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「医療を身近に感じてほしい」高3でがんを経験した、医師でヘヴィメタルバンドのヴォーカルのババロア先生が伝えたいこと。

  • [公開日]2021.04.23
  • [最終更新日]2021.04.01

異色な医師がいる。形成外科の医師として勤務する傍ら、プロの医療系メタルバンド“Anatomy”のヴォーカルとして白衣をまとい激しい曲を歌い上げる。なぜ医師である彼女がヘヴィメタバンドを?そのきっかけや活動に対する想いを伺った。

柳澤:はじめに自己紹介をお願いします。

ババロア先生:普段は形成外科の医師として働き、また医療系ヘヴィーメタルバンドのヴォーカルと作詞を担当しているババロアです。

柳澤:なぜ医師を目指したのですか?

ババロア先生:高校3年の時に父が大動脈解離になって10時間にも及ぶ手術を受けたことがきっかけです。控え室で家族一緒に不安なまま待っていたところ、主治医の先生が「無事に手術が終わりましたよ」と安心を与えてくれました。父親っ子な私に大きな希望や光を与えてくれた“医師”という存在を意識しはじめました。それから数ヶ月して私が甲状腺がんに罹患しました。今度は治療を受けることで、医師の偉大さを改めて感じ、自分も医師になりたいと思いました。

しかし両親とも医師ではなく、病気になる前は医学部への受験も全然考えていませんでした。そんなことから、当時の志望校を変えて、医学部を目指したいと両親を説得し、2浪を経て、入学に至りました。

柳澤:高校3年での進路変更はすごい決断力ですね。どういった経緯で甲状腺がんが発覚しましたか?

ババロア先生:高校3年の時に全身に筋肉痛がでて、身体を触っていくと甲状腺が痛みの元でした。すぐに耳鼻咽喉科を受診し細胞診を行い、甲状腺がんと告知を受けました。私の場合は乳頭がんというタイプで、調べるとそこまで進行が早くないと分かったので少し安堵しました。しかし、両親は“がん”ということで非常に心配をしていました。

柳澤:近年では若い世代のがんがAYA世代と呼ばれるようになって、がんに罹患するとさまざまな問題に直面することが明らかになってきました。ババロア先生の場合はどうでしたか?

ババロア先生:私の場合は分からないなりにインターネットで調べて納得することができたので大きな問題に直面することはありませんでした。しかし両親は思った疑問を主治医に質問できないことが多々ありました。医師に対して聞きたいことが聞けない人もいると高校生ながらに気づくことができました。その体験を医師になった今も忘れないようにしています。

柳澤:確かに患者さんやそのご家族から医師に対して「こんなこと聞いていいのか?」と思ってしまうとの声はよく耳にします。

ババロア先生:いざ私が医師になってみると患者さんの質問に対して「こんな簡単なこと聞くなんて」と思うことは一切なく、自分も患者の立場であった時は分からなかったなと思っています。

柳澤:高校3年生の多感な時期に罹患することによってどんなご苦労がありましたか?

ババロア先生:今思うと精神的に不安定だったと思います。友達は受験でお見舞いに来れなく孤独を感じたり、周りは受験勉強をしていて自分だけ置いていかれる焦りや不安を感じたりしました。治療の最後の方には、世界には私と家族だけしかいないと錯覚するくらいの寂しさを感じる時間が多くありました。

高校3年生の私ですらそのような思いになったので、小児病棟で治療中の子どもたちはより孤独を感じていると思います。というのも私の場合は浪人しても、他にも浪人生はたくさんいます。しかし小・中学生でがんに罹患すると治療に費やす半年や1年は彼らにとって非常に大きなもので、心にも大きな跡を残す出来事だと思います。

柳澤:確かに小児がんの方で治療後の復学がスムーズにいかないケースも聞きます。

ババロア先生:ただ、小さい頃の数年間の遅れは決して無駄ではないと私は思います。私は最終的に2浪していますが、同期の子たちと2年遅れているなとは一切感じませんし、さらに歳を重ねるとより年齢は関係ない気がします。現在治療中の子たちにも取り戻せるんだと伝えたいです。

柳澤:バンド活動についてご紹介いただけますか。

ババロア先生:元々は学生時代にもバンドを組んで活動していました。医学部の卒業を機に、上京しメンバーは変わりましたが、活動を続けています。直近では2020年6月26日にファーストフルアルバムをリリースしました。全ての曲に医療系の要素が詰められています。医療を身近に感じてもらえる内容にして、ヘヴィメタル以外にもアニソン調の要素やバラードの楽曲も入れています。
す。

Anatomy 1st Music Video “Anatomy”

柳澤:我々オンコロもニッチなジャンルですが、女性アーティストによる、小児がん、AYA世代のがん、臨床試験を少しでも知ってもらえるようにと、チャリティライブRemember Girl’s Power!!を実施しています。

ババロア先生:素晴らしい取り組みだと思います。小児がんの子たち、AYA世代のがんを対象にしたチャリティというと“大人好みな企画”が多いように感じます。するとその子たちって自分の好きなものを見つけるチャンスを失ってしまいますよね。実際に私は闘病中にヘヴィメタルを聴いていました。すると「治療中なんだから、静かな音楽を聴きなよ」と周りからは言われましたが、それに従ってたら今の私はないと思います笑

柳澤:医師という大変な職業でのプロのバンド活動について、心掛けていることはあますか?

ババロア先生:医師とバンド活動と二足のわらじ履くため、どちらも中途半端にならないように活動をしています。というのも医師をしていると「医者なのにバンドなんかやって」と医療関係者から言われてしまいますし、バンドをしていると「医者の道楽でしょう」とバンド関係者から言われてしまうからです。

柳澤:どちらも全力で取り組まれているのですね。では最後に医師としてメッセージをお願いします。

ババロア先生:私自身がん治療で孤独や将来への不安を感じました。特に小児の皆さんも同様の思いを抱えていると思いますが、その時間は決して無駄ではありません。それからの人生が長いので今は治療に専念していただき、今もこれからも周りに何を言われても好きなことを好きなだけやってほしいです。

ババロア先生
医療系メタルバンドAnatomyのコンポーザー、ボーカル。大学まで北海道で過ごし、現在は都内の大学病院形成外科医局に所属。

Anatomy 公式サイト
https://anatomyroa.wixsite.com/website-1
Twitterアカウント
@babaroa_anatomy

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がんサバイバー対談:ババロア先生×笠井 信輔〜笠井信輔のこんなの聞いてもいいですか?2021〜
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