・EGFR陽性の非小細胞肺がん症例に対しEGFR阻害薬は有効な治療法であるが、最終的に耐性を獲得する
・HER2、HER3遺伝子の増幅がEGFR阻害薬の耐性をもたらす場合がある
・EGFR阻害薬耐性患者にHER2、HER3、pan-HERファミリー阻害薬の効果が期待できる可能性がある
2018年11月29日から12月1日に開催された第59回日本肺癌学会学術集会にて、近畿大学医学部の米阪 仁雄氏により「HER2あるいはHER3依存によるEGFR阻害薬耐性肺がんとその治療法の研究」の発表がなされた。
2000年以降、EGFR遺伝子変異、T790M遺伝子変異、ALK遺伝子変異などのドライバー遺伝子の発見により、肺がんの薬物治療は大きく発展した。しかしながら、EGFR阻害薬は非小細胞肺がんなど様々ながん種において有効な治療薬であるが、同治療を行った全ての症例は最終的に耐性を獲得することが問題である。
一方、非小細胞肺がんではT790M変異、結腸直腸がんではKRAS変異等が報告をされているが、その耐性機序は十分に解明されていい。今回発表された研究ではEGFR阻害薬の耐性機序を解明し、がん薬物治療の改善に繋げることを目的としている。
目次
EGFR阻害薬耐性例に対するHER2阻害薬の効果
EGFR遺伝子変異陽性肺癌細胞株HCC827について、抗EGFR抗体セツキシマブへの耐性株を樹立した。そしてこの耐性株に関して網羅的な遺伝子解析を行ったところ、HER2遺伝子の増幅を確認した。HER2遺伝子導入を行った細胞株と行っていない細胞株とでEGFR阻害薬の効果を比較すると、HER2遺伝子導入を行っている細胞株ではEGFR阻害薬では細胞減少が認められず、またERKのリン酸化も持続していた。
この結果、以下のことが予測された。
・EGFR阻害薬耐性例ではHER2からのシグナルが活性化されることで耐性を獲得していると考えられる。
・HER2増幅はEGFR阻害薬耐性例の中で非小細胞肺がんでは10%程度、結腸直腸がんでは4~8%関与していると考えられる。
一方、HER2阻害薬であるラパチニブ(タイケルプ)の併用により、耐性株でも、また臨床でも効果が確認された。
HER2を治療標的とした開発中の薬剤としてHER2抗体とトポイソメラーゼ阻害薬の抗体薬物複合体DS8201sがある。この薬剤は抗体薬物複合体であり、従来のHER2阻害薬抵抗性の乳がん胃がん症例に対しても効果が報告をされており、EGFR阻害薬耐性症例でも効果が期待される。
オシメルチニブ(タグリッソ)耐性株とHER3遺伝子
EGFR遺伝子変異陽性オシメルチニブ(タグリッソ)耐性株に関してはHER2遺伝子の増幅は確認できず、HER3遺伝子の発現亢進が確認された。
オシメルチニブ(タグリッソ)耐性株にHER3を阻害する抗体薬物複合体と投与したところ抗腫瘍効果が確認された。
HER3抗体の抗体薬物複合体であるU3-1402はHER3陽性乳がんの臨床試験で47%の奏効率が報告され、また忍容性も高いとの報告がある。現在EGFR-TKI抵抗性の非小細胞肺がん症例でP1試験が行われている。
pan-HERファミリー阻害剤の効果
HER3阻害薬パトリツマブP2試験のバイオマーカー解析ではへレグリン高値低値で効果を検討している。へレグリンとはHERファミリーのHER3、HER4に結合し、HER2、3、4を活性化するリガンドである。へレグリン低値では効果が無いが、高値ではプラセボ群に比較し有意に無増悪生存期間(PFS)を改善するという結果が報告をされている。
へレグリン遺伝子導入EGFR陽性細胞に対するpan-HERファミリー阻害薬アファチニブ(ジオトリフ)の効果を検討したが、アファチニブはHER2、3、4のリン酸化を阻害し、抗腫瘍効果を示した。現在、西日本がん研究機構(WJOG)ではオシメルチニブとアファチニブを8週毎に交代で投与する交代療法の第二相試験を行っており、治療効果を検討中である。
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