自分の死を考えた時、今をどのように過ごしたいでしょうか?
死と直面した家族、友人、患者さんに私たちはどう向き合えば良いでしょうか?
悲しみの中にいる、大切な人をこれ以上傷つけない為に私たちは生と死について学ぶ必要があります。
10月11日・12日に開催された、日本サイコオンコロジー学会と日本臨床死生学会の合同大会 に参加しました。今回のテーマは「死までの生を生きる」でした。
今回知った事を終末期の時系列でまとめると、(自分の為の)死生観→(医療者、周囲の人の為の)自殺予防→(死後遺族の為の)遺族ケアです。このレポートでは、主に自殺予防と遺族ケアについてお伝えします。
目次
両学会について
日本サイコオンコロジー学会とは…
サイコオンコロジー(Psycho-Oncology)は、「心」の研究をおこなう精神医学・心理学(サイコロジー=Psychology)。「がん」の研究をする腫瘍学(オンコロジー=Oncology)を組み合わせた造語で、「精神腫瘍学」と訳され、1980年代に確立した新しい学問です。
精神腫瘍医、看護師、心理士等専門家の養成や、がん医療における「心」を専門とする活動に取り組んでいます。
(日本サイコオンコロジー学会HPより)
日本臨床死生学学会とは…
臨床の場における生と死をめぐる患者やその家族の精神的な苦痛や問題に焦点をあて、精神的に支え癒すための方策を、医療者や援助者の側の精神的問題をも包摂しながら幅広く研究、実践し、その教育を行うために創設された学会です。
臨床の場における死生をめぐる全人的問題をメンタルヘルスの観点から学際的かつ学術的に研究し、その実践と教育を行うことを目的としています。
(日本臨床死生学学会HPより)
他人事ではない、自殺の問題
私が自殺について関心を持ったのは、AYA世代のがん患者は引きこもりや自殺になる事も少なくないと聞いた事からです。
がん患者が自殺のハイリスクであることが先行研究から報告されています。2015-16年にかけて実施された大規模調査において、精神科病床のない総合病院で発生した自殺事故の49%が、がん患者によるものであったことが報告されています。
事実、院内自殺の一位ががんに罹患した方だそうです。日本サイコオンコロジー学会でも今大会で初めて「自殺」をシンポジウムとして取り扱う、放置しておけない、大切な話題です。患者による自殺は、リスク因子を知り、防ぐこともできるそうです。
リスク因子とは、希死念慮(自殺について考えること)やアルコール・薬物乱用などです。97.8%は精神疾患に罹患して自殺企図(自殺を計画すること)を持つそうです。この精神疾患は、担当医も認知していない事も多いが、精神疾患と名がつく前の激烈なショックも自殺に繋がるそうです。病院の対策として、自殺予防の教育や制度導入、医療者のケアの必要を急がれています。
また、このシンポジウムでは患者さんも登壇されました。ご自身の心理面でのお話は興味深いものでした。
この患者さんは、がん告知を受けてひと月たって初めて医師から「心はどうか?」と精神的な状況を聞かれたといいます。看護師に精神的な状況を聞かれることもあったそうですが、そもそも余程の事がない限り話していいか分からなかったそうです。体の痛みを我慢する時代ではない、躊躇せずに言ってほしいという言葉に救われたそうです。
患者さんからの願いは、当たり前の事だが、「気軽にほんの少しの事でも言っていい」と患者に告げてほしいという事でした。ひと昔前は化学療法でも入院ベースで、看護師等と気を紛らわせる事ができました。現在は外来ベースになり、コミュニケーションの低下から周りに吐ける機会も減少しています。
医療者は、共感力・想像力・やさしさを持つ必要があります。
大切な人を亡くした方へ
次に、遺族ケア(グリーフケア)についてのシンポジウム「子どもを亡くす、配偶者を亡くす~私たちにできること~」についてお伝えします。一般の方にもできる、支え方が分かりました。
遺族ケアはなぜ必要かというと、遺族のQOLの低下、心血管疾患での死亡率・自殺率上昇、精神疾患の恐れがある為です。また、援助を必要としていない遺族には有害であるといわれます。
遺族外来とは、立ち直ることを目的としていません。社会に戻る適応の援助を目的とし、心理・薬物療法が行われます。また保険診療で行われます。
埼玉医科大学国際医療センター精神腫瘍科臨床心理士の石田真弓先生の発表によると、遺族のためを思って良かれと思い言った言葉の8割が有害であり、半数は親族により言われる言葉であることが報告されました。
周囲からの言葉かけで嫌な言葉は「元気そうね、でもこれで…、気付かなかったの?、寿命だったのよ、いつまでも悲しまないで」等で、良かった言葉は「大変でしたね」のみでした。
例えば「元気そうね」という言葉が辛かったという遺族は、「元気なわけがない。頑張ってやってるだけ。亡くなった家族と『元気になったら○○しょうね』と話しており、それが叶わなかったので、元気という言葉がトラウマになっている」と述べたそうです。
他にも「(80歳で死去したので)大往生ね」という言葉も、その人が思って始めてその通りであり、価値の押し付けは辛いという意見もあったそうです。
有害な援助は、「動」的なものです。
アドバイス、回復を鼓舞する、陽気に振舞う、不遜な態度、過小評価(事故より良いよ等)、「私はあなたが分かる」などです。
先生は、分かる?と聞かれるが、分からないが分かりたいので教えて。と聞くそうです。
評価や詮索、押し付けの言葉は遺族を傷つけてしまう事が分かりました。これらの言葉は、死や死別に関する知識不足によるものです。
では有用な援助とはどんなものかというと、「静」的なものです。そばにいる、同じ境遇の人といる、話を聞くなどです。
※下記に子供ホスピス遺族支援チーム「ビリーブ」の詳細を記載。
医療者の役割としては、死亡の原因・病気を理解し、患者に何が起きたのか理解を助けること、思い出を共有することが挙げられます。
遺族の方は、「苦しみを取り除くのを目標としていない。それは子供(や亡くなった)を忘れること。苦しみと共に生きることが遺族の目標。」と語られるそうです。
今学会に参加して
がんに罹患すると、当事者は様々な事を考え、苦しみます。しかし、どこかで自分の大切な人がこの苦しさを経験しなくて良かったという考えも出ます。私は罹患当事者ですが、遺族の方の悲しみは想像しきれません。
今回、このテーマを書くことにとても躊躇いました。しかし、何が一番大切かと考えたとき、悲しみの中にいる人をこれ以上傷つけて悲しませたくないと思い、このレポートをまとめました。
今必要でなくても、いつか大切な人が苦しんでいる時にこの記事を思い出していただき、また各団体様に問い合わせて頂けたら、嬉しく思います。
登場した団体の詳細
・埼玉医科大学国際医療センター精神腫瘍科/精神腫瘍科はがん患者さん、ご家族(ご遺族)の心のケアを行う診療科です。また、がんで愛する人を亡くされた方に対しても必要に応じた治療を提供しており、遺族向けの外来も設けています(遺族外来)。
・鶴見こどもホスピス遺族支援チーム「ビリーブ」/
共通経験者による個別サポート。研修を受けたボランティアが無料で、いつでもだれでも受けられます。サポートを受けたい時間、場所を選べ、患者の院外でも可能。辛いときにすぐに駆けつけてくれる友達的存在ボランティアチームです。
・SORA ( 子どもを亡くした親の会)/『 SORA 』ではお空に子どもを持つ母親同志が集まって、 それぞれの思い出の服でテディベアを作っています。