がん薬物療法の副作用のマネジメント
〜末梢神経障害マネジメントの手引き 2017年版 出版〜
こんにちは、メディカル・プランニング・マネージャーの川上です。
近年、がんの薬物療法の進歩は目覚ましく、ステージⅣの診断を受けた方でも、長期生存している方々にお会いすることも増えました。私が15年前、看護師として大学病院の臨床にいた頃には想像もつかなかった嬉しい進歩です。薬物療法の進歩は、臨床試験によって積み上げられていきますが、そこには、多くの研究者、医療者、患者さん、企業の方、行政の方が関わっています。オンコロも、がんの臨床試験の情報発信や被験者募集で貢献しています。
さて、薬物療法の進歩を患者さんに確実に届けるためには、対象となる患者さんに薬剤を適切に投与することともに、薬物療法によって起こる副作用をしっかりとマネジメントしていくことが重要になります。がんの薬物療法によって起こる副作用には、血球減少のように患者さんが自覚しにくい検査値上の変化と、脱毛や吐気、倦怠感、しびれ、皮膚障害など、患者さんが自覚できる副作用があります。前者は生命に関わりかねないケースもあるので、医師は細心の注意で診ていきますが、患者さんにとって後者は日常生活への影響も大きく、副作用が怖くて薬物療法を拒否する、あるいは副作用が原因で治療を中断する、というケースも生じています。
私は、多くの人々の尽力で達成してきた医療の進歩を副作用がうまくマネジメントできないことで患者さんに届けられないことがないように、と願い、今までにも薬物療法の副作用のマネジメントの大切さを伝える企画を提案・実施してきました。とくに看護師には、貢献できることも大きいと考え、看護師向け月刊誌「ナース専科」とのタイアップ記事、セミナー企画等に取り組んできました。
ところで、日本では、2015年3月に「日本がんサポーティブケア学会(JASCC)」が設立されました(理事長:田村和夫先生)。この学会が設立された目的は、「がん患者に必要な支持療法について学術的活動を行う団体で、多職種が参画するチーム医療のもと、がん治療を安全で効果的に実施するための支持療法を発展させ、学際的・学術的研究を推進し、その実践と教育活動を通して国民の福祉に貢献すること」(学会Webサイトより抜粋)です。
この学会の2回目の年次集会、第2回日本がんサポーティブケア学会学術集会 が、10月27日(金)—28日(土)に大宮で開催されましたが、そこで、「がん支持医療ガイドシリーズ」が発刊となりました。第1号は、「がん薬物療法に伴う末梢神経障害マネジメントの手引き 2017年版」です(金原出版株式会社刊)。
末梢神経障害、とは、主に「しびれ」のことです。白血球減少などの骨髄抑制は一時的なもので、時間の経過や薬剤対応により回復しますが、末梢神経障害は、治療後も長く続くことがあり、患者さんにとっては、物を持てない、料理ができない、ボタンが止められない、ヒールのある靴が履けない仕事に支障が出る等の日常生活上に大きな影響を及ぼします。この本の序文には、「情報の氾濫している現在、このような持続するつらい感覚異常を少しでも軽くしようと、患者・家族、知人は、エビデンスの明確でない『良いと思う治療』を進め、実践することが多い。これらは高額であることも多く、効果が期待できないばかりか、かえって負の結果を招くこともある。」との記載がありますが、医療現場でも、必ずしもエビデンスに基づいた対応ができていないのが現状かもしれません。こうした状況から、この手引き書が出版された意義は大きいと考えます。
JASCCでは、「がん支持医療ガイドシリーズ」の続編として、皮膚障害のマネジメントの手引きの出版も予定されているようです。皮膚障害については、薬剤によっては、効果と相関関係があるものもある一方で、命に直接はかかわらずとも日常生活に大きな影響を及ぼす副作用の1つであり、発刊が待たれます。シリーズが、多くの医療者に活用していだだけることを願います。