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【特集・小児がん拠点病院の現状と課題(中編)】患児と家族が専門性の高い治療とケアを安心して受けられるためには

  • [公開日]2016.08.24
  • [最終更新日]2017.01.23

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 小児がん拠点病院の選定の際、国は個々の医療機関の総合力を重視したため、地域偏在は起きているものの、拠点化によって小児がん医療の中核となる医療機関が明確になるなど利点のほうが大きいと関係者は評価します。半面、拠点病院へのアクセスが不便になり、治療に伴う宿泊費や交通費を捻出できず受診できない家庭も増えています。このような経済的な問題をはじめ、患児や家族を取り巻く社会的な環境を改善していくために、小児がん拠点病院にはどのような取り組みが求められているのでしょうか。

目次

■民間支援団体との連携がトータルケア充実のカギ

 諸外国においても、医療の質を高めて効率化を図る観点から、特殊な医療を中心に集約化が進んでいます。これに伴い、アクセスをはじめ、患者にはさまざまな不便が生じていますが、こうしたことが受診の妨げにならないよう対策を講じている国もあります。しかし、大阪市立総合医療センター副院長の原純一さんは「医療費が逼迫している日本では公的支援は期待できない」といいます(写真1)。そして「宿泊費や交通費など治療費以外のサポートについては民間団体による支援を期待したい」とも。ここ数年、成人のがんにおいてはトータルケアの重要性が示されていますが、小児がん患児とその家族においても成人のがん同様あるいはそれ以上のトータルケアが求められています(写真2)。「公的医療制度の中で運営されるサービスと民間支援団体が提供するサービスが一体となって初めてトータルケアが実現できるのであり、小児がん患児とその家族は安心して治療や療養に専念できるのです」と原さんは示唆します。

 このような理想の体制を構築するには小児がん拠点病院のトップの姿勢が大事だと原さんは指摘します。「小児がん拠点病院の中には民間支援団体が院内で活動することに対して排他的な施設も見受けられますが、きょうだい支援や学習支援、ビリーブメントケア(家族に先立たれた人のケア)など院内の医療スタッフだけでは十分に対応できないこともあります。当院ではこうした分野を中心に積極的に民間支援団体を受け入れています」と原さんは説明します(写真3)。厚生労働省の2015年度小児がん拠点病院の現況報告書では、充足病院数の少ない項目として「患者のきょうだいに対する保育の体制整備を行っている」ことが挙がっています。努力目標ながら、犠牲の大きいきょうだいへのサポートは重要です。この項目をクリアしているのは10医療機関で、3分の1の小児がん拠点病院ではきょうだい支援の体制が整っていません。小児がんサポートに意欲のある民間支援団体といかに連携しトータルケアを充実させていくのか、小児がん拠点病院のトップの手腕が問われています。

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写真1
大阪市立総合医療センター副院長の原純一さん

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写真2
大阪市立総合医療センターでは「こどもサポートチーム」による多方面からの支援を実施。医師、看護師のほか臨床心理士、保育士、ホスピタルプレイスペシャリストがかかわり、毎週チームでカンファレンスを行っている。

オンコロ 小児がん拠点 大阪市立医療センター
写真3
大阪市立総合医療センターの小児科病棟には、小学校高学年以上の子どもたちが落ち着いて勉強できるように患者支援団体の認定NPO法人ゴールドリボン・ネットワークとNPO法人エスビューローから寄付された学習室がある。

■求められる「数的評価」から「質的評価」への転換

 厚生労働省の2015年度小児がん拠点病院の現況報告書によると、小児がん拠点病院の必須要件48項目はすべての拠点病院が満たし、造血器腫瘍、固形腫瘍、脳・脊髄腫瘍のいずれの疾患も拠点病院での診療実績がやや増加しています(図1)。「拠点化されることによって患者の集約化は全体的に少しずつ進んでいるといっていいでしょう。大阪府の場合は拠点病院のほか小児がん医療に取り組む施設は10病院に絞られてきました」と原さんは評価します。そして、拠点化により診療体制の整備に加え、症例数や医療スタッフ数など数的評価も行われたので、次は診療の「質的評価」が大事になってくると示唆します。

 なかでも原さんが注目するのは脳腫瘍の診療です。多くの脳腫瘍の場合、何らかの症状が現れることで発見されるため、治療の緊急性が高く、家族は何の情報も持たないまま、住んでいる地域の大きな病院に駆け込んでしまい、手術で腫瘍が取り切れなかったということがしばしばみられるといいます。なぜ、このようなことが起こるのでしょうか。「欧米では豊富な経験と高度な技術を必要とする脳腫瘍の手術を執刀できる医師は厳格に決められていますが、日本はこのような仕組みになっていないからです」と原さんは説明します。

 小児がん拠点病院が設置された後も状況は変わらず、むしろ逆効果になっていると原さんは感じています。というのも拠点病院の診療実績の要件の中で「脳・脊髄腫瘍は年間2例程度」と定められたことにより、これまで他院に紹介していた医療機関まで手術に踏み切る傾向が強まっているからです。「患者を集約化し最新かつ最適な治療を提供するという本来の目的に従えば、拠点病院間で手術や治療の内容およびその結果をピアレビューする仕組みを作り、質の担保に努めるべきです」と原さんは提言します。

(後編に続く)

第3回小児がん拠点病院連絡協議会資料/平成27年度現況報告書について
図1 出典/国立がん研究センター小児がん情報サービス「第3回小児がん拠点病院連絡協議会資料/平成27年度現況報告書について」

取材・文:医療ライター・渡辺千鶴

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