない
ビタミンDレベルが低いとがんのリスクが高まるという情報は、最近、複数の小規模の観察試験の結果から導かれていたが、2019年に発表された大規模試験結果の解析により、この情報は否定された。米国国立衛生研究所(NIH)の一部政府資金の提供を受けて実施された大規模な無作為化二重盲検試験(VITAL、NCT1169259)の解析により証明された。
50歳以上の男性、および55歳以上の女性の計2万5000人を超える健常人を対象とし、ビタミンD3(オメガ-3脂肪酸サプリメント併用)群、またはプラセボ群に割り付け、5年以上にわたり追跡した。その結果、がんによる死亡、浸潤がん(がん種を問わない)、乳がん、前立腺がん、または大腸がんの割合は群間差がなく、がん予防の目的でビタミンDサプリメントを毎日摂取する有益性はないと判断された。
参照元:
Clinical Cancer Advances 2020 Advances in Cancer Prevention
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