2018年11月1日、医学誌『The International Journal of Radiation Oncology』にて少数転移(oligometastases)を有するがん患者に対する定位放射線治療(SBRT)+標準化学療法(SoC)の有効性を検証した第II相のSABR-COMET試験(NCT01446744)の結果がLondon Health Sciences Centre・D.A. Palma氏らにより公表された。
小数転移とはオリゴメタとも呼ばれ、全身的な画像検査で明らかに認められる転移巣の数が少ない状況を意味する場合が、厳密な定義があるわけではない。今回の試験では1~5個の小数転移と定義している。定位放射線治療とは、一般的には“ピンポイント照射”として知られているものであり、放射線を6-8方向から1点に集中して治療し、従来よりもはるかに多い線量を4-10回程度の少ない回数で照射する治療法のことである。
SABR-COMET試験とは、ECOG Performance Statusスコア0~1、予後6ヶ月以上の1~5個の少数転移を有する がん患者に対して定位放射線治療(SBRT)+標準化学療法(SoC)を投与する群(N=66人)、または標準化学療法(SoC)を投与する群(N=33人)に1対の2の割合で無作為に振り分け、主要評価項目として全生存期間(OS)、副次評価項目として無増悪生存期間(PFS)、安全性、FACT-G測定によりQOLスコアなどを比較検証した国際多施設共同の第II相試験である。
本試験が実施された背景として、少数転移を有するがん患者は手術、放射線療法などにより治癒に至る可能性があるにも関わらず、その有効性、安全性を証明した無作為化試験のエビデンスが欠けているためである。以上の背景より、SABR-COMET試験が実施された。
本試験は2012年2月より2016年8月まで実施され、合計99人の患者が登録された。本試験に登録された患者背景は以下の通りである。年齢中央値68歳(43-89歳)。性別は男性59%。がんの種類は乳がん18人、肺がん18人、大腸がん18人、そして前立がん16人。転移個数は92人の患者が1~3個。なお、両群間で患者背景に大きな偏りはなかった。
以上の背景を有する患者に対するフォローアップ期間中央値27ヶ月時点における本試験の結果は以下の通りである。主要評価項目である全生存期間中央値は定位放射線治療+標準化学療法群41ヶ月(95%信頼区間:26ヶ月-未到達)に対して標準化学療法群28ヶ月(95%信頼区間:19-33ヶ月)、定位放射線治療+標準化学療法群で事前に設定した有意水準である0.20を上回る改善傾向を示した(P=0.09)。
副次評価項目である無増悪生存期間(PFS)中央値は定位放射線治療+標準化学療法群12ヶ月(95%信頼区間: 6.9-30ヶ月)に対して標準化学療法群6.0ヶ月(95%信頼区間: 3.4-7.1ヶ月)、定位放射線治療+標準化学療法群で約2倍の無増悪生存期間(PFS)の延長を示した。
一方の安全性として、グレード2以上の治療関連有害事象(TRAE)発症率は定位放射線治療+標準化学療法群30%に対して標準化学療法群9%を示した(P=0.022)。
また、定位放射線治療+標準化学療法群で発症した主なグレード2以上の治療関連有害事象(TRAE)は疲労10人、呼吸困難9人、筋肉・関節痛7人、骨痛6人、その他痛み7人であった。
FACT-G測定により治療開始6ヶ月時点におけるQOLスコアは定位放射線治療+標準化学療法群82.6に対して標準化学療法群82.5、両群間で統計学有意な差は確認されなかった。
以上のSABR-COMET試験の結果よりD.A. Palma氏らは以下のように結論を述べている。”少数転移を有するがん患者に対する定位放射線治療は全生存期間(OS)、無増悪生存期間(PFS)を改善しました。一方、グレード2以上の治療関連有害事象(TRAE)発症率は高率であるものの、患者のQOLに与える影響は標準化学療法群と比べて大きな差は確認されませんでした。”