・転移性大腸がん患者における予後予測因子としての遺伝子変異量、マイクロサテライト不安定性を検証
・RAS遺伝子変異やBRAF遺伝子変異同様に遺伝子変異量の低さも予後因子になり得る可能性
・マイクロサテライト不安定性の高い患者群ではアービタックスよりもアバスチンベースの方が予後が良好
2019年3月13日、医学誌『Journal of Clinical Oncology』にてCALGB/SWOG80405試験(NCT00265850)に参加した転移性大腸がん患者における予後予測因子としての遺伝子変異量(TMB)、マイクロサテライト不安定性(MSI)を検証した結果がUniversity of North Carolina at Chapel Hill Eshelman School of PharmacyのFederico Innocenti氏らにより公表された。
CALGB/SWOG80405試験とは、転移性大腸がん患者に対するファーストライン治療としてベバシズマブ(商品名アバスチン;以下アバスチン)+化学療法を投与する群、またはセツキシマブ(商品名アービタックス;以下アービタックス)+化学療法を投与する群に無作為に振り分け、主要評価項目として全生存期間(OS)を比較検証した第3相試験である。なお、本試験の結果は既に公表されてある通り、両群間で全生存期間(OS)の統計学有意な差は確認されていない。
本試験が実施された背景として、大腸がんは米国におけるがん死亡率2位を占める悪性腫瘍であり、この20年間で13個の新規薬剤が新規承認されているが、これら新規薬剤の効果は腫瘍細胞の遺伝子変異等のプロファイルに大きく依存している。そのため、大腸がんにおける個別医療を促進するためにも個々の腫瘍細胞におけるプロファイルを特定し、そのプロファイルに最適な治療レジメンを特定することは臨床的意義がある。以上の背景より本試験が実施された。
本試験に登録された全患者群における患者背景(N=2326人)は下記の通りである。年齢中央値は59.1歳(20.8-89.5歳)。性別は男性58.3%(N=1355人)、女性41.7%(N=971人)。人種は白人81.7%(N=1896人)、黒人12.0%(N=278人)、アジア人3.1%(N=73人)、不明2.3%(N=54人)など。ECOG Performance Statusはスコア0が58.5%(N=1361人)、スコア1が45.5%(N=1039人)、スコア2が36.7%(N=839人)、スコア3以上が17.7%(N=405人)。
原発腫瘍部位は左側55.6%(N=1293人)、右側25.9%(N=603人)、横行結腸7.1%(N=165人)、不明11.0%(N=256人)など。転移部位は肝転移のみ30.3%(N=692人)、肝転移以外もあり69.7%(N=1590人)など。全生存期間(OS)中央値は26.3ヶ月(95%信頼区間:25.4-27.4ヶ月)、無増悪生存期間(PFS)中央値は10.5ヶ月(95%信頼区間:10.0-10.8ヶ月)。
化学療法の種類はFOLFOXが77.2%(N=1795人)、FOLFIRIが22.8%(N=531人)。分子標的治療薬の種類はアバスチン+化学療法が38.6%(N=897人)、アービタックス+化学療法が38.6%(N=897人)、アバスチン、アービタックス+化学療法が22.9%(N=532人)。以上の背景を有する患者における遺伝子変異量(TMB)、マイクロサテライト不安定性(MSI)別の無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)の結果は下記の通りである。
遺伝子変異量(TMB)の高い(>8)患者群における無増悪生存期間(PFS)中央値はアバスチン群12.4ヶ月(95%信頼区間:9.5-20.2ヶ月,N=40人)に対してアービタックス群11.1ヶ月(95%信頼区間:7.8-16.4ヶ月,N=36人)、アバスチン群で病勢進行または死亡のリスク(PFS)を16%減少(HR:0.84,95%信頼区間:0.50-1.39,P=0.490)。また、全生存期間(OS)中央値はアバスチン群34.2ヶ月(95%信頼区間:29.7-51.5ヶ月,N=40人)に対してアービタックス群35.8ヶ月(95%信頼区間:23.7-70.9ヶ月,N=36人)、アバスチン群で死亡のリスク(OS)を14%減少(HR:0.86,95%信頼区間:0.49-1.52,P=0.610)。
遺伝子変異量(TMB)の低い(≦8)患者群における無増悪生存期間(PFS)中央値はアバスチン群11.1ヶ月(95%信頼区間:10.0-13.2ヶ月,N=152人)に対してアービタックス群10.9ヶ月(95%信頼区間:9.2-12.8ヶ月,N=133人)、両群間で病勢進行または死亡のリスク(PFS)は同等(HR:1.00,95%信頼区間:0.77-1.30,P=0.993)。また、全生存期間(OS)中央値はアバスチン群30.3ヶ月(95%信頼区間:25.3-34.3ヶ月,N=152人)に対してアービタックス群26.5ヶ月(95%信頼区間:23.5-35.8ヶ月,N=133人)、アバスチン群で死亡のリスク(OS)を7%増加(HR:1.07,95%信頼区間:0.80-1.42,P=0.662)。
マイクロサテライト不安定性(MSI)の高い患者群における無増悪生存期間(PFS)中央値はアバスチン群9.3ヶ月(95%信頼区間:5.4-29.0ヶ月,N=21人)に対してアービタックス群5.4ヶ月(95%信頼区間:4.1-8.6ヶ月,N=16人)、アバスチン群で病勢進行または死亡のリスク(PFS)を84%減少(HR:0.16,95%信頼区間:0.07-0.37,P<0.001)。また、全生存期間(OS)中央値はアバスチン群30.0ヶ月(95%信頼区間:23.6ヶ月-未到達,N=21人)に対してアービタックス群11.9ヶ月(95%信頼区間:10.3-24.6ヶ月,N=16人)、アバスチン群で死亡のリスク(OS)を87%減少(HR:0.13,95%信頼区間:0.06-0.30,P<0.001)。
遺伝子変異量(TMB)の高い患者群(N=107人)、遺伝子変異量(TMB)の低い(≦8)患者群(N=366人)の比較結果は下記の通りである。無増悪生存期間(PFS)中央値は遺伝子変異量(TMB)の高い患者群12.3ヶ月(95%信頼区間:9.7-15.8ヶ月)に対して遺伝子変異量(TMB)の低い患者群10.9ヶ月(95%信頼区間:10.2-12.4ヶ月)、遺伝子変異量(TMB)の高い患者群で病勢進行または死亡のリスク(PFS)を9%減少(HR:0.91,95%信頼区間:0.72-1.16,P=0.461)。また、全生存期間(OS)中央値は遺伝子変異量(TMB)の高い患者群33.8ヶ月(95%信頼区間:30.1-43.1ヶ月)に対して遺伝子変異量(TMB)の低い患者群28.1ヶ月(95%信頼区間:24.9-31.8ヶ月)、遺伝子変異量(TMB)の高い患者群で死亡(OS)のリスクを27%減少(95%信頼区間:0.57-0.95,P=0.020)。
マイクロサテライト不安定性(MSI)の高い患者群(N=52人)、マイクロサテライト不安定性(MSS)のない患者群(N=755人)の比較結果は下記の通りである。無増悪生存期間(PFS)中央値はマイクロサテライト不安定性(MSI)の高い患者群6.6ヶ月(95%信頼区間:5.7-8.6ヶ月)に対してマイクロサテライト不安定性(MSS)のない患者群11.0ヶ月(95%信頼区間:10.3-11.8ヶ月)、マイクロサテライト不安定性(MSI)の高い患者群で病勢進行または死亡(PFS)のリスクを2%増加(95%信頼区間:0.71-1.47,P=0.912)した。また、全生存期間(OS)中央値はマイクロサテライト不安定性(MSI)の高い患者群21.5ヶ月(95%信頼区間:14.8-26.9ヶ月)に対してマイクロサテライト不安定性(MSS)のない患者群29.5ヶ月(95%信頼区間:27.2-31.7ヶ月)、マイクロサテライト不安定性(MSI)の高い患者群で死亡(OS)のリスクを13%減少(95%信頼区間:0.60-1.28,P=0.491)した。
以上のCALGB/SWOG80405試験における予後予測因子としての遺伝子変異量(TMB)、マイクロサテライト不安定性(MSI)の検証結果よりFederico Innocenti氏らは以下のように結論を述べている。”転移性大腸がん患者さんにおいてRAS遺伝子変異、BRAF遺伝子変異同様に遺伝子変異量(TMB)の低さも予後因子になり得る可能性が本試験より示唆されました。また、マイクロサテライト不安定性(MSI)の高い患者群においてはアービタックスよりもアバスチンベースの治療の方が予後が良好であることも判りました。”
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