・HER2陽性の局所進行性または再発転移性唾液腺がん患者対象の第Ⅱ相試験
・ハーセプチン+ドセタキセル併用療法の客観的奏効率等を検証
・抗腫瘍効果は優れ、忍容性も十分である可能性が示唆された
2018年11月19日、医学誌『Journal of Clinical Oncology』にてHER2陽性の局所進行性または再発転移性唾液腺がん患者に対する抗HER2ヒト化モノクローナル抗体であるトラスツズマブ(商品名ハーセプチン;以下ハーセプチン)+ドセタキセル併用療法の有効性を検証した第Ⅱ相試験(UMIN000009437)の結果が国際医療福祉大学三田病院・多田雄一郎氏らにより公表された。
本試験は、HER2陽性の局所進行性または再発転移性唾液腺がん患者(N=67人)に対して3週間に1回ハーセプチン8mg/kg(2サイクル目より6mg/kg)+ドセタキセル70mg/m2併用療法を投与し、主要評価項目として客観的奏効率(ORR;CR、PRを達成として定義)、副次評価項目として臨床的有用率(CBR;24週間以上のCR、PR、SDを達成として定義)、全生存期間(OS)、無増悪生存期間(PFS)などを検証した単群非ランダム化の第Ⅱ相試験である。
本試験が実施された背景として、進行性唾液腺がんに対する治療成績が不十分であるためである。唾液腺がんは悪性新生物の0.2%、頭頚部がんの8%を占める稀な疾患である。この疾患に対しては過去にカルボプラチン+パクリタキセル併用療法の有効性が検証されたが、その治療成績は客観的奏効率(ORR)39%であり、新たな治療方法の開発が必要であった。そこで、唾液腺がんの約30%から40%に発現するHER2陽性を標的にした抗HER2抗体薬ハーセプチンの有効性がある可能性が示唆され、本試験が実施された。
本試験に登録された患者背景は以下の通りである。
・年齢中央値は57歳(38-82歳)、75歳以上は14%(N=8人)。
・性別は男性89%(N=51人)、女性11%(N=6人)。
・人種はアジア人100%(N=57人)。
・ECOG Performance Statusはスコア0が88%(N=50人)、スコア1が12%(N=7人)。
・原発巣腫瘍部位は耳下腺63%(N=36人)、顎下腺28%(N=16人)、小唾液腺9%(N=5人)。
・全身療法の治療歴は1レジメン16%(N=9人)、2レジメン4%(N=2人)、3レジメン5%(N=3人)、4レジメン2%(N=1人)。
・全身療法の治療歴の種類はパクリタキセル+カルボプラチン併用9%(N=5人)、S1単剤7%(N=4人)、ドセタキセル+カルボプラチン併用4%(N=2人)、ビカルタミド+リュープロレリン併用4%(N=2人)、その他21%(N=12人)。
以上の背景を有する患者に対する本試験の結果は以下の通りである。
■主要評価項目である客観的奏効率は70.2%(95%信頼区間:56.6%-81.6%)、奏効の内訳としては完全奏効14.0%、部分奏効56.1%であった。
■副次評価項目である臨床的有用率は84.2%(95%信頼区間:72.1%-92.5%)、無増悪生存期間中央値は8.9ヶ月(95%信頼区間:7.8-9.9ヶ月)、1年無増悪生存率は25.6%(95%信頼区間:13.4%-39.6%)、全生存期間中央値は39.7ヶ月(95%信頼区間:未到達)、1年全生存率は89.0%(95%信頼区間:77.1% to 94.9%)、 2年全生存率は70.2%(95%信頼区間:55.3%-81.0%)、 3年全生存率は58.3%(95%信頼区間:41.5%-71.7%)であった。
■一方の安全性として、全グレードの治療関連有害事象発症率は100%(N=57人)、最も多くの患者で確認された全グレードの治療関連有害事象は貧血91%(N=52人)、白血球数減少89%(N=51人)、好中球減少症88%(N=51人)。
■グレード3または4の治療関連有害事象発症率は89%(N=51人)、最も多くの患者で確認されたグレード3の治療関連有害事象は白血球減少44%(N=25人)、リンパ球数減少26%(N=15人)、好中球数減少18%(N=10人)、発熱性好中球減少症14%(N=8人)、最も多くの患者で確認されたグレード4の治療関連有害事は好中球数減少60%(N=34人)、白血球減少25%(N=14人)。
以上の第Ⅱ相試験の結果より多田雄一郎氏らは以下のように結論を述べている。“我々の知る限り、本試験はHER2陽性の再発転移性唾液腺がんに対するハーセプチン+ドセタキセル併用療法の有効性を検証した初の前向き試験になります。本試験の結果、この治療法は抗腫瘍効果は優れ、忍容性も十分である可能性が示唆されました。”
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