7月30日、国立がん研究センターとブライトパス・バイオ株式会社は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因ウイルスに対する予防ワクチンの候補のペプチドを同定したと発表した。
COVID-19は世界的に大流行し、未だ収束の目処は立たず、世界でワクチンの開発が進んでいる。その多くは、ウイルスが細胞に感染する前に補捉することで予防する、ウイルス感染阻止能(中和能)を有する中和抗体の誘導を目指している。COVID-19を引き起こすSARS-CoV-2はスパイク(棘)・タンパク質とACE2受容体の結合部位を認識する抗体が中和能を発揮できると考えられている。しかし、ウイルス感染への免疫反応は、抗体反応だけでなく、ウイルスに対するT細胞(細胞性免疫)反応がキーポイントとなってくる。感染前に中和抗体を誘導するためにはヘルパーT細胞(CD4+T細胞)と、ウイルスに感染した場合にウイルスが増殖しないよう感染した細胞を殺傷するキラーT細胞(CD8+T細胞)がこれにあたる。【図1】ウイルスからの予防において、これらのウイルスに特異的なT細胞を誘導するワクチンの開発が有効であると示唆されている。
これまで国立がん研究センターとブライトパスはがん細胞の遺伝子変異を含む抗原(ネオアンチゲン)に着目したワクチンの臨床応用を目指す共同研究を進めていた。また、これま開発していたワクチンは、がん細胞を殺傷するT細胞(細胞性免疫)の誘導を機序としたものであり、これらの技術を用いてCOVID-19の原因であるSARS-CoV-2に対するペプチドワクチンの候補を同定した。
T細胞がウイルスに反応するために必要なヒト主要組織適合性遺伝子複合体(HLA)の型は複数あるが、今回同定したペプチドは日本人の85%をカバーするHLAに結合するため、日本人での有効性が期待される。
ペプチド製剤は、化学的な合成により製造可能なため大量製造、安定した薬剤共有にも対応できる可能性がある。国立がん研究センターとブライトパスはこの成果を産学での協業も視野に入れ、臨床応用と早期実用化に向けた機会を探索するとしている。
ペプチドワクチンについて
ペプチドとはタンパク質の断片をいう。抗原ペプチドをワクチンとして接種することで細胞傷害性T細胞(キラーT細胞ともいう)を患者の体内で増殖し、ペプチドを提示している細胞を排除する免疫療法の一つ。
HLA(ヒト主要組織適合性遺伝子複合体)について
ほぼすべての細胞に発現し、ヒトの免疫に関わる組織適合性抗原。自他認識をすることが主な役割である。ヒト一人が持つHLAは多くの抗原の組み合わせで構成され、さらにそれぞれが数十種類の異なるタイプを持つため数万通りの組み合わせが存在する。
参照元:
国立がん研究センター プレスリリース
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