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私たちは「がんと就労」にどう向き合ったか?~乳がんサバイバーの視点から~

  • [公開日]2017.04.21
  • [最終更新日]2017.04.21

昨年12月がん対策基本法改正法が成立され、「がんと就労問題」がより身近なトピックになってきた。ネットでもこの話題を取り上げたニュースをよく目にする。
先日この件についてはブログ で取り上げて、沢山のかたにご一読いただき、関心の高さを体感した。
実際に私のサバイバー仲間はどのように就労と向き合い、その問題を乗り越えたのか。個人的に非常に興味が湧き、今回は、診断時に就業中だった違う職種・雇用形態の同じ乳がんサバイバーの友人5名に協力してもらった。それぞれのバックボーンが相違する自分の知人を対象条件とし、具体的でかつ身近におこった現状の意見を述べてもらうことを念頭に置いたことに、協力人数を最小限に絞った理由がある。みな当時の思いを率直な言葉で返してくれた。その声を紐解いてみたい。

Q1. 罹患時の就業状況について (順不同)
・正社員A
・正社員B
・フリーランス
・契約社員
・派遣社員

Q2.診断後の就業状態について
・続けた。社会保険の傷病手当金の申請をして手術から9ヶ月間もらっていたが、その間は体調に合わせて、時短にしてもらったり、3日行って3日休みにしたりと一時パート雇用にしてもらった。
傷病手当を貰っていたので、傷病手当1日分を超えた時は、パート扱いにしてもらった。(正社員A)
・続けた。働きながら、治療をした。化学療法の初回は入院。2回目からは、投与日は休み翌日から出社。放射線は治療後、出社(昼前には出社) 診察日は早退もしくは遅刻の形を取った。(正社員B)
・続けた。通院日や体調の悪い時のみ休んだ(フリーランス)
・続けた。通院日や体調の悪い時のみ休んだ(契約社員)
・続けた。通院日や体調の悪い時だけ休んだ(派遣社員)

私の場合は、主治医からも「できるだけ今まで通りの生活を送るためにも仕事は続けたほうがよい」と助言された。当時派遣社員だった私は、部署の理解を得られて時短などの考慮をいただけたが、人事部の判断で契約更新はしてもらえなかった。
自身の希望よりも企業の決定が優先されるという現実問題は、まだ残る課題と感じている。

参考記事:がん患者の退職が多い時期って知っていますか?

Q3.保険(社会保険/任意生命保険 等)を利用されましたか?
・社会保険の傷病手当はもちろん使った。生命保険のがん保険、入院保険も入っていたので経済的には助かった(正社員A)
・会社の保険、休業保障等は使わなかった。生命保険・共済保険は、小さなものしか加入していなかったが、利用した。(正社員B)
・任意生命保険の一時金を受け取った(フリーランス)
・利用した(契約社員)
・社会保険と民間のがん保険を利用(派遣社員)

治療にはお金がかることは漠然と想像ができ、だからこそ民間のがん保険が競争のごとく多様な内容で存在する。
私の家族はいわゆる「がん家系」に当たるので、20歳になったと同時に母から強制的にがん保険に加入させられた。当時の保険加入では、どのぐらいの治療費がかかるのか、抗がん剤1回どれぐらいの費用なのかもわかろうともしなかった。健康体であるが故に調べる事をせず、他人事のように保険員が勧めるものに”なんとなく”加入していた状態だった。診断後保険会社から一時金は出たが、その半分は焦って購入した高額な医療用ウィッグに消えてしまった。
現在、各市町村レベル(一部の県を除く)で、がん罹患者に対するウィッグ補助金制度が設けられているが、これは是非全国レベルで考えていただきたい。就業を継続する上では欠かせないウィッグが医療費控除の対象にもならないのは、国は本気でがんの法律を立案しているのか疑問が残る。
また、傷病手当は企業の健康保険に1年以上加入していないと、恩恵が受けられない。
よって自営業やパート・アルバイトなどを生業にしている人が加入する国民健康保険では、傷病手当を受給する資格がないことになる。私の療養中は、派遣会社の保険に1年以上加入していたおかげで、最長の1年6カ月受給することができそれを治療に充てることができたことは、経済的に助けられた。直近12カ月の平均月給の2/3が支給される。
診断当時私はこの制度を知らず、契約更新打ち切りの時も派遣会社担当者は教えてくれなかった。私と同じステージ、サブタイプの乳がんサバイバーさんのブログで初めて知った経緯がある。高額医療療養費制度も上手に活用したい。月ごとの計算となるため、特に費用負担が大きい入院は、翌月をまたがないほうが自己負担が最小限に抑えられる。

参考記事:【部位・ステージ別】がん治療にかかった実費はいくら?500人に聞いた医療費の相場

Q4-1企業に所属されていたかたにおうかがいします。職場のスタッフに病気のことを説明しましたか?
・した(正社員A / 正社員B / 契約社員 / 派遣社員)
Q4-2 それは診断されていつごろですか?
・1週間以内。アットホームな社内で女性ばかりだったので、診断を受けてすぐに話した。(正社員A)
・退院してから(正社員B)
・1週間以内(契約社員)
・1週間以内(派遣社員)

Q5-1職場は病気に対する理解や配慮をしてくれましたか?
・はい。職場の人達も初めての経験だったので困惑したと思うが、みんなに理解してもらうように検査状況や手術、抗がん剤の副作用などを説明した。(正社員A)
・はい。社長からは、私の働きながら業務をやりやすいようにして良いと言われた。(正社員B)
・はい。(契約社員)
・はい。説明するにあたり、治療スケジュールを作り派遣会社の担当と部署の上司に渡し状況をすべて話した(派遣社員)

参考記事:がん抱え、働き続けるには

Q5-2具体的にどのような理解・配慮を示されたかお知らせください。
・術後エキスパンダーを入れた結果、1ヶ月手が挙げられず、仕事が出来ないのでスタッフに迷惑をかけると思い、理解してもらうために手術内容や術後の事を細かく話した。その後の抗がん剤は、髪が抜ける前に短く切りウィッグをすぐ被って誰が見ても違う人物になっていたと思うが、私自身が隠す事なくそのままを伝えていたので気持ちは楽だった。身体が辛い時は、辛いと正直に言っていたので、まわりのスタッフにずいぶん助けてもらった。(正社員A)
・1週間入院すること、退院後の治療が病理結果次第となるため、確かな予定が立てられないことを考慮し、仕事をすべて新担当に引継ぎさせていただいた。(契約社員)
・抗がん剤の副作用で空腹時に気持ち悪くなると伝え、昼休憩以外でもおやつタイムを取らせてもらった。
放射線の時は朝一番での照射だった為、遅刻になると伝えたら、時差出勤扱いにしてくれた。(派遣社員)

参考記事:職場に社員がんの社員がいると分かった時、会社は、上司・同僚はどうすればいいのか

がん診療連携拠点病院は全国に約400箇所あり、院内にがん相談支援センターが設置されている。センターは、医療費や就労など幅広い患者の悩みにがんのエキスパートである職員が答える窓口。地域の人の電話相談にも応じている。治療方針はもちろんのこと、就労問題についても無料相談ができるので積極的に利用したいが、認知度は想定外に低いようだ。

参考記事:がん相談支援センター、「認知度の低さ」が最大の課題

Q6-1自分の体験から、罹患しても仕事は続けるべきとお考えですか?
・はい(正社員A・フリーランス・契約社員・派遣社員)
・本人次第だと思います。化学療法での副作用は、個人差があるので就業が難しい場合は、休職や時短での就業。また、投与日を木曜や金曜にして、週末ゆっくりして月曜から出社など、就業形態を工夫する等。退職は、極力避けた方が良いと思う。(正社員B)

Q6-2それはどのような理由からでしょうか?
・仕事が自分の励みになった。自分の中で、抗がん剤治療を受けていても、ウィッグを被ってお化粧すれば、誰も私をがん患者だと思わない、こんなに元気に仕事できますよ、と自分に言い聞かせていた。業務をこなすことで現実逃避が出来ていた。それも周りの人の理解があってこそ。(正社員A)
・1)やるべきことがあると病気のことばかり考えずに済むから
2)治療にはお金がかかるので安心材料として
3)社会から必要とされているとの実感から自己肯定感が向上するので
4)一度離職すると治療後同じポジションに戻れない可能性もあるので(フリーランス)
・会社員は各種保険などかなり優遇されていることがわかったため。辞めることはいつでもできるが、罹患後の就職活動は難しくなること、そして契約社員でも、病気を理由に契約が更新できなかった場合は会社都合と同等に扱われるなど、自己都合よりも有利な可能性がある。(契約社員)
・社会との関わりを続ける事で前向きになれたと思う。仕事を辞めて実家に帰ってきてもいいよと母に言われたが、その形を取ったら社会復帰はできないと感じたから(派遣社員)

治療が一段落しいざ求職活動を始めた時、身に染みてわかったことは『健康に問題がある人を、企業は積極的に雇用しない』ことである。
つい最近、以前に登録した転職エージェントから接触があった。近況として『がんに罹患し仕事のブランクがあること』『経過観察中であり、定期的な通院が必要なこと』のありのままに伝えたところ、案の定の返答であった。外資系企業を得意とするエージェントのため、担当者は外人であったが、日本語に直訳すると「元気になってよかったですね。しかしながらフルタイムで働ける人材を探しているため、あなたの現況とマッチしませんでした。今後のご活躍をお祈りしています」といったところか。数週間に1回の通院も許してくれない現実は、企業側からしてみれば当たり前なのかもしれない。ただサバイバーとしていえることは、社会人としての復帰を拒絶されたような、決して気持ちの良いものではない。

Q7. 現在「がんと就労」の両立問題が注目されていますが、ご意見はありますか?
・罹患者に対する対応は企業によると思う。その職場の勤続年数も関係あるのではないか。
現実問題としては、治療にはお金がかかる。無職になってしまうと、病気以外の不安も抱えることになる。やはり、きちんとまわりに理解してもらう事が大事かなと思う。病気によってできる事、出来ない事を伝えないと、自分も周りもどうしたらよいかわからないのではと思う。
まずは、上司、同僚、家族、友人、誰か1人でもよいので、自分の気持ちを伝えて欲しい。1人で抱え込んで考える事だけは避けてほしい。(正社員A)
・これからは、病気に限らず介護なども問題になって来ると思う。
世の中や職場にある程度の余裕があると、理解も得やすいと思う。しかし余裕がないと難しいと感じる事もある。患者サイドも理解を得られるような話し方、立ち回り方も必要かとも思う。(正社員B)
・がんは生存率も向上しており、罹患=退職ではなく、罹患後も就労の継続の必要性がますます高まってくると考えている。
もし就労を望むのであれば、治療をしながらや、罹患歴があっての就労継続のためには、一方的に周囲からの理解を期待するのではなく、患者サイドに理解を得る努力も必要であると思う。
通常、自分が罹患してみないと、病気の詳細や治療内容などは分からない。患者である自分に何ができて何ができないのか、できないことのかわりに相手に提供できるメリットはあるのか、希望することはなんなの
か、などを具体的に伝え、交渉するコミュニケーション能力が必要とされるかと思う。
治療に加え周囲に気を配ることはしんどいこともあるかと思うが、乗り越えれば金銭的メリット、協力してくれる仲間の存在、やりがいのある仕事など多くのものが得られると思う。(フリーランス)
・告知してくださった医師が、「仕事はやめる必要はありません」とおっしゃったのでよくわからないけど辞めなくても治療できるらしい、と意識にインプットされた。
心が大変弱っている状況でしたため、この一言が無かったら仕事をやめていたかもしれない。告知時に患者さんに伝えるべきメッセージをマニュアル化し、口頭のみならず、必要な心構えをまとめた小冊を渡すなどの対応が必要だと思う。医師に時間が無くても、看護師さん、ケースワーカーさんが対応できるのでは?また、専門家でなくとも、資格制度を整備してピアサポーターの人材を活用するなどできるはず。特に乳がんは働き盛りの年代の罹患率が高く、離職問題は社会的にも大きな損失になっているのではないか。(契約社員)
・がんに罹患して辛さがわかったし、仕事を続けている姿を見せる事で「両立が出来る」事を示せると思う。以前、テレビで企業の人事担当者が「がんになった」罹患社員を何人も切り捨ててきた、そして自分ががんに罹患した時、同じように切り捨てられてどんなに不安で大変かを思い知らされた、と語っていたのを見てつくづく難しい問題なんだなと思った。「がん患者だから優しくして欲しい」という考え方も違うと思った。仕事を続けたければ、関わりある人たちにしっかり話し、理解を得る必要がある。何が出来て、何が出来ないから協力して欲しいと伝える必要もある。がんに罹患したことを職場に話したくない人もいると思うが、話せない事で「こんなに大変なのに」と被害者意識を持ってしまうこともあるかもしれない。がん患者の気持ちは家族にも理解できないこともある。そのためにも、患者会などで同じ経験をした仲間とおしゃべりすると気持ちが楽になる手段かもしれない。(派遣社員)

友人達は、離職することなくそれぞれのペースで仕事を続けられていたことは誇らしく感じる。それが可能だったことはご本人達の覚悟ももちろんだが、まわりの理解も得られて全員よいケースの声を聞くことができた。

私の治療開始時に受けた主治医のからのアドバイス、「できるだけ今まで通りの生活を送るためにも仕事は続けたほうがよい」は、できるだけQOLを崩さずに治療と並行して欲しい希望も込められていたのだろう。
自分のかかりつけ病院はがん診療連携拠点病院なので、現在も院内のサポートを最大限に活用することにしている。治療の副作用で生活面で困ったことがあればがん相談支援センターへ電話や駆け込みで話を聞いていただいた。センターにはがんに詳しい看護師が常駐しているので、こちらからの質問に対しては明確な答えを得ることが可能で、場合によっては院内の連携も取り次いでもらえる。
また、定期的に院内でワーキングセミナーを開いており、違う病院へ通院している患者も含め、全4回1ケ月の講座の無料参加が可能だ。このセミナーには、社会労務士、看護師、産業医、ケースワーカーが同席され、最大4名のサバイバーが受講できる。ここでは各方面のプロフェッショナルから直接アドバイスを受けることができ、そのことで社会へ戻る意識も高まり、後押ししてくれるサポーターがいるという安心感を得ることができた。

これからの就業について迷われているかたがいたら、私たちの声が参考になれば嬉しい。企業はスタッフの罹患を理解する義務があり、治療と並行して働くことを継続するにあたり配慮されるべきで、無理のない範囲で生活のリズムを崩さず生活して欲しい。自分の経験から言えることは、仕事を辞めると外出先が病院だけになってしまうこと、社会からの疎外感に陥りがちになること、家にいてもやることは限られてしまうこと、復職は決して平坦な道ではないこと、をお伝えしたい。

東京都は1月に今年度から病やがん患者の復職支援や通院休暇制度を導入する企業への助成制度を全国の都道府県に先がけて導入する方針を固めた。予算案には2億円が計上される見通しだ。まずはこの制度が平等に実施されることを望む。そしてこの動きが全国に広がるよう、願うばかりである。がんは、いまや日本人の2人に1人が罹患するといわれる病気なのだから。

参考記事:働くがん患者が抱える社会復帰への苦悩 「もう戻るところがない」

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