目次
有効性は時間経過とともに増大
2016年6月3日から7日までシカゴで開催された第52回米国臨床腫瘍学会(ASCO:アスコ)Annual Meeting(年次総会)にて、プログラム細胞死受容体リガンド1(PD-L1)を標的とするがん免疫療法アテゾリズマブの膀胱がん患者に対するフェーズII(IMvigor210、NCT02108652)結果が、ニューヨーク大学・Langone医療センターPerimutterがんセンターのArjun Vasant Balar氏により発表された。
発表申し込み締め切り後にデータが出そろった研究要旨(LBA:Late-Breaking-Abstruct)として発表されたが、記者会見での注目度が高い演題としてASCOニュースリリースでも紹介された。ASCO POSTでは抄録(Abstruct:LBA4500)掲載には間に合わなかった2016年6月5日時点の最新データが掲載された。
試験IMvigor210は米国、および欧州の77施設で2014年5月に開始され、コホート1は転移巣への化学療法の経験がない、またはシスプラチンの治療が不適格とされた局所進行/転移性膀胱がん(尿路上皮がん)患者を登録した。アテゾリズマブ1200mgを3週毎に静注し、固形がん効果判定基準(RECIST)により病勢進行(PD)と判定されるまで継続した。腫瘍に浸潤した免疫細胞のPD-L1発現量を免疫組織化学(IHC)アッセイによりスコア化し(ICスコア0、1、2/3)、有効性評価項目をスコア別に比較した。主要評価項目はRECISTによる全奏効率(ORR)であった。
最新データで75%が奏効持続、最長は1年半超
その結果、有効性と安全性の全解析対象は119人で、いずれも米国で最も典型的な膀胱がんである尿路上皮がんであった。2016年6月5日時点での最新データでは、追跡期間の中央値が14.4カ月、全集団(119人)おけるORRは24%(28人)であった。奏持続期間は最長で18カ月を超え、データ解析時点で75%の患者(21/28人)は奏効を保っていた。
抄録に反映された2015年9月14日のデータカットオフの時点では、奏効した23人中22人の奏効が維持されていたため、ASCO発表申し込み時に奏効持続期間中央値の特定には至っていなかった。また、ICスコアによるORRの差は認められなかった(ICスコア2/3集団(32人)22%、同1/2/3集団(80人)19%)。追跡期間中央値8.5カ月、治療の継続期間中央値15週間においての完全寛解(CR)と部分寛解(PR)と24週以上持続する病勢安定(SD)を合わせた病勢コントロール率は、全解析対象で38%、ICスコア2/3集団で44%、同1/2/3集団で40%、無増悪生存(PFS)期間中央値はそれぞれ2.4カ月、2.9カ月、2.3カ月であった。
アテゾリズマブの忍容性は全般に良好で、重度の有害事象は全体のわずか10~15%に発現したに過ぎず、毒性を理由とする治療の中止率は、カルボプラチンを含む化学療法で約20%とされているのとは対照的に、アテゾリズマブではわずか6%であった。しかも、ほとんどの患者はアテゾリズマブの治療で副作用がほとんど、または全く発現しなかった。このことから、免疫療法は化学療法よりもずっと忍容しやすいと考えられ、特に、この安全性のレベルは高齢患者にとって極めて重要である。
米国で迅速承認、泌尿器がんで初の免疫チェックポイント阻害薬
米FDAは2016年5月、膀胱がんの一種の尿路上皮がんを対象に、ロシュ社のアテゾリズマブを迅速承認した(商品名Tecentriq)。FDAによる画期的治療薬、および優先審査の指定を経て迅速承認に至った。適応症は、局所進行または転移性尿路上皮がんでプラチナ製剤を含む化学療法後に進行したか、あるいは術前・術後化学療法後の12カ月以内に進行した患者に対する二次療法である。
関連記事:膀胱がん FDA(米国) 免疫チェックポイント阻害薬PD-L1抗体アテゾリズマブ 承認
免疫チェックポイント阻害療法はPD-1、またはPD-L1に結合する抗体を用い、抑えられていた抗腫瘍免疫を回復させる治療である。がん細胞が発生すると、T細胞に発現しているPD-1とがん細胞に発現するリガンドPD-L1が信号をやり取りし、抗腫瘍免疫を司るT細胞からのがん細胞への攻撃にブレーキがかかる。アテゾリズマブは、このチェックポイントとして働くPD-1とPD-L1との相互作用を阻害するため、がん細胞のPD-L1に結合するように設計されたモノクローナル抗体である。
膀胱がん治療に大変革の可能性、高齢患者の安全性強調
ASCO膀胱がん専門家Charles Ryan医師のコメントがASCO展望で強調された。「アテゾリズマブを含む免疫療法は、これまで10年以上にわたり進歩がなかった膀胱がん治療に新たな勢いを持たせた。以前であれば治療の選択肢がほとんどなかった高齢患者にとって、安全性が担保されることはより一層の励みとなる」
試験IMvigor210の全解析対象(119人)の年齢中央値は73歳で、80歳以上を21%が占めていた。71%の患者は腎機能の指標となるクレアチニンクリアランスが60mL/分未満で、66%の患者は内臓転移があった。年齢だけでなくその他の条件も含め、かなり神経を使う治療であったことは間違いない。
膀胱がんは成人のがんの中で5番目に多く、患者数は米国内で7万7000人、全世界では45万人(2012年)である。診断時平均年齢が70歳であることから高齢者に多いがんといえる。初回治療の標準はシスプラチンを含む化学療法で、生存期間中央値は12~15カ月とされるが、進行した膀胱がん患者の30~50%は、加齢や腎機能の低下、あるいは他のすでにある医療状況によっては、安全な選択肢とは言い切れない。その場合はカルボプラチンを含む化学療法を受けることになるが、生存期間中央値は9~10カ月にとどまる。
記事:川又 総江
リサーチのお願い
この記事に利益相反はありません。