2017年6月2日から5日まで開催された米国臨床腫瘍学会(ASCO2017)で、米国医療保険制度改革法(ACA)、いわゆるオバマケアが導入されて以降、スクリーニングで検出可能ながんは、以前と比べ早い病期(ステージI)で発見されるケースが増えたとする調査結果が発表された。本発表は、ASCOに先立ち、5月17日に6つの重要な演題としてプレスリリース公開されている。
約27万3000人を対象とするオバマケア以後初めての大規模調査
米国がん協会(ACS)のXuesong Han氏らは、全米の病院からの患者登録データベース(National Cancer Data Base[NCDB])を用い、2013年から2014年にがんスクリーニングを受けた非高齢者の診断状況を調査した。早期スクリーニングで検出可能な乳がん、大腸がん、子宮頸がん、前立腺がん、および肺がんの5つのがん種について、オバマケア以前、および以後のスクリーニングで、がん種別の検診適齢期の被験者にがんが発見された時、病期がステージIであった患者の割合をそれぞれ算出した。なお、NCDBには毎年、新たながん患者の70%が登録され、データが蓄積されている。
オバマケアが完全実施となったのは2013年末から2014年のため、オバマケア以前の調査期間を2013年1月から9月、以後の調査期間を2014年4月から12月とし、2013年10月から2014年3月までの期間は移行期、あるいはウォッシュアウト期間と位置付けた。各がん種の期間ごとの有病率(PR)を計算した。
がん種別調査対象は次のとおり。
・乳がん :40歳から64歳 12万1855人
・大腸がん :50歳から64歳 3万9568人
・子宮頸がん:21歳から64歳 1万1265人
・前立腺がん:50歳から64歳 5万9626人
・肺がん :55歳から64歳 4万1504人
その結果、オバマケア以前から以後の病期ステージIの患者の割合は、乳がん(47.8%から48.9%へ)、大腸がん(22.8%から23.7%へ)、および肺がん(16.6%から17.7%へ)がオバマケア以後に有意に増加し、有病率(PR)はそれぞれ1.02、1.04、1.06であった。子宮頸がん(47.2%から48.7%へ)は統計学的有意差には達しなかった(PR=1.02)。オバマケア以後の方が低下したのは前立腺がんのみで(18.5%から17.2%へ、PR=0.93)、この結果は、米国予防医学専門委員会(USPSTF)が最近、ルーティンの前立腺がんスクリーニングを推奨していることからも頷ける。
「医療保険が導入される前の過去の調査では、治療可能性が低くなるより遅い段階でがんと診断されるのが典型的であった。今回は、オバマケア導入以降の日が浅いため、極めて短期間の調査結果であるが、4つのがん種ではステージIと診断された患者の割合が1%程度増加している。複数のがん種が病期ステージIの早い段階から診断されている事実は、がんの予防・ケアの観点から好ましい傾向といえる」とHan氏。
オバマケアにより、がんの診断ステージの早まりが短期的な効果か、あるいは継続的な効果になるかは注視する必要がある。Han氏らは今後も継続して追跡するとともに、上記5つのがん種以外のがんにも調査対象を拡大し、より一般化している患者データベースにおけるパターンも解析する計画である。
記事:川又 総江
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